温泉権の評価 その1(特殊評価)
温泉権とは
温泉とは、地中から湧出する温水、鉱水および水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、湧出口における温度が摂氏25度以上、または硫黄やラドンなどの一定の成分を含有しているものを言い、この温泉源(以下「源泉」という)を利用出来る権利が温泉権である。
ところで、別荘地の一部において、源泉から温泉を引湯して利用する権利(引湯権)を付着して分譲される例がみられるように、源泉を利用出来る権利は当該引湯権として把握される場合があり、広義では温泉権に当該引湯権も含まれる。このように、引湯権を含めて温泉権を広義に解釈する場合には、源泉そのものに対する権利を当該引湯権と区別し、これを源泉権もしくは湯口権と称する事が一般的である。
ここでは、人工掘削によって生じた源泉について、当該源泉そのものの価値を把握する事を目的としているので、以下において記述する温泉権とは、源泉権もしくは湯口権と称されるものを意味するものとする。
温泉権と土地の所有権との関係
温泉権は、通常源泉の存する土地の所有権とは別個の権利と考えられる。一般に、源泉を管理・支配する者は、その掘削の時から当該源泉の存する土地の所有者とは別の主体である場合が多く、また当初において源泉を管理・支配する者と当該源泉の存する土地の所有者が同一人であっても、源泉に対する管理・支配権のみが源泉の存する土地の所有権とは別に譲渡される場合もある。したがって、温泉権は源泉の存する土地の所有権とは別個の独立した物権と把握すべきであり、判例も「慣習法上の一種の物権的権利」としてこの旨を承認している。他方、源泉の存する土地の多くは、通常一坪か二坪程度の鉱泉地という名目の土地に分筆されている。
しかし、この鉱泉地は、源泉の存する土地について課税上の便宜から施された課税地目上の分類であって鉱泉地の名義人が必ずしも私法上の取引関係における温泉権者を公示しているものではない。前述の通り、温泉権を取得しようとする者は、その土地の所有権を取得しないで掘削する場合が多く、また温泉権のみが取引の客体となり得るので、温泉権の価値は鉱泉地とは別に把握されるべきものであり鉱泉地の評価額が温泉権の価値を表示しているとは限らない。
なお、平成12年度より、固定資産評価基準および財産評価基本通達が改正され、鉱泉地について、従前のように鉱泉地の基本価額に湧出量指数および温泉地指数を乗じて評価する方法は、廃止された。
温泉権の評価手法
一般的には、
・温泉の掘削等に要した費用(費用性) →原価法
・温泉を利用する事によって得られる収益(収益性) →収益還元法
・温泉の取引価格(市場性) →取引事例比較法
を勘案して求める。
人工掘削によって生じた温泉の経済価値は、
・源泉の掘削について多額の費用を要する事
・湧出する温泉を利用する事によって一定の収益(キャッシュフロー)が得られる事から、評価時点において、当該将来収益(キャッシュフロー)の現在価値(継続使用後の処分価格もしくは残存価格の現在価値を含む)として投資額の回収が見込まれる事
を主として見出され、これらの要素が総合的に斟酌され、源泉自体の取引価格が形成されている場合には、その価格を基礎として経済価値が把握される。したがって、温泉権についても通常の土地等の評価と同様に、費用性、収益性、市場性の3面から評価する事が可能であり、それぞれ原価法、収益還元法、取引事例比較法の手法を適用してその価格を求める事が出来る。
原価法
原価法は、温泉の採掘に要した費用および施設の設置・管理に要する費用(温泉開発者に対する適正な報酬を含む)等を勘案してその価格を求める手法である。
収益還元法
収益還元法は、当該温泉を利用する事によって生ずる収益(キャッシュフロー)を資本還元して温泉権の元本としての価格を求めようとするもので、
・自ら温泉利用施設を経営する場合であれば、当該施設の営業によって生ずる収益を、土地・建物、経営、資本、労働に適正に配分した残余の収益を還元利回りで還元する事。
・その温泉を何口かに分けて有料で供給する(配湯する)場合であれば、その使用料(配湯料)収入から必要諸経費を控除した純収益を還元利回りで還元する事。
によって、それぞれ温泉権の価格を求める事が出来る。
取引事例比較法
取引事例比較法は、温泉権についての取引市場が形成されている場合に、その取引価格を標準として評価する手法である。
このように温泉権の価格は、一般的には以上のような評価方法によって求められた試算価格を比較考量して決定する事になる。
なお、改正前の固定資産評価基準等における鉱泉地の基本価額に湧出量指数および温泉地指数を乗じて評価する方法は、採掘等に要する費用、将来キャッシュフローの現在価値等を適正に評価額に反映させる事が困難であるため、人工掘削による温泉の評価には本質的に馴染まないものと認められる。