技術レポート

補償調査

収用関連情報(事業認定・収用裁決)

圏央道訴訟「住民無視に歯止め」

原告ら抜本見直し要求

 

「圏央道までは必要がないとさえ認められる」「周辺住民に対し、受忍限度を超える騒音被害を与える」。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)インター用地の収用をめぐる裁判。東京地裁の藤山雅行裁判長は、国の道路政策を厳しく批判した。この春に医療訴訟集中部に配置換えとなった藤山裁判長。国に厳しい判断を出す事で知られた「行政訴訟のプロ」の最後の一撃に、原告は喜び、行政側は困惑した。

圏央道インター用地収用をめぐる裁判の全面勝訴判決を受け、原告の地権者らは、東京・霞が関の弁護士会館で、報告会を兼ねた喜びの記者会見をした。冒頭、鈴木進原告団長が「勝訴」と書かれた垂れ幕を掲げると、出席者約100人から大きな拍手がわき上がった。鈴木団長は「判決は住民無視の行政のあり方に歯止めをかけた。被告が圏央道計画そのものを抜本的に見直すよう求める」という声明を朗読。「あきる野の実態を見た、勇気のある、すばらしい判決。思いやりのある、ハートのある裁判長で感激している」と声を震わせた。

原告の1人で、今年1月に判決を待たずに亡くなった中村文太さん=当時(81)の長女、文子さん(53)も「すばらしい判決をありがとうございます」と涙を浮かべた。

吉田健一弁護士は「私たちの求めるものを全面的に認める判断。公共事業や土地収用のあり方に対する指摘を受け止め、欠陥道路を造ること自体進めてはいけないとはっきり認めてくれた」と、判決を評価した。他の原告らからも「被害が出る前に計画が間違っていると判断してくれた」「住民運動を進める者にとってありがたい」と喜ぶ声が続いた。

 

 

揺れる司法判断地権者ほんろう

 

「こんな近くに、なぜインターチェンジがいるのか?」。その疑問に答えた今回の判決に、原告の1人で地権者の坂本孝さん(54)は「一地権者の問題ではない。動きだしたら止らない日本の道路行政の在り方をただす判決だ」と強調する。だが、土地収用のぜひをめぐって、二転三転した司法判断に地権者らはほんろうされた。東京地裁による用地収用執行停止命令を、東京高裁が取り消し。地権者らは今年2月「無用な混乱は避けたい」として、住み慣れた土地からの退去を余儀なくされた。

勝訴を受け、原告側は改めて土地収用の執行停止と、建設工事の差し止めを申し立てる方針だが、ただ一軒残っている中村文太さん宅も5月9日には明け渡しが迫っている。行政側は、今回の判決によって工事を中断したり、原状に戻す義務はない。

日の出-あきる野両インター間の自動車専用道路の工事進ちょく率は96%。国土交通省は残る約80メートルの工事を進め、本年度内の開通にこぎつけたい考えだ。

 

 

公共事業に一撃

 

五十嵐敬喜法政大教授(公共事業論)の話公共事業全体に関する考え方に一撃を加える波及効果のある判決だ。公共性の中身にも踏み込み、圏央道を「必要のない道路」と、国や都の主張をことごとく退けた。「道路といえば公共性があるもの」というのがこれまでの判決だったが、今回は行政全体の敗北だ。公共事業自体が適正である事を土地収用の前提条件と位置付けたり、早期の司法判断が出来る法制度を提言したのはこれまでの判決になかったことだ。今までは高裁、最高裁と裁判が続くうちに事業が完成してしまい、住民は訴訟を起こしても徒労に終わっていた。

 

 

藤山雅行裁判長国に厳しい判決次々

 

原告の訴えをほぼ全面的に認めた藤山雅行裁判長(50)は「行政」に追随しがちと言われる裁判官の中で、国などに厳しい態度で臨む事で有名な存在だった。「エリートコース」と言われる最高裁行政局第一課長を経た、行政訴訟の専門家。2000年4月に東京地裁の行政訴訟専門部(民事三部)の裁判長となり、小田急線高架訴訟、東京都銀行税訴訟などで、次々と行政側の敗訴を言い渡した。

圏央道をめぐっても昨年10月、土地収用の執行停止を命令。「適法性について疑問がぬぐえず、このままでは原告の勝訴に終わる」と、国などに「敗訴予告」までしていた。こうした行政に厳しい姿勢は、原告側に高く評価される一方で、国側代理人の訴務検事らからは「国破れて(民事)三部あり」とやゆする声も上がっていた。

実際、小田急高架訴訟をはじめとする「藤山判決」は、高裁や最高裁で覆される事が多く、内部でも「無用な混乱を招いている」との批判もあった。今月1日付で同地裁の医療訴訟集中部に異動となり、今回の判決が著名な行政訴訟としては最後となった。

 

平成16年4月22日(木)中日新聞夕刊

圏央道事業認定取り消し

あきる野IC周辺土地収用認めず

 

一都四県を環状に結ぶ首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の「あきる野インターチェンジ」(東京都あきる野市)建設に反対する地権者ら約100人が、土地収用に向けた国の事業認定と都の収用裁決取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は22日、請求を全面的に認めた。藤山雅行裁判長(異動のため鶴岡稔彦裁判長代読)は「供用開始によって周辺住民に受忍限度を超す騒音被害が発生する。渋滞緩和という公共の利益にも具体的根拠がない。土地収用法の用件を満たしておらず事業認定は違法」と述べた。

 

「公共の利益根拠なし」

 

自動車専用道路の建設をめぐる土地収用手続きを否定する判決は初めて。藤山裁判長は「都市計画法など個別法に、事業計画の適否を早期に司法が判断出来る訴訟手段を新設する必要がある」と異例の付言をした。

国側は控訴するとみられ、判決確定までは事業を中断する必要はない。

訴えていたのは、未買収の建設用地約8,000平方メートルの地権者と借地権者ら。原告側は改めて収用の執行停止を申し立てる方針。

 

 

圏央道判決の骨子

 

圏央道が事業計画通り建設、併用開始されると、相当範囲の周辺住民に受忍限度を超える騒音被害を与えるのに、事業認定はこれを看過した
浮遊粒子状物質などによる大気汚染の被害発生の恐れがあるのに、確度の高い調査を怠った
圏央道は都心部の渋滞緩和に不要でむしろ解決を遅らせるが、国は具体的根拠もなく公共の利益があると判断した
これらから事業認定は土地収用法の要件を満たしておらず違法
これらの違法性を継承した収用裁決も違法
計画行政全般で、事業計画の適否について司法の事前チェックを受ける制度の新設が必要
判決理由で藤山裁判長は圏央道全体計画について「渋滞緩和には(圏央道の)内側の環状道路2線が建設されれば十分で、圏央道建設にこだわればかえって問題解決を遅らせる」と必要性を否定。「現時点で事業を中止すれば無益な投資の相当部分は避けられる」と指摘した。さらに「大気汚染の被害発生の疑念も払しょく出来ず、相当重大な結果が発生する恐れがある。これらを見過ごし、高度の調査をしないまま事業認定したのは違法」と判断。「具体的根拠もなく渋滞緩和の公共利益があるとした国の判断には過誤欠落があった。違法な事業認定に基づく収用裁決も取り消さざるを得ない」と結論付けた。

原告側は訴訟と並行して都の代執行停止を申し立て、藤山裁判長は昨年10月、これを認める異例の決定をした。だが東京高裁は「回復困難な損害は認められない」と地裁決定を取り消し、最高裁で今年3月確定した。

都は今年1月、代執行令書を発付。原告側は「強制撤去を受けるぐらいなら」と自主的に立ち退きを進め、現在は最後の一世帯が残っている。判決によると、建設相(当時)は2000年、あきる野インター周辺について土地収用法に基づく事業認定をし、都収用委員会は02年に収用を裁決した。

 

 

判決は極めて遺憾

 

石原慎太郎東京都知事の話3月には収用対象地の代執行手続きの停止を求める抗告が最高裁で棄却されており、今回の判決は極めて遺憾だ。今後とも事業推進に国と連携して積極的に取り組む。

 

 

首都圏中央連絡自動車道(圏央道)

 

首都圏を半径40~60キロ、長さ約300キロの環状に結ぶ計画の自動車専用道路。国と日本道路公団の共同事業で総事業費は約3兆円。東名高速、中央道、東北道など放射状に広がる幹線道路との接続で渋滞緩和を図る。鶴ヶ島ジャンクション(埼玉県)-日の出インターチェンジ(東京都)間など約30キロがすでに開通し、2007年度には東北道から横浜市内まで完成予定。

国土交通省は首都高速中央環状線、東京外郭環状道路(外環道)、圏央道の整備により、07年には主要地点の渋滞の約6割が解消出来ると見込んでいる。

平成16年4月22日(木)中日新聞夕刊

尾鷲産廃施設訴訟住民500人の請求棄却

津地裁判決「受忍限度超えない」

 

三重県尾鷲市南浦の産業廃棄物焼却施設をめぐり「水道水源地近くでの操業でダイオキシン類が飛散、流出する恐れがあり、浄水享受権(きれいな水を飲む権利)を侵害する」として、下流域の同県海山町の住民500人が、同市の処理業者「オー・シー・エス」(新宅俊文社長)を相手に、操業差し止めなどを求めた訴訟の判決が22日、津地裁であった。内田計一裁判長は「受忍限度を超えるほどの浄水享受権の侵害はない」として、請求を棄却した。原告側は控訴する方針。施設近くの河川敷に埋められているとする建設廃材を撤去するよう求めた訴えも、有害物質の流出に関する証拠がないとして退けた。

判決では、構造に欠陥はなく、排ガスの測定結果からもダイオキシン濃度が基準値の範囲内と認定。焼却灰を飛散させるなどの不適切な作業があった点を認めつつも、県や市の指導勧告に従い、補修や改善がされていると指摘した。

原告側は、ダイオキシンが発生しやすいなどと焼却炉の設計不備を挙げ、同施設近くを流れる又口川を水源とする住民の浄水享受権を侵害する危険があると主張していた。同施設は、海山町の上水道取水口の上流に隣接。原告団を含む「海山町の水源地を守る会」は1995年12月、建設、操業差し止めの仮処分申請をしたが、本訴訟に切り替えて97年12月に提訴。この間に県の許可を受け、施設は96年6月、操業を開始した。処理能力は1日24トン。

 

 

施設は必要か(原告団長で「海山町の水源地を守る会」会長、古橋和可子さんの話)

 

非常に残念。施設は必要悪として許されたのだろう。司法が信じられなくなるような判決だ。

 

 

今後も適切に運営(被告の新宅俊文オー・シー・エス社長の話)

 

これまでの主張の正当性が認められた。長い裁判だったので嬉しく思う。判決におごることなく、これからも適切な施設運営を図りたい。

 

 

浄水享受権

 

住民がきれいな水を飲む権利。住民が国などの琵琶湖総合開発差し止めを求めた琵琶湖訴訟で住民側が主張したが1989年3月、大津地裁で住民側は敗訴、確定。92年2月、宮城県丸森町の産廃処分場の操業禁止を命じた仙台地裁の仮処分決定で初めて法的に認められたとされる。

日本弁護士連合会は94年10月「清浄な飲料水を享受するための決議」をしている。

 

平成16年4月22日(木)中日新聞夕刊

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