業務実績

補償

【収用損失】ダム堆積土砂撤去事業

概要

集中豪雨によって、約110万m³の土砂がダム湖流入部に堆積した。

 

対象ダムは、完成して30年が経過し、その間の累積土砂堆積量は約400万m³である。すなわちこの1回の集中豪雨によって約10年分に近い土砂が一度に堆積した事になる。また、同時に約4万m³という大量の流木もダム湖に流れ込み、この量は年間平均流木量の40倍にも相当するものとなった。

 

そのため、ダムの安全と維持管理のためにこのダム堆積土砂を撤去する事業が実施される事になったものである。

 

この事業計画では、これまで蓄積されてきた堆積土砂をダム下流に存在する畑や田を中心とする農地地域の農地を借地として、対象地となる農地表土(耕土)をいったん掘削して隣接地に仮置きする。そしてこの掘削した農地にダムで発生蓄積した堆積土砂を埋め立てる。その後、その堆積土砂の上部に仮置きしておいた表土(耕土)を戻すものである。いわば対象の農地地域からすれば農地を嵩上げし、農地を再生させる農地改良事業に似た事業とも言える。

 

そして結果的には、従前と同じ農地として復元回復させ旧権利者へ返還するものであり、農地の権利者からすれば事業期間には耕作として利用(生産)出来ない期間を除けば大きな損失は発生しないものと考えられる。

農地の使用による補償

農地の権利者が農作物を生産する事が出来ない期間の損失の補償として、

 

  • ① 土地の使用による補償(用対連基準第24条)
  • ② 農業休止補償(用対連基準第47条)
  • ③ 土地等の返還に伴う補償(用対連基準第58条)

 

の合計が補償内容と考える。

ダム堆積土砂撤去事業に伴う農地の使用による補償 = ①+②+③

農地の使用料

 

農地の取引事例を参酌し、地域較差および期待利回り等に乗じて借地料を決定する。

 

取引事例 地域較差 対象地価格 利率 借地料(使用料)
水田 ○○ × ○○ = ○○ ○○ = ○○
○○ × ○○ = ○○ ○○ = ○○

 

対象地域は、山間地にあり家族労働が中心で自家消費目的の農地であり、農作物生産のための農地地域にある土地である。

 

そのため、土地価格は都市近郊の農地とは異なり、農地として利用し得られる収益を反映したもので、また取引事例についても同様、農業生産性に基づき形成された地区の価格とされている。

 

 

農業休止補償

 

ダム堆積土砂撤去事業の3年間におよぶ土捨工事期間中、対象農地は農作物の耕作が困難となり、農業の一時中止が発生する。ただし、農業休止補償については基準第49条(農業補償の特例)に規定の如く、土地の使用料価格が農地として利用して得られる平均純利益を資本還元して得た(収益価格)額を上回る価格を前提として決定した場合、すなわち宅地見込地的要素が含まれた価格の場合、農業補償に相当するものの、全部又は一部が当該土地使用料に含まれていると考えられている。

 

したがって、農業補償(営業休止)額から土地の使用料に含まれている農業補償相当額を控除した額を補償するとして、宅地化の影響を受ける地区の農業補償に対しては消極的な判断となっている。

 

しかしながら、対象地区の農地は純然たる農地地域の農地であり、宅地地域への影響は低い。

 

第47条…土地等の取得又は土地等の使用に伴い通常農業を一時休止する必要があると認められる時は、次の各号に掲げる額を補償するものとする。

 

  1. 通常農地を再取得するために必要とする期間中の固定的な経費等
  2. 通常農地を再取得するために必要とする期間中の所得減(法人経営の場合においては、収益減)

土地等の返還に伴う補償

土地の使用期間が終了し、その土地を所有者に返還する場合の損失については、原状回復に要する費用相当額であり、農地にあっては、

 

現況復旧費(境界等復元)+施設の復旧・客土埋戻整地費+地力回復費+減収補償費

を要するものであるが、現況復旧費および客土埋戻整地費については当該事業として現状回復までを工事によって実施する事から不要である。

地力回復費および減収補償費については、農地表土の仮置土期間が3年におよぶ事から耕土の風化等が発生し、また工事の実施に伴う重機等走行によって土壌構造が変化し、通気性、透水性が阻害され、地力の低下をもたらすもので、客土埋戻整地後に雑物除却や肥料等を施し、地力、地味の回復を図る必要がある。

 

また、地力・地味の回復を図ったとしても、営農を開始し土壌が安定するまでの間の減収発生が予測される。

 

 

地力回復(土壌改良)費

 

土壌の改良は、元来の土地生産力を確保するために、作土の理化学的性質を改善するもので、

 

表土の厚さ 25cm以上
有効土層の深さ 100cm以上
表土のれき含量 5%以下
塩基置換容量 20mg/乾土100g
りん酸吸収係数 700以下
石灰飽和度 50%以上
置換性塩基石灰 200mg/乾土100g
苦土25mg/乾土100g
加里15mg/乾土100g
有効りん酸 100mg/乾土100g
pH(H2O) 6以上
置換酸度 3以下

 

を目標としている。

 

こうした地力回復に要する費用は、通常の耕作時の施肥とは異なり、上記土壌改良を目的に表土の雑物の除去、施肥、耕運等作業とともに地力の回復のための施肥・耕運等作業が必要である。

 

しかし、3年間の表土の堆積に伴う作土の理化学的変化による土壌の劣化程度を確定する事は困難であるため、通常の耕作時の施肥に要する費用、具体的には損失補償基準算定書の肥料費を持って地力回復費と認定する。

 

 

減収補償

 

現況の農地の表土をはぎとり一時堆積し、災害による発生土を埋設した後、表土を現況の状態に埋め戻すもので、工事期間は3年間を要する。この間は耕作を休止するものであるが、現況復旧の後、耕作を再開したとしても、ただちに収穫量は従前と同等には回復しないものと考えられる。それは、表土の長期堆積により風化等による土性の劣化、土壌粒子の変化等によって土壌の地力低下が生ずるためである。

 

したがって、堆積した表土を物理的な現状回復のみを行ったとすれば、当然に作物の収穫量の低下が予測され、補償先例にあっても耕作開始1年目60%、2年目30%の減少を認めた事例がある。

 

農業行政において土地改良事業が一般的に実施されている。これは表土をはぎとり、給水排水施設の整備、圃場の区画形質の変更を行い、その後表土を埋め戻す事業であるが、これは農業経営の効率を向上させるとともに、収穫量については土壌の改良を平行して行う事によって作物の収穫減は小さいとされている。

 

農業は土作りが最も重要な要素であるとされており、農業経営の良悪は土作りにかかっているとも言われる。すなわち、当該事業による作物の収穫減が予測されるものの、土壌改良によって収穫減を最少とする事が可能であり、また減収させない事が可能であるとし、減収補償は計上せず、地力回復(土壌改良)費を持って土地等の返還に伴う補償とする事が妥当と判断したものである。

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