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ミニコミ 2022.02.28

第133号(2022年冬号)『土地評価部門に期待』ほか

土地評価部門に期待

補償業務は、業務の内容によって8部門に分かれ、それぞれの部門毎の補償業務管理士が担当することになっています。そのうちの1部門に土地評価部門があります。

道路建設等インフラ整備のために、公共用地を取得するには、地元への事業説明から始まって、土地の測量調査、買収する土地の評価をはじめ、その土地の上に建物等が有れば物件等の調査や営業調査。また事業を進めるに当たって日照障害、電波障害、地盤変動等に対する事業損失調査。更には補償の説明や用地交渉等の業務があり、それぞれの分野で管理士の資格があります。

これら部門別の補償コンサルの業務量(受注額)は、全国ベースで土地調査30%、物件調査35%、事業損失15%に対し、残り20%の内、土地評価部門は僅か2%にも達しません。我々、補償コンサル業務の中心は「公共用地の取得に伴う…」業務であり、取得する土地に対しては、正常な取引価格をもって補償するのが基本原則となっています。

即ち、取得するのは用地(土地)であって業務の総てに土地価格は係わってくる問題にも拘わらず、土地評価部門業務の発注が2%に満たないのは不思議な気がします。

従来、この土地評価業務は国関係の官庁では標準地に関して不動産鑑定士が鑑定評価を行い、この標準地評価額を基に買収する個々の画地については各筆の評価を用地職員が自ら実施してきた実態がありました。

即ち、土地評価の業務は補償コンサルが実施することなく官側用地職員が実施していたため、補償コンサルの土地評価部門業務が少なかったことは当然なのかもしれません。

しかし、近年、官側用地職員は国、県共に大幅に減少し、多くの用地業務は民間へ発注、更に市町村の自治体にあっては、その用地職員すら存在しない実態が課題となっています。

こうした実態からして、今後は国、県はもとより市町村の公共事業について、我々、補償コンサルが受注できるであろう機会に、所有者不明土地問題の取組みもあわせた土地評価部門業務の受注に対し大きな期待を持っています。

公共用地の取得に伴う業務として、今後、更に土地評価業務が補償コンサルを始め民間へ発注されることを願っています。

水稲の育成と街灯について

以前、水稲栽培の「光害(こうがい・ひかりがい)」の事業損失に関する相談を受け、情報整理したことがあり、備忘として記します。

 

①光害について

環境省ホームページに「公害対策ガイドライン」が示されています。それによると光害とは「良好な「照明環境」の形成が漏れ光によって阻害されている状況又はそれによる悪影響」をいい、狭義には「障害光による悪影響をさす」とされています。

 

②水稲の光害について

当ガイドラインでは農作物への人口光の影響例として「イネは短日植物であり、夜間照明によって出穂遅延が生じる」と記載されています。稲の出穂には一定の暗期が必要であり、乱暴ながら人間に例えて言えば成長期においては一定の睡眠が必要ということです。

稲の光害については学術研究もされており、例えば「発光制御を行った混合LED 夜間照射がイネ出穂に及ぼす影響(照明学会誌/97巻(2013)8A号)」などもあります。

 

③損害の発生について

稲の成長遅延としては、一説には、照明の種類や明るさによって二週間程度の遅延が生じるとのことです。農家としては光害を被った部分だけを遅らして収穫するというわけにもいかないため、一様に刈り取った結果、収量が減となるほか、収穫物の品質にばらつきがあると判断され、買値が落ちるということもあるようです。

 

以上のように、光害というものは一般にあり、その損害も確認されているところではありますが、因果関係認定の面では、そもそも稲作など自然相手のものは毎年の収穫量が一定ではなく、街灯などの光害の影響以外の要因が当然あります。被害の申し出があるからといって収量の変化だけで被害あり、因果関係あり、とすることは単純にはいえません。

一方で書籍「用地取得と補償」によれば、事業損失の因果関係の判定は「起業者が行う」ものとされております。一般の訴訟のように被害者が立証できなければ賠償責任なしというものでなく、起業者側が調査し、適切な判断を下す必要があるとのことでした。

調査を通じて感じたことは、街灯や照明による歩行者や自動車の安全と他の利益とのバランスは難しいものがあるということです。

まとめた内容は設計担当者には常識のことかもしれませんが、私は普段、補償業務をしているものですから目新しく、事業損失という観点から、この機会に勉強をしてみたという状況でした。これがどなたかの一助になれば幸いです。

所有者等の確認(その5)

前回(第122号)にてほこら等の所有者について確認の方法を述べました。今回は、境界付近の工作物等の所有者について、一般的な確認方法を記述したいと思います。

調査に行く前には調査対象地の登記簿謄本などで土地の登記名義人を確認します。また、測量図等で調査する土地の場所を確認します。調査では土地所有者の確認を行い、土地立ち入りの了解を得て建物・工作物等の調査を行うことが一般的です。

調査対象地の境界付近では工作物等の所有者がはっきりしない場合があります。工作物等の所有は聞き取りによる確認が一般的ですが、境界に工作物等が重なる場合などは隣接の土地所有者等にも聞き取りを行う必要があります。

聞き取りは工作物等の所有者と考えられる色々の場合を想定して行わなければなりません。片方の所有者の場合、双方の共有の場合、その他変則な場合など。

片方の所有者の場合でも隣接者の確認は必要です。双方の共有の場合でも持分が等分で無い場合もあるので、双方から聞き取り照合する必要があります。また、変則の場合もあるので事例として紹介します。

工作物はブロック塀の共有でした。基礎及び3段目までのブロック積みは共有でしたが、上2段は片方の所有となっていました。別の事例として、基礎から4段目まで片方の所有でしたが、上2段は隣接者の所有となっていました。このように色々なパターンがあると考えられますので、十分な聞き取りが必要です。

工作物の設置された経緯が分かる場合は聞き取りもスムーズに行えますが、古い時代の工作物等では隣接者双方の聞き取りに食い違いが出る場合があります。親の代、先々代になるほどはっきりしない場合があります。特に親戚同士が隣接者の場合、工作物等の所有継承の過程で食い違いが生じる可能性があります。

所有の確認は調査員が決めるものではありません。双方の納得が出来た時点で調査報告書に所有者として記載をしていきます。双方が納得しない場合は発注者(起業者)と協議をしなければなりません。(報告書の作成が出来ないため)

境界付近の工作物は、隣接地(公共部分含む)にはみ出る場合もあります。敷地へ乗り入れるため道路や側溝(水路)にコンクリートで施工した場合などです。特に水路の上を使用する時は、占有許可が必要な場合もありますので、その確認も必要です。

長年、補償調査業務に携わっていますが、補償物件の所有者の正確な把握(確認)は、最も基本的なことです。今後も正確な物件の所有者等の確認には最大限の配慮を尽くしてまいります。

事業損失の事前調査を経験して

今回は私が事業損失の事前調査を経験して感じたこと、調査対象者から受けた反応について記したいと思います。

 

(1)事業損失の事前調査を経験して感じたこと

事前調査をスムーズに進めるためには、まず、調査対象者に対して事前説明会を行い、工事とそれに伴う事前調査の概要について理解していただくことが必要だと感じました。(多くの起業者さんが行っていると思います。)

今回、私が携わった業務では都合により事前説明会が開催されませんでした。そのため調査に先立ち、対象者に挨拶をしましたが、その際、工事自体が行われることを知らず、寝耳に水の状態の方もいらっしゃいました。

また、調査対象者の多くはこれから実施をする事前調査の内容よりも、工事の目的は何なのか、どの程度の揺れが起こりうるのか、実施期間はどれくらいなのか等、工事の内容についての方が気になっている印象を受けました。そのため、調査に先立ち行う挨拶時には、工事の内容について熟知している工事施工業者にも同行していただき、工事とそれに伴う事前調査の内容並びに実施期間を一体的に説明する方がより調査対象者の理解を得られると感じました。

 

(2)調査対象者から受けた反応

調査対象者宅には基本的には①調査挨拶時、②調査実施時、③調査結果の説明時の3回訪問しますが、その時の反応についていくつか紹介したいと思います。

 

①調査挨拶時

建物内に入ること自体に拒否反応を示す方が多い印象を受けました。コロナ禍であるということも相まって単純に人を入れたくないというものですが、調査自体を拒否しているわけではない方がほとんどですので、しっかりと調査内容について説明をすると、入室させていただけました。中には入室してもよい人数を指定される方もいらっしゃいました。

 

②調査実施時

調査実施時はテレビを見る等、他事をやっている方が多いのですが、調査に対してとても興味を示され、1部屋1部屋、調査員について回られる方もいらっしゃいました。勝手に物を触らないか確認するという意味合いもあったと思います。中には、調査が入ったという記録を残したいということで、調査の実施状況を撮影される方もおられました。

 

③調査結果の説明及び確認印の受領時

調査結果をまとめた調査結果報告書を欲しがる方が多い印象を受けました。もし建物等に損傷を発見したとき、調査報告書がないと工事前からあったかどうか判断がつかない等の理由です。基本的には調査結果報告書は調査対象者にはお渡ししないものだと思いますが、個人的には自分が調査を受ける側だったら調査報告書は何かあったときに申し出の材料となりますし、手元に置いておきたいと考えます。

 

以上、事業損失の事前調査時に感じたこと、調査対象者から受けた反応を記しましたが、あくまで半日ないし一日もの時間をいただける調査対象者の協力があってこそ成り立っている業務であることを忘れてはいけないと感じました。

Pray for Japan

この言葉を初めて見たのは、何気なくインターネットでF1の記事を検索していた時でした。それ以来、車体に貼られた小さな「Pray for Japan」のステッカーの画像をパソコンの壁紙に設定していました。

「Pray」という単語を知らなかったのでネットで調べてみると意味は『祈る』。震災を受けた日本に向けて世界中の人たちが祈りを捧げてくれているのです。それからは同じ日本にいるのに何もできない、何もしないでいる自分をもどかしく思いながら仕事に追われる日々を過ごしていました。

そんな中、震災から2年が経過した平成25年に震災復興事業の仕事が舞い込み、その年の10月から20数年ぶりに家族と離れ、単身で岩手県釜石市に赴き約2年、次に福島県相馬市に異動となり約2年、その後は福島市に異動し現在も単身赴任生活は継続しています。

釜石市に赴任した頃は復興事業真っ盛りの頃で市内にアパートもなく隣町の大槌町に一軒家を借りそこに数人で共同生活(今で言うシェアハウス?)をしていました。当時、釜石市の方からは「今時、出稼ぎの外国人さんでも一人暮らししてるよ。」とからかわれたものでした。確かに結婚もして年を重ねてからの共同生活は楽しいことばかりではありませんでしたが、学生時代を思い出してそれなりに楽しく過ごすことができました。

今、思えばどうでもいいようなことでしたが、その頃に気になった点をいくつか挙げると、①食事を作る順番、②それにかける時間、③入浴する順番、④掃除の分担、⑤道路の雪かき等本当に些細な不満?があったように思います。

逆に共同生活で良かった事は、来客等があった際にいつでもすぐに皆で鍋を囲んだりして夜遅くまでワイワイできたことで、寂しさを感じることはありませんでした。

もちろん現在では住宅事情も落ち着き、皆一人暮らしをしています。おかげで共同生活によるストレスは無いものの、一人暮らしの寂しさは拭えません。

家庭の話では釜石市に赴任した当時、上の子は大学生で下の子は高校生でした。思春期も過ぎ落ち着いていたので私がいなくても大丈夫だと思い家族に相談することなく勝手に決めたのですが色々と大変だったようで、事あるごとに東北行きを勝手に決めた事を愚痴られています(笑)。

震災から10年が経過し福島県では、道路や河川・海岸堤防等の復旧・復興事業は概ね完了が見えてきましたが、福島第一原子力発電所の廃炉に関してはまだまだ問題が山積みとなっています。それに加え、令和元年の東日本台風や昨年の2月に発生した福島県沖地震により、まだまだ震災前の落ち着きを取り戻せない状況が続いています。

今後も「Pray for Japan」、「Pray for Fukushima」の気持ちを忘れずにもうしばらく東北の復旧・復興事業のお手伝いを続けていければと思います。

補償って広いな

今年も変わらず新型コロナの蔓延が不穏な状況となっています。

さて、本来ならば事例や研究成果などの紹介をするべきところなのですが、基本に振り返り「補償って何だ」について、思いつくままに…紙面の許す範囲で…。

補償には様々なものがあります。

 

● 土地の取得及び土地に関る所有権以外の権利の消滅に係る補償

基準には「正常な取引価格をもって補償する」とあります。

公共用地の取得においては、税金を使って取得されること、所有者との協議が成立しない場合は土地収用法の適用による取得が可能となるなどの特別な事情があります。

また、取得する土地に所有権以外の権利が設定されている場合、これらを消滅させなければ取得できません。

よって、土地収用法による損失補償の手続きに則った手順が必要になり、我々コンサル等にも仕事がある訳です。

 

● 土地使用に関わる補償

一般的には工事期間中の一時的な搬出入路や臨時道路、工事期間中の資材置き場などに使用するため、土地の利用価値の損失を使用料として補償するものであり、地上権または賃借権を設定し、これらから正常な土地の使用料を算出することになります。

また、土地使用は地表部だけでなく送電線架設やトンネルなど上空や地下に対する損失の補償も発生します。

 

と、ここまで土地の取得等に関して書いてきましたが、実のところこの辺りの業務について、自分は勉強不足の認識大であります。次からがコンサルの最も日常的にかかわる作業となります。

 

● 建物移転料の補償及び移転に伴い通常生ずる損失の補償

土地が公共事業の用に供される場合、事業の内容によっては建物等の「取得」の補償を行うことがありますが、多くの場合、事業に必要なのは土地であるため建物等に対しては「移転料」の補償が行われます。

移転料補償については損失補償基準28条1項に規定されます。同項には「通常妥当な移転先に、通常妥当と認められる移転工法によって移転するのに要する費用を補償するもの」とあります。

つまり補償は、被補償者の個別の事情などに左右されず、社会通念上、一般的で最も妥当性の高い方法により、客観的な費用により行われなければなりません。

物件補償算定業務においては、妥当な移転方法の策定が起業者とコンサルの協議の肝であり、足並みがそろわなければ業務が停滞することとなります。

また、用地交渉において相手方の移転後の希望などに触れることは避けられませんが、補償限度の理解を得ることが、昔から変わらず、最も頭痛の種となる点だと思います。

 

● 営業、農業、漁業に関わる補償

用地取得の際、その土地や建物で営業等を行っている場合の補償となります。

営業補償には「営業休止の補償」「営業廃止の補償」「営業規模縮小の補償」があり、移転期間中の休業による損失を補償する「営業休止の補償」が最も一般的な補償方法となります。

 

その他の補償として

● 残地が狭小になるなどの理由により、その価格の低下、利用価値の減少等が生ずる場合の残地等に関する損失補償

● 立毛、養殖物や造成費用などに対する、その他通常生ずる損失の補償

● 事業の近隣地への影響などに対する、事業損失補償

 

等々、多くの補償がありますが、コンサルと言えどもなかなか経験値の上がらないものも多く、その都度勉強させてもらいながら業務に取り組んでおります。

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