第146号(2025年春号)『令和7年度の始まり』ほか
令和7年度の始まり
令和7年度がスタートし、国土交通省が決定した設計業務委託等技術者単価が発表されました。全職種の単純平均で、対前年度比5.7%の引き上げとなったことが明らかとなりました。内訳としては設計業務(7職階)が+5.2%、測量業務(5職階)が+9.3%、航空・船舶関係業務(5職階)が+3.2%、地質調査業務(3職階)が+6.2%の引き上げとなっています。今年度の引き上げによって平成25年度から13年連続の単価改定が実現され、全職種単純平均値が49,570円となり、過去最高値を更新しました。(平成9年度から公表開始以降)
これにより業界の発注額も引き上げられる事となりますので、中小企業が大半を占める補償コンサルタント業界において、人材の確保及び品質の確保・向上につながることを期待しています。
また、補償基準等の改正も行われました。今回は「移転雑費算定要領」及び「営業補償調査算定要領」において一部改正がなされています。
- 移転雑費算定要領の一部改正
2025年4月から施行される「建築物省エネ法」(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)の改正に伴い、原則としてすべての新築建築物で省エネ基準適合が義務化されることとなりました。これにより、省エネ適合性判定手続きが必要となり、建築物等の確認申請手数料に、建築物のエネルギー消費性能の適合性判定(法律第11条第1項に規定)に関連する手数料(同項ただし書きの場合を除く)が追加されました。
- 営業補償調査算定要領の一部改正
e‐Taxの利用率向上等を背景に、令和7年1月から税務署で申告書等の控えに収受日付印を押印しない運用に変更されました。そのため、改正前では「税務署受付印のある書類が原則」とされていたものが、改正後には「e‐Taxの受信通知による書類が原則」と改定されました。また、これまで役員給与は「従業員に対する休業手当相当額」として、他の従業員と合わせて平均賃金の80%を標準として補償を行ってきましたが、役員給与は株主総会の決議によって支給額が定められるものであり、休業期間中に給与が直ちに減額されるわけではないことから、「固定的経費として100%の補償が妥当ではないか」という疑念があり、検討の結果、変更されることになりました。
新年度を迎え、多くの変更がなされていますので、今後もミニコミを通じて皆さまに随時、情報を発信してまいります。
収穫樹の調査
立竹木調査の中には収穫樹という区分があります。一般的な住宅地の調査ではほとんど見られませんが、郊外の農村部や山間部の調査では時々対象となることがあります。
収穫樹の中には、りんご、みかん等の立木で果実等の収穫を目的としている果樹と茶や桑等の枝葉、樹皮の利用を目的とする特殊樹があり、それぞれ集約的かつ計画的に肥培管理を行って栽培している園栽培と田・畑の畦地、原野及び林地等に散在する散在樹に分けられます。
収穫樹の調査は、所有者ごとの毎木又は取得面積による樹種、樹齢、管理の状況等を調査します。
収穫樹の対象品目は、21種類に分類され、伐採補償と移植補償の算定に対応しています。又、収益の出ない2種類の品目が参考として掲載されています。
伐採補償は、下記のような計算式により成り立っています。
- 未収益樹=現在までに要した経費の後価合計額+伐採除却に要する費用-伐採により発生した材料の価格
- 収益樹=残存効用年数に対する純収益の前価合計額+伐採除却に要する費用-伐採により発生した材料の価格
純収益の算定では、最盛時収穫量、標準植栽本数、農家庭先価格、労働費、生産費により計算されます。労働費・生産費は年々上昇しており、庭先価格については過去5年の最大値と最小値を除いた3年の平均値で決まります。
移植補償の計算式は、
- 未収益樹=移植費+枯損額
- 収益樹=移植費+枯損額+移植に伴う減収額
となります。客観的にみて移植補償を行うのが適当であると認められる時に適用します。
果樹の生産では、表作と裏作があり、毎年同じように収穫量が安定しているわけではありません。収穫量が多くても市場価格が下がってしまうと農家にとっては利益が減少します。最近は異常気象で農作物に大きな打撃を受けることも増えており、市場価格の変動も大きくなっています。
収穫樹の中で茶の伐採補償額は、近年毎年減少しており、今後参考掲載になる可能性もあると考えられます。茶の栽培は各地で行われているため、補償対象となることも多々ありますが、再算定業務を行う際には困難になる可能性があります。
調査にあたり、どのような物を収穫樹として扱うか考えることがあります。立竹木の区分には、宅地内或いは田・畑の畦畔にあるものも含まれていますが、そのような場所では直消費されるものが多く、営農目的で栽培されているものは少ないと考えられるので、庭木や風致木として取扱う方が適しているのではないでしょうか。
また、伐採のみを補償するものとしている場合には、その他の立木として取扱うことを考慮しても良いのではないかと思います。
建築設備とは
建築設備は、建築物の中に組み込まれる電気や上下水道、空調などの設備の総称です。
つまり、設備は建築に単純に付帯するものではなく、建物と設備は融合して機能し合い、本来その建築物が持つ機能が十分に発揮されることになります。そして、利用者の健康や安全を守り、作業能率の増進が維持されることとなります。
物件調査の調査員の多くは、学校で建築や測量を勉強してきた人たちだと思います。
設備について専門に学んできた社員を抱えたコンサルは少ないのではないでしょうか。
そもそも、建築設備は分類が多く、得意とするには、各種設備ごとに専門的な知識が必要となります。
しかし、実際の現地調査では、設備を前に考え込んでいては、仕事になりません。そこで、現地では、難しい設備については、おおよその目的や経路、材種、寸法等を抑え、居住者に聞き取りをし、竣工図等と照らし合わせ数量の拾い出しを行います。
算定においては、メーカーの資料や専門業者の助力も必要となります。この時役立つものが各種機器の銘板の記載内容です。機器の銘板等は後から忘れないように、なるべく写真撮影をしています。
以下に、建築設備の主な種類、概要について紹介します。
①給排水衛生設備:個別に給水(給湯)設備、排水設備、衛生設備と呼んだりします。
近年の損失補償算定標準書には、かなりの細かさで種類別単価が掲載されています。また、一部は単価が統計値化されているので積算上は非常に楽になりました。調査時は配管等の材種や径の計測、ポンプ等の能力調査が必要となります。
②電気設備:電気には幹線設備、動力設備、電灯設備、高圧受変電設備、自家用発電機設備、電話設備、放送設備、通信設備、火災報知設備、避雷設備等があり、経路の把握等には専門的な知識の必要なものも有ります。
電灯設備については単価が統計値化されていますが、その他については配線図等を作成して算定する必要がある場合もあります。
また、最近では、太陽光発電を設置した建物も増えました。補償積算上は屋根置きのものは建築設備、その他は機械設備として取り扱うこととなります。
③空気調和設備:冷暖房設備、配管設備、ダクト設備、換気設備、自動制御設備、換気設備、排煙設備などがあります。
冷暖房の方式としては空冷式、水冷式があり、空冷式は室外機、水冷式はクーリングタワーが屋外に設置してあるのが一般的です。
また、冷蔵倉庫などの冷却装置も基本的には空調設備と同じ仕組みです。
現在、空冷式の冷却装置は代替フロンに切り替わっていますが、規制以前に製造されたものなどには、特定フロンも使用されています。業務用冷凍空調機器等の廃棄時にフロンガスの回収、無害化処理が義務付けられています。
④ガス供給設備:ガス会社の本管から引き込み、メーターを経て台所や風呂釜等に供給。プロパンガスでも同様です。
最近の住宅では、メンテナンスの容易さから、ヘッダーで分岐し、床下でホースによりガス栓に繋げられているヘッダー方式が多くなってきたため、床下点検口等の調査が必要となります。
⑤消火設備:屋外消火栓や屋内消火栓、スプリンクラー、ドレンチャー、消火器等。
電気設備の自動火災報知設備と連動する設備もあります。
消火器については、一般的には動産として扱っています。
⑥厨房設備:レストラン・給食施設などの食品加工施設や、住宅等の台所の流し台やガス台など。
補償調査では台所の厨房設備を建築設備、営業用の施設を生産設備として扱う事となります。
⑦昇降機等搬送設備:エレベータ設備、エスカレータ設備、ダムウェータ設備、ラックリフト設備、搬送・搬入等設備。
基本的には建物に固定して設置され、限定的に居住者等が利用するものは建築設備、その他業務用のもの等は機械設備となりますが構造や設置方法などにより検討が必要です。
設備は、利用目的や建物の用途、居住者の生活様式、また機械等の付属等により、補償上算定が変わることもあります。調査時はサイズや型式番号の漏れが無いよう注意が必要です。
というわけで、調査時間が少しばかり長くなることについては、お許しいただければと思います。
高圧太陽光発電設備の補償②
前回、高圧連系の太陽光発電設備の補償について、基本的には構内移転が有利になりやすいということを書きました。一方で、やむを得ない事情により構外移転になる場合について紹介したいと思います。
まず、前回紹介したように発電設備の移設は基本的に認められていませんが、収用に伴う移転は認められています。ただし、この移転についてもいくつか条件があり、特に隣接地への分割移転というのは国の規定により認められていません。この隣接地の基準ですが、資源エネルギー庁の通達では、どこまでの範囲を対象とするかは明確な基準がなく、実際に問い合わせたところでも「審査内容に応じて個別に判断する」程度の回答しか得られていませんが、飛び地でも隣接地対象として認められることがあるので、基本的にはできるだけ離れた場所への移転を想定する必要があります。
そして、分割を行った場合は、実質的に新規に発電所を稼働させることと同じ流れになるということです。移設先の施設は新規に設備IDを取得する必要があるため、所在地の変更申請のみで済む全面構外移転とは異なり、別途、経産省へ新設申請を行う必要があるのです。
そして新規の設置となるため、売電価格は現在の単価を適用します。仮に、残地の施設で20%の減少を回避して売電価格の維持に成功できたとしても、移設したパネル分の売電価格は低下するため、その差額分の損失補償も考慮する必要があります。
なお、この設備IDの取り扱いについては資源エネルギー庁内で何度か改定が行われているようで、今後も変わる可能性があります。
太陽光発電設備の建設ラッシュが落ち着き、昨今ではパネル設置によるデメリット、特に禿山化(森林の劣化)による土砂災害の誘発や廃棄パネルの処分問題が大きくクローズアップされる時代となりました。こうした世相を反映してか、資源エネルギー庁にて事前の説明会実施と周知措置に関するガイドラインが昨年冬に策定されています。
このガイドラインでは発電事業者の変更のみでも住民説明会の開催を行うこととされ、その実施状況を資源エネルギー庁に報告する必要があります。これは高圧・特別高圧では必須とされ、低圧に関しても、設置予定箇所が宅地造成及び特定盛土等規制法や砂防三法、土砂災害警戒区域、自然保護に関する法令、条例等の対象地域内等に関しては説明会の開催が必要で、それ以外でもポスティング等による周知措置が必要です。よってこれに係る費用も補償対象になるであろうと考えられます。
もう一つ忘れてはいけない点は、電力会社の存在です。
送電線への接続に際しては、電力会社より接続工事の負担金の請求があるのですが、太陽光発電設備の増加により変電所の設備を改造せざるを得ない事案が増えており、負担金もここ数年で値上がり傾向にあります。中には億単位の金額を請求されるケースがでているとのことです。
また、負担金は発電設備と電線の接続後に請求されるため、金額が事前に明確にならない点に注意が必要です。補償では同一条件を基本としますので、設置当時の負担金を準用して算定しますが、実際に工事を行った際との金額の差が懸念されます。
最後に、太陽光発電設備の補償は今後も出てくるものと思われますが、現在の基準が数年後も使えるかどうかは不明です。実際、数年前に資源エネルギー庁に伺った質問の答えが、現在では全く違うことがありました。
今なお業界の動きが激しいため、発注者はじめ関係各所との綿密な打ち合わせは欠かせないものと考えます。
土地区画整理事業
古くからの市街地は道路が狭く、複雑に入り組んだ街となっています。土地区画整理事業とは、このような市街地の区画の道路、公園、河川等の公共施設を整備・改善し、土地の街区を整備し、整然とした新たな市街地を作り宅地の利用の増進を図る事業です。
土地区画整理事業では、道路や公園などが整備されていない区域の地権者から少しずつ土地を提供してもらい、公共用地に充てたり、提供してもらった土地を売却し、移転や整備といった事業資金の一部に充当します。
国からの補助金や地方公共団体の助成金、公共施設管理者負担金も活用されます。
道路や公園等公共施設の用地を確保するための「公共減歩」と、事業資金にあてるために売却する土地を確保するための「保留地減歩」があります。
区画整理を行う土地の地権者においては、事業後の宅地面積は従前に比べ小さくなる場合もありますが、整備前の権利を保全しながら事業を行い、宅地や道路をより使いやすい形に整備されます。公園などの公共施設が確保され、土地の区画が整うことにより、利用価値の高い宅地が得られることとなります。
インフラ施設も一体的に整備されるため、治安の向上や災害の防止・被害軽減などにつながります。
土地区画整理事業における特徴は、買収ではなく代替え性のない仮換地への移転となることから、原則として地区外転出はなく地区内に定められます。また、移転後においても建築物が従前の価値及び機能を失わないように「仮換地」という特定された土地の位置、地積、形状、建物の構造、用途、工事費その他の条件を考慮して移転の工法を検討します。
移転の工法は、曳家、再築、改造、除却、復元があります。
移転の手法については建物の棟数、移転・工事の期間、仮換地引継ぎの時期などを条件に、移転の順位と移転の工法を合わせて検討する必要があります。
移転の手法としては「通常移転」、「立体移転」、「直接移転」の他に、仮換地が使用できない状態で従前の建築物を解体撤去し、仮住居を経由し、仮換地が使用可能になった時点で建築する「中断移転」、建築物を仮換地以外の場所に一時的に仮移転し、仮換地が使用可能になってから本移転とする「仮移転」、数棟の建築物を単位として同時期に移転する「同時移転」、同時移転よりも大規模な街区単位等で同時に移転する「集団移転」も考慮する必要があります。
現在受注している業務は「直接移転」と「中断移転」があり、工法も「再築工法」と「曳家工法」があります。多数の地権者がある中で工法の検討をそれぞれ整理し適正な補償金を算定していくことを心掛けています。
交渉業務について
私の昨年の用地交渉業務の経験に基づき、交渉の難しさについてお話しします。
補償業務の一環としての交渉業務は、公共工事などを円滑に進めるために、所有者の方の資産について売買・移転・権利設定などを依頼し、補償契約を締結することを目的としています。
昨年の交渉業務では所有者約50名を対象に権利設定の依頼を行いました。交渉の結果、約半数の25名と契約することができ、一定の成果を上げましたが、交渉の難しさを改めて実感しました。
所有者には様々な方がいるため、同じ内容の説明でも、説明する担当者がAかBかによって結果が異なることがあります。最悪の場合、誤解を招き契約締結に至らないこともあります。単なる言葉の違いだけでなく、声のトーンや身振り手振りといった要素も、相手の印象に大きな影響を与えます。
具体的な例として、交渉が想定外に決裂したケースがありました。初回の説明時には所有者の方の対応が非常に良好でしたが、二回目の交渉時には辞退の意向を示され、こちらも驚きを隠せませんでした。その原因は聞き取れませんでしたが、所有者本人に説明を行いその場で理解を得られたとしても、所有者にとって大事な土地や建物の資産は、所有者のみならず、その家族や親戚が利用することもあります。そのため、説明した内容が全員の承諾を得られなければ、契約締結には至らないことを痛感しました。
交渉業務を行う中で重要だと思ったのは、相手の話を最後まで聞き取り、話の腰を折らないことです。自分の知識があるために、相手の話を遮ってしまうことがあるかもしれませんが、それは契約締結の妨げになる可能性があります。
交渉業務において、補償の根拠となる報告書(専門知識など)は当然大事ですが、報告書の内容が間違っていれば何度でも修正できます。しかし、交渉業務で誤った対応をすると修正することは非常に困難で、交渉決裂につながってしまいます。最近はAI技術がさまざまな分野で活用されていますが、交渉業務での活用は難しいと考えています。人間だからこそ対応できる場面が多く、一度の失敗も許されない業務であるためです。
交渉業務を確実かつ効率よく行うためには、どのような事前準備が必要かを考えます。交渉相手の年齢、職業、居住環境などの情報を収集し、できる限りのイメージを事前に描いておくことが重要です。不測の事態に備えるためにも、さまざまなパターンを用意しますが、当てはまらない場合も多々あります。容易に構えていると失敗を招くことが多いと感じています。
交渉業務は、人と人との関係性が強く影響するもので、何度経験してもマスターするのは難しいと感じています。人の個性は様々で、今後も積極的に経験を重ね、研鑽に努めたいと考えています。