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ミニコミ 2022.05.27

第134号(2022年春号)『様々な課題を乗り越えて』ほか

様々な課題を乗り越えて

コロナ感染が我々の生活行動を制限することになって、既に2年以上が経過しています。そして、感染者数は一向に減少せず国民総てがこれまで経験したことのない不安な生活を余儀なくされています。

補償コンサルタント業務では発注者との打ち合わせ、権利者との関係等、人との接触そのものが仕事ともいえる業務です。マスクと消毒は欠かせません。

また、職場では換気等社内環境の改善、時間差出勤や事務所内の「密」を避けるためのテレワーク採用等、社員の働き方を根本的に見直すことさえ必要となっています。感染恐怖のなかで、このような制限を受けての不安な生活は、これまでに経験したことがありません。

そして更に次には、今年の2月。

ロシアによるウクライナ侵攻は現実のものになっています。小さな子供達が戦火のなかで泣き叫ぶ、その悲惨な状況がテレビでリアルタイムに放映されています。平和だと思い込んでいたこの時代に、こんな惨いことがこの世の中で現実に起こっているとはとても信じられません。

コロナ騒動が始まってからの数年間、これ程衝撃的な時間が続く経験は思ってもいませんでした。信じられないことが現実に次から次へと起こる時代になったことを実感しています。

コロナ感染に振り回されてきた時代。そしてロシアによるウクライナ侵略の時代。

様々な課題を乗り越えていかねばなりません。

その様々な課題に合わせた工夫の下で仕事をしていく必要が有ります。

コロナ禍ではウィズコロナの基で、試行錯誤を繰り返しながら業務を継続してきました。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻では、現時点では不透明ながら、著しい資材の不足及び建設資材を含む物価高騰が続くなかで安定した公共事業の遂行や適正な補償額の確定が難しくなることも予測されます。

令和4年度以降、何が起こるか、更に難しい時代も懸念されるところではありますが、どんな時代になろうとも、私たちは生きていく限り働くことを止める事は出来ません。

難しい時代になりましたが建設に係わるコンサルとして、時代の変化に対応し今後も健闘していく覚悟です。

用地調査等共通仕様書等の一部改正について

中部地方整備局の「用地調査等共通仕様書」が改正(令和4年4月1日以降に入札書提出期限となる業務から適用)され、第14章地盤変動影響調査等に水準測量の項目が追加されました。

改正前の仕様書では、第15条(調査)で「地盤変動影響調査は地盤変動影響調査算定要領により行うものとする。」との記述があるだけで具体的な作業内容は記載されず、「地盤変動影響調査算定要領」でも、第9条の2で「建物基礎の四方向を水準測量で計測する。この場合において、事後調査の基準点とするため、沈下等の恐れのない堅固な物件を定め併せて計測を行う。」との記述で具体的な基準となる点の設置については触れられていませんでした。

今回の改正では、この基準点の設置方法が明確化され、既存の基準となる点(公共水準点並びに沈下等の恐れのない堅固な物件)から工事の影響を受けない箇所に任意の点を選点・設置しその点を基に計測を行うこととなり、基準となる点は検測して使用すること。任意の点の設置や建物基礎の計測にあたっては往復観測を行うこと。さらに、観測手簿、計算簿、点の記の資料作成も明記されました。

また、仕様書の改正に伴い「用地調査等業務費積算基準」も併せて改正されました。改正前には事前事後調査において水準測量は含まれておらず、水準測量を実施する必要がある場合には、別途その費用を計上することとなっていましたが、改正により水準測量(基準点を設置する費用は別途)を含むものとされ、水準測量の作業量が考慮されたものとなりました。さらに、建物内部の調査を拒否された場合の補正率(調査外業、調査内業の60%)も新たに追加されました。

水準測量においては、仕様書の改正前であっても実業務では水準測量の基準点は公共水準点か地盤変動の要因となる工事に使用するKBMを基準点として往復観測を行い、成果品には観測手簿等の資料を添付することが一般的となっていました。にも関わらず、水準測量に要する費用を別途計上できるか否かの判断は発注者にゆだねられることがあり、また、内部調査拒否(外部調査のみ)の場合の補正についても発注者の判断によるところが多くありました。

今回の改正で作業量を正当に評価し歩掛の見直しが行われたことは業務に携わる者としてうれしく思います。

再算定業務について

昨今、再算定業務の発注が多く見受けられます。例年であれば単価及び補償率等の見直しを行えば作業としては終了し、図面等の見直しもなく、チェックをしたのち製本を行うことになります。

しかし、5年ごとに歩掛等の見直しがあり、標準書の改定があるとそう簡単には作業を行うことができない場合が発生します。

平成27年度には、樋工事で木造建物は軒樋の形状ごとの単価を1階床面積に乗じ、非木造建物は建面積当たりの単価があり、屋根形状と軒樋等の形状寸法で求めた単価で算定することができたものが、軒樋・竪樋・集水器等の実測値を求めて算定することになりました。また、電気設備では、照明器具・スイッチ・コンセント・分電盤等の総数を用途ごとに集計すれば良かったものが、照明器具・スイッチ・コンセント・分電盤等をそれぞれの形状ごとに拾い上げ配管配線を別途計上することになりました。

そして、令和3年度には、木製建具及び金属製建具のガラスの種類・厚さごとに単価が作成されたため、形状寸法ごとに集計し直す必要が生じました。単価の項目も増え、今まで合成単価を作成していた単価が新設されたり、新しく追加された項目も多数あります。

その他にも、動産移転の動産数量の取り方が変更されたり、附帯工作物・機械設備・営業補償・移転雑費等の内容についても変更された項目が多数見受けられます。

再算定には、再調査をしなければ判別できない部分が多くあります。今回改定された建具のガラスの種類などはいい例で、写真だけでは判別することが難しいです。しかし、再調査ができない場合が多く、既存の調書だけでは判断に戸惑うこともあり、写真判定によって判断することが多くなります。図面も書き直しをしなくてはなりません。図面から数量の拾い直しを行う必要があり、手間が掛かる部分が多くなったように感じます。

建物躯体の数量計算等を簡略化するため統計値が登場し、工事数量を拾い出すようになった時は、構造図の作成が無くなり、拾い出し作業が楽になったと感じたものです。標準書の内容が年々細かくなってきているように感じるのは、私だけでしょうか。

標準書の改定以外でも毎年、細かな部分で追加や削除、修正が行われています。再算定業務に限らず、業務を遂行していくため、算定要領の解説を見返しながら、単価表の内容についてもう一度見直してみたいと思います。

損失補償と工事費補償について

「土地等の取得又は土地等の使用により通常生ずる損失の補償(第28条)と残地等に関する工事費の補償(第54条)を併せて行った事例について記します。

当該の対象物件は住宅敷地の一部(敷地全体の0.3%)が事業により支障することに加え、現状の敷地高さより約60㎝高い位置に道路が出来る計画でした。

当該敷地の接道は計画道路側だけであり、自動車等の乗り入れにも支障をきたすこととなるため、「第28条」と「第54条」を併せて補償算定を行う必要があります。

「第28条」での補償を考えた場合は、支障となる附帯工作物を移転するのに十分な広さが残地に有るか、現状の機能を維持することが出来るかなどを検討し、補償額を算定しました。

今回の対象物件は支障範囲が全体敷地の0.3%と僅かで、附帯工作物の一部が支障となる物件でしたが、残地に十分な広さがあり、構内移転することで機能維持が可能でした。

そのため、附帯工作物の移設等に必要とされる費用を補償額とすることとなります。

次に、敷地高さより約60㎝高い位置に道路が出来ることにより「第54条」関係での「残地と道路の路面高との間に高低差が発生し又は拡大する場合において必要と認められる残地の従前の用法による利用を維持するための工事に通常要する費用の補償について定めることを目的とする。」についての対応を考慮しました。

今回は敷地の高さと路面の高さが同じである状態から、事業施工により路面が約60㎝高くなるため「道路の路面より残地が低くなる場合における補償の対象とする盛土高の標準は、高低差が事業施工前の状態に復するまでの間の値とする。」となるため、残地を発生した高低差を解消するまで盛土をすることも考えられます。

しかし、「自動車等の乗り入れ機能が維持できない」であることを考慮すると、残地全てを盛土することは住宅等にも影響が有り「従前の用法による利用を維持するための工事に通常要する費用」とは考えにくいです。

よって、スロープ等を設置し自動車等の乗り入れ機能を維持する工事に必要な範囲を補償対象としたものです。

加えて、現状は道路にて転回し後進にて駐車していましたが、対象事業の計画道路は交通量が多くなることが明らかであり、道路にて転回することは渋滞や追突事故につながる危険な状況となります。

また、前進にて乗入れると、後進にて歩道を横断し車道へ出るため、歩行者等と事故の可能性が高くなります。よって敷地内にて転回スペースを確保するまでの残地の改良を補償対象としたものです。

円滑な用地取得の重要性

私は現在、令和2年度から受注している福島県の塩野川外CM業務のうち、用地CMの担当技術者として従事しています。

この業務は令和元年、東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風19号による河川災害からの早急な復旧および同様な被害を未然に防ぐための河川改良を目的としており、私の担当する河川は5河川でいずれも阿武隈川からの背水の影響により破堤・越水が生じた工区です。

これまで私が携わってきた用地補償関係のCM業務は、いずれも都市計画による道路拡幅事業や災害で被災した道路の改良・復旧事業に伴う物件調査算定業務で、河川災害が起因するものはありませんでした。

故に、受注当初は河川の基礎知識の向上とCMという立場の確立を目指しました。今回、この2年間で経験した用地取得の中で生じる様々な弊害と対処の中から「円滑な用地取得の重要性」について記載します。

一般的に、公共事業においては用地測量時に土地登記簿を取得し権利関係の調査を行います。

この際に相続が発生していれば追跡調査を行い、法定相続人を確定した上で境界立会を実施します。

しかしながら多年度に渡る用地取得においては、境界立会時の地権者が土地売買契約時の地権者と同一とは限りません。

実際に私が経験した例で、売買契約前の地権者が3ヶ月間の間に3名も亡くなり、新たな相続が立て続けに発生した事がありました。

また、抵当権についても同様です。

抵当権の多くは、金融機関や債権回収業者が債権者となりますが、稀に個人が債権者となっている事もあります。この場合、登記簿によっては、債権者にも相続が発生し、追跡調査が必要となります。私が担当する工区では親戚間での抵当権設定がありました。

幸い、いずれのケースも相続の発生に早く気付き、追跡調査や抵当権の抹消登記を早急に開始したことで、工事着手時期までに土地の売買契約を締結することができました。もし、気づくのが数ヶ月遅れていれば令和4年3月に福島県沖で発生した震度6強の地震の影響も重なり間違いなく工事の遅延に繋がっていたと思います。

限られた予算と時間の中で遂行する必要のある公共事業において、用地取得の工程はあくまで一部分です。

しかしながら、この一部分に遅れが生じると必然的に事業全体の工程に影響します。

昨今の異常気象や地震災害の発生状況と同様に、用地取得においてもいつ相続などの不測の事態が起きるのかは分かりません。

私たち補償コンサルタント会社を含め用地関係職員が担う業務の円滑化は直接人命に関わるものだということを改めて実感しました。

令和4年度の今年度も河川改良事業の用地CM担当技術者として力を注ぎ頑張ります。

土地の附加物

補償基準において、土地の附加物については土地価格に含むものとして移転補償の対象外とされています。

その前提があるなかで、今回は標準的なコンクリート擁壁、ブロック擁壁に比べて、立派な石垣、玉石積擁壁等の補償について考えたいと思います。

まず、土地の補償額算定の基本原則を見ますと、用対連基準 第8条第1項で、「取得する土地(土地の附加物を含む。以下同じ。)に対しては、正常な取引価格をもって補償するものとする。」と規定されています。

その『土地の附加物』とは用対連細則 第一で、「土地の附加物とは土留施設、階段、溝、雑草木等土地と一体として効用を有するもので、土地と独立に取引価格のないものをいう。」と定義されています。

権利者の視点を想像してみますと「石垣は土地代に含む」より工作物の一項目としての補償を示されたほうが心情として納得できるものに思えます。

しかし、土地の価格に土留施設等の土地の附加物を含める意図は、土地の附加物とは土地に定着し土地と一体となって効用を有するものであり、土地と離してしまえば独立した財産にはならないので、土地の価格と分けて補償すべきものでないという考え方です。

これらの規定から、擁壁等の財産的価値は取得する土地と一体として評価され、取引価格が算出されるため、擁壁等の補償金を個別に算出すると過補償となってしまいます。

それでは土地価格にはどのようにして価値分が補償されるのでしょうか。

土地の評価を行う際に使用している「土地価格比準表」の住宅関係の個別的要因比準表の各要因を見ると、環境条件にも画地条件にも「擁壁」に関する項目はありません。

当該土地の擁壁が地域内の標準的な擁壁のある土地に比べて増加要因となる場合は、個別的要因比準表の「その他」の項目を使用し、不動産鑑定士の意見等を参考に格差率を認定して比準作業を行い、土地の正常な取引価格を算定することになります。

よって、土地価格を算出するうえで、擁壁を標準的なものとし個別の補正を行わず算定し、当該土地に設置された立派な擁壁と標準的な擁壁工事の差額を工作物として計上したものであれば、正当な補償であると考えられます。

土地の補償額算定の基本原則に則るならば土地代で補償すべきですが、土地代に含まれない価値の喪失を補償することは妥当であると言えます。物件の状況によっては前述のような補償方法を採ることも考えられるのではないでしょうか。

なお、擁壁の撤去費の取り扱いについては、道路等工事で解体を行う場合など事業や敷地状況によっても対応が異なりますので、発注者との打合せによって補償の可否を決定することになります。

(標準書で擁壁の撤去費、廃材量も取り扱っていただけると嬉しいです。)

物件調査算定を進めるうえで、補償基準の趣旨に照らして適切な判断をするとともに、柔軟な思考を持って業務に務めていきたいと考えています。

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