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【事業損失】養鶏場

概要

昭和40年代後期、公害に対する国民の関心は、各種の公害訴訟に端を発し大きくクローズアップされ、工事騒音および振動規制法の制定等、建設事業に対しても様々な問題を投じた。加えて水質汚濁、電波障害、日照阻害等についても建設事業の抱える問題として避けては通れない位置を占めている。

建設事業の推進にあたって、価値観の多様化、権利意識の高揚等により、事業に対する地域住民のコンセンサスを得る事は至難の業といえ、住民のわがままな自己主張がまかり通る風潮は嘆かわしくも思います。

しかしこの風潮は以前かつての公共事業において、公共という錦の御旗の下に、事業に起因し発生する被害に対して、住民は我慢を強要された、いわばお上御免の時代があった事を見逃す事は出来ません。わがままな主張が悪しき時代の反動と理解する時、この風潮を強く無視する事は出来ません。むしろ公共事業に係わる者として、住民の対応に真剣に取り組む姿勢が必要と考えます。

今回ここに紹介する事例は、工事により発生する騒音・振動等が養鶏場に対し、

<鶏卵被害>
出荷卵量減(産卵量、産卵率)
品質低下(サイズ、破卵率)

<育成被害>
餌食低下による成長不良
産卵開始時期の遅延

<成鶏被害>
衰弱、能力低下
卵墜によるへい死、廃鶏増
等の被害の発生が懸念されるとして、「事業損失予備調査」(事前調査)、「被害等影響調査」(事中および事後調査)の一連の調査を行い、その結果を分析して、事業損失補償額の算定を行ったものである。

対象養鶏場の営業の概要は、

<営業方式>
採卵養鶏

<飼育鶏種>
シェーバースタークロス288

<飼育鶏数>
19,000~20,000羽(成鶏数)

<卵出荷量>
300,000~350,000kg/年
60,000~80,000千円/年
鶏舎2棟2,400m²(7鶏群ケージ飼育)
堆肥舎1棟 事務所1棟 飼料タンク

今回は養鶏被害とし、トンネル工事前に実施した「事業損失予備調査」について、対象養鶏場の実態および予測した被害とその対応等について紹介する。

一連の業務の流れとして、

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事業損失予備調査

事業損失予備調査は、工事着工に先立って、対象養鶏場の成鶏の飼育状況・卵の出荷状況・財政および営業成績等を事前に把握し、ある程度の被害を予測するとともに、あらかじめ問題点を整理し、被害が発生した場合、適切な対応を可能ならしめるために行ったものである。

飼育方法等の状況

鶏の成長過程は、
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であり、産卵開始は150日齢。産卵成績は成鶏後急速に上昇し、4~5ヵ月間は高水準の産卵が続くが、徐々に下降し13~14ヵ月間を過ぎると急速に低下する。

対象の養鶏場では、ふ化および育すう経営は行わず、130日齢の大すうを7鶏群のうち1鶏群毎、2ヵ月おきに入れ替えを行い、安定した供給を行うため、バランスのとれた構成で経営している。

130日齢の大すうは、産卵開始前の20日間ほど飼育され、環境に慣れた頃から産卵が開始し、約15ヵ月間で廃鶏となる。

経営成績の指標

養鶏経営において、鶏の産卵成績は売上に直接的に結びつくもので最も重要な問題である。

産卵に関する指標は産卵率、日卵量、卵重卵価であり、

産卵率

産卵は1日に1回、早朝から午後3時頃までに行われ、産卵時刻は毎日少しずつ遅れていき、午後3時頃産卵すると翌日は休産する。そして翌日又は翌々日は再び早朝に産卵し、これを繰り返す。休産日数の少ない成鶏飼育が高い産卵率となる。

産卵率=産卵個数÷成鶏数×100(%)

日卵量

日卵量は1日の総生産卵重量を成鶏羽数で除した値である。大羽数飼育の養鶏場では容易に調査可能であり、タイムリーな数値である事から、一般に産卵率よりも日卵量を経営指標として用いられる。

日卵量=総産卵重量÷成鶏羽数

また、産卵率との関係では、

日卵量=産卵率×卵重

過去3ヵ年の卵出荷量調査および畜産試験場の調査資料から、並びに産卵成績が温度等変化による季節的変動を有している事から対象養鶏場の通常の産卵成績を以下の如く設定した。

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卵重

卵重は、産卵開始して1ヵ月位は急速に増加し、その後徐々に増加を続ける。週齢が進むと卵重は過大になり、卵質も悪くなる。

卵価

卵価は、取引市場における季節的な変動と重量規格別卵価の動き方にある。一般的な傾向として、春期から夏期にかけては卵価が低下し、秋口から春先にかけては向上する。産卵調整は、養鶏経営の重要ポイントとなるものの鶏が1日1個産む生理現象をコントロールする事は不可能であり、雛導入の時期、光線管理、制限給餌等の管理によって最大利益の追求に努力している。

被害の予測

家畜としての鶏は、

  • 飼養条件
  • 衛生条件
  • 環境条件

を整備し適正に管理する事により、効率の良い生産を達成する事が出来るものであるが、騒音や振動等のストレスを受ける事により生ずる影響は、

  • 食欲の一時的不振
  • 呼吸数・心拍数の変化
  • 卵下墜の発生
  • 軟卵血斑卵の増加

が考えられる。

これらの刺激に対する鶏の反応は一般的には一時的であり、その大きさは次第に減衰し慣れることより、その影響は小さくなると考えられる。

しかし、騒音や振動が管理者としての人間に及ぼす影響は、間接的に家畜にもその効果を及ぼし、管理者に対するストレスは家畜にもストレスを与え生産効率低下を招来する事がある。工事にあたって、騒音対策については80dbを目安とする必要がある。

ただし、これ以下の騒音にあっても突発的なもので鶏にショックを与えたりすると卵胞閉鎖を引き起こし、一時的に休産する事がある。

以上、騒音振動等により生ずる影響は、対象養鶏場へその結果としてあらわれる被害が、

  • 鶏卵出荷量減少
  • 廃鶏増

であり、それに伴う収益減および経費増等が発生する。

工事開始に備え、その対策等

被害予測を踏まえ、工事に対する対策および被害補償に備え以下のような措置を講じた。

工事に対する対策

<発生源対策>

発生源対策としては、坑口附近に遮音壁を設置するとともに坑口は二重扉とし、工事時間についても、大多数の鶏が卵を産む朝8時から9時の時間帯は鶏に最も悪影響があるとして、極力衝撃的な騒音等が発生しない作業とする事とした。

<鶏舎側対策>

発生源における対策を行い、なお伝播する騒音等については、防音壁を設置する事とした。

補償に備えて

被害補償に備えて、被害額の算定およびその因果関係を明らかにするため以下調査を実施する事とした。

  • 発破時の騒音振動測定
  • 鶏群毎の卵出荷重量、個数および価格
  • 死亡鶏数
  • 飼料消費量およびその価格
  • 気象観測資料等

以上が、工事開始に先がけて行った「事業損失予備調査」の内容であり、この調査を踏まえて、工事開始とともに「被害等影響調査」を実施したものである。

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