土壌汚染を考える
土壌汚染の歴史
環境問題の1つである土壌汚染は、我が国では古くから色々と問題が発生していた。
例えば、明治時代に足尾銅山による渡良瀬川中流域での鉱毒問題や土壌汚染問題が発生し国会で取り上げられた事。あるいは神岡鉱山から流出したカドミウムなどの重金属は、神通川流域の農地を汚染し農業被害をもたらし、ついにはイタイイタイ病などの人体被害を発生させた事などがある。
近年では、東京都の化学工場跡地で発生した六価クロムによる汚染や三井化学名古屋工場の土壌・地下水汚染など多くの問題が発生している。しかし、明確な健康被害が顕在化しなかったので、市街地土壌汚染対策の法制度化が遅れたが、ようやく2003年2月に土壌汚染対策法が施行された。
土壌汚染の特徴
土壌汚染の原因となっている有害な物質には、次のような特徴がある。
- 水の中や大気中と比べて移動しにくく、土の中に長い間とどまりやすい。
- 目に見えないため、汚染されている事に気づきにくい。
- いったん土が汚染されると、排出を止めても長い期間汚染が続く。
- 人の健康や生態系などに長い期間に渡り影響を及ぼす。
- 汚染の範囲は、水や大気の汚染と比べて局所的である。
- 揮発性有機化合物(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼンなど)は、地下深くまで浸透しやすく、地下水に溶け出して、その流れに乗って汚染が広がる恐れが大きい。また、揮発性が高いため、地層中の空気を汚染し、大気へ放出される恐れもある。
- 重金属(鉛、砒素、六価クロム、水銀、カドミウムなど)は、土の中ではあまり拡散しないでとどまりやすい。
そして、土壌中での汚染物質は、次のような形で存在する。
- 土壌粒子に吸着する。
- 土壌粒子の間隙に地下水に溶けて存在する。
- 土壌粒子の間隙に気化してガス状で存在する。
- 土壌粒子の間隙に原液状で存在する。
土壌汚染についての対策
土壌汚染で最初に大きな社会問題となったのは、農用地の汚染であった。そのため最初は、人の健康を損なう恐れのある農畜産物の生産や農作物などの生育阻害の防止を目的とした「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」の制定が施行された。
同じ土壌汚染でも市街地の土壌汚染は、汚染原因や汚染経路等影響のメカニズムがあまり明らかになっていなかった。それが近年になって、工場跡地の再開発や売却の際、あるいは環境管理の一環として自主的に汚染状況を調査する事業者が増え、土壌汚染の実態が徐々に明らかになりつつある。この事から、環境省が土壌環境基準を設定したり、調査・対策指針を策定するなど土壌汚染による人の健康への影響を防ぐ対策を強化してきた。
次に、環境省が行ってきた対策を示す。
1970年
・公害対策基本法の改正(公害のひとつとして土壌汚染を追加)
・農用地の土壌の汚染防止等に関する法律の制定
1986年
・市街地土壌汚染に係る暫定指針の制定
1989年
・水質汚濁防止法の改正(有害物質を含む水の地下浸透禁止、地下水の常時監視開始)
1991年
・土壌の汚染に係る環境基準の設定(10項目)
1994年
・土壌の汚染に係る環境基準の改正(トリクロロエチレン等15項目を追加)
・重金属等に係る土壌汚染調査・対策指針の策定
・有機塩素系化合物等に係る土壌・地下水汚染調査・対策暫定指針の策定
1996年
・水質汚濁防止法の改正(特定事業場由来の地下水汚染に対する浄化措置命令制度の導入)
1997年
・地下水の水質汚濁に係る環境基準の設定(23項目)
1999年
・土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針および同運用基準の策定
・地下水の水質汚濁に係る環境基準の改正(硝酸性窒素および亜硝酸性窒素等3項目を追加)
2000年
・ダイオキシン類対策特別措置法の制定(ダイオキシン類により汚染された土壌に関する措置)
2001年
・土壌の汚染に係る環境基準の改正(ふっ素およびほう素を追加して計27項目)
2002年
・土壌汚染対策法の制定
2010年
・土壌汚染対策法の大幅改正(土壌汚染対策法の一部を改正する法律全面施行)
土壌汚染が見つかる経緯
最近では、ダイオキシン類や環境ホルモン、化学物質過敏症などの問題を初めとする化学物質に関する報道が増えてきている。また、市民団体等の活動も活発になると共に市民の有害化学物質に対する関心が高まってきている。このような背景の中で土壌汚染が見つかる経緯として次のようなものが挙げられる。
- 当面は土地改変を行わないが、過去および現在の操業状態に関する情報から汚染の可能性があり得る所について自主的に調査した結果、汚染が見つかる場合
- 土地改変の必要が生じ、土壌汚染対策法や地元自治体の条例等にのっとり自ら調査した結果、汚染が見つかる場合
- 地元自治体の周辺土壌調査または地下水調査の結果から汚染源と疑われ、自治体とともに敷地内調査が行われて汚染が見つかる場合
- 地域住民または市民団体等の周辺土壌調査または地下水調査の結果から汚染源と疑われ敷地内調査を求められ見つかる場合
- 地元自治体または地域住民、市民団体、大学等の周辺調査結果がマスコミに報道され、汚染源の疑いがかけられた場合
これらの対応や公表が遅れると「情報を隠していた。」あるいは「誠意がない。」と受け取られ、以後のリスクコミュニケーションが著しく難しくなる事が多いので、情報の収集が不十分でも、その事を明言して早めのリスクコミュニケーションを開始する事が重要である。
次に、リスクコミュニケーションを実施する上で重要な事を示す。
- 企業や行政が早い段階で情報を出す。
- 情報をわかりやすくして出す。
- 住民が意見を言う機会を早い段階で作り、住民は参加する。
- 住民の意見を土壌汚染対策に反映する。
- 冷静に話し合う。
- 相手の話を良く聞く。
- 言いたい事は言う。
土壌汚染による環境リスクの管理
人の健康や生活環境、生態系への悪影響を及ぼす可能性を環境リスクという。そして、土壌汚染の環境リスクの大きさは、暴露量と土が有害な物質で汚染された有害性の程度で決まる。ただし、汚染されている土に触れる事がないとか、汚染された土から有害物質が地下水に溶け出さなかったり、例え溶け出しても汚染された地下水を飲んでいない場合、つまり暴露がないと考えられる場合には、土壌汚染による環境リスクは問題にならない。
[暴露]
汚染された土が手に付いて知らず知らずの内にその土が口の中に入ってしまったり、汚染された土が飛び散って口の中に入ってしまったり、汚染された土から有害な物質が溶け出した地下水を飲んだりして体内に取り入れられること。
[暴露量]
土壌汚染の原因となっている有害な物質を体内に取り込む量(土壌汚染による環境リスク=土の有害性の程度×暴露量)つまり、土の中の有害物質は大気中や水中と比べて移動しにくく拡散、希釈されにくいため、汚染された土や地下水は、人に暴露しないよう遮断する措置を取れば、環境リスクは低減する事が出来る。この措置方法としては、土の有害性の程度や暴露状況に応じて、封じ込め、遮断、浄化(汚染の除去)などがあり、汚染原因者がわかっている場合はその原因者が行い、そうでない場合は、土地の所有者が行う事になる。
また、封じ込め、遮断といった措置をとった場合、まだその土地に汚染された土が残っている事から、土地の所有者は、行われた措置を継続して管理すると共に、土地の掘削などする場合は、汚染が拡散しないような対処をする必要がある。
土地の所有者が何も管理する事なく自由に土地を利用したい場合は、汚染された土を基準以下に浄化する必要がある。