技術レポート

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【解説】減損会計

平成14年8月9日付で、企業会計審議会より「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」が確定・公表され、平成17年4月1日以後開始する事業年度から完全実施される運びとなった。(平成16年4月1日以後開始する事業年度からの適用、もしくは平成15年度末以後の決算からの適用を妨げない。)

 

今般、当該会計基準(以下「基準」という)が設定される事になった背景としては、

 

・固定資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状態において、固定資産の帳簿価額が価値を過大に表示したまま、将来に損失を繰り延べているという疑念が示されている
・その事により、財務諸表に対する信頼が損なわれているという指摘がある
・減損に関する処理基準の不備により、裁量的な固定資産の評価減が行われる恐れがある
・会計基準の国際的調和

 

等が挙げられる。

 

基準では、減損処理について、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で、回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理と定義する。

 

具体的には、

 

減損の兆候 → 減損損失の認識 → 減損損失の測定

 

という手順で処理が行われる事になる。

減損の兆候

・資産(又は資産グループ、以下同様)が使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュフローの継続的マイナス
・使用範囲、使用方法の著しい変化(事業のリストラ等)
・市場価格の著しい下落等の場合

減損損失の認識

将来キャッシュフローが約定されている金融資産と異なり、成果の不確実な事業用資産の減損は、測定が主観的にならざるを得ないため、減損の存在が相当程度に確実な場合に限り減損損失を認識するものとされる。

具体的には、割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損の存在が相当程度に確実とされ、減損損失が認識される。収益性は、本来、将来キャッシュフローの割引現在価値に基づき検討すべきであるが、割引前将来キャッシュフローを判定に用いる事により、収益性の低下の度合いが軽微な場合には、減損損失が認識されない結果となる。

 

また、土地のように収益が永続的に得られる資産について見積期間を制限する必要がある事、長期にわたる将来キャッシュフローの見積りは不確実性が高くなる事から、見積期間は、資産の経済的残存使用年数(資産グループの中の主要な資産の経済的残存使用年数)と20年のいずれか短い方とされた。

 

減損損失の測定

前述のように減損会計は、資産の回収可能性を帳簿価額に反映させる会計処理である事から、減損処理を行う場合には、企業が投資額を回収出来る金額まで帳簿価額を減額する事が適当である。

 

企業は、売却又は使用のいずれかの手段で資金を回収する事が可能であるから、

 

・売却による回収額である正味売却価額
(=資産の時価-処分費用見込額)
・使用価値
(=継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値)

 

のいずれか高い方の金額が回収可能価額となり、この額と帳簿価額との差額が減損損失(=特別損失)と測定される。

 

なお、正味売却価額における時価とは、公正な評価額であり、通常は観察可能な市場価額を言うが、当該市場価格を観察出来ない場合には、合理的に算定された価額がこれに該当するものとされた。

将来キャッシュフロー

減損損失を認識するかどうかの判定、および使用価値の算定に際して見積られる将来キャッシュフローは、減損処理の目的が時価を算定するためではなく、企業にとって帳簿価額が回収可能かどうかを判定するためのものか、企業にとって資産がどれだけの経済的価値を有しているかを算定するためのものである事から、市場参加者の一般的見積りではなく、企業の固有の事情を反映したものでなければならない。具体的には、資産の現在の使用状況および合理的な使用計画等を考慮して見積られる事になる。

 

見積りの方法については、企業の計画に基づき、生起する可能性の最も高い単一の金額を見積る方法が一般的と考えられるが、生起し得る複数の将来キャッシュフローをそれぞれの確率で加重平均した金額を見積る方法も可能とされた。また、利息の支払額、法人税等の支払額・還付額等は、通常、固定資産の使用又は処分から直接的に生ずる項目ではない事から、将来キャッシュフローの見積額に含めないものとした。

 

将来キャッシュフローが見積値から乖離するリスクについては、

 

・将来キャッシュフローの見積りに反映させる方法
・後述の割引率に反映させる方法

 

のいずれも認められるが、減損損失を認識するかどうかを判定する際の割引前キャッシュフローの算定においては、これを反映させるか否かで異なる結果が導かれる事から妥当でなく、当該リスクを反映させないものとした。

割引率

割引率の算定方法に付き基準に特に明記されていないが、前述の将来キャッシュフローの見積りと同様に、減損処理は企業にとって帳簿価額が回収可能かどうかを判定する事等を目的とする事から、割引率は資産固有のリスク等に見合った市場の収益率ではなく、資本コストの平均的な収益率が妥当と考えられる。

減損会計の対象資産

固定資産のうち、他の会計基準に減損処理に関する定めのある資産(例えば金融資産、繰延税金資産)、および退職給付に係る会計基準の評価に関する定めのある前払年金費用は、当該基準の対象資産から除外される。

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