第112号(2016年秋号)
震災復興における補償コン業務
つい先日の10月30日、イタリアの中部でマグニチュードM6.6の地震が発生しました。15,000人以上の人々が家を失い、歴史的建造物にも甚大な被害が発生したとのニュースが流れました。イタリアでは、この規模の地震は、前回は36年前に発生しているとのことです。
一方、日本ではつい先日の10月21日に鳥取県でM6.6の地震。半年前の4月14日には熊本県でM6.5規模の地震が2日続けて発生。そして5年前になりますが、平成23年3月11日には東日本でM9.0が発生しています。いずれも甚大な被害をもたらしたことは記憶にも新しいところです。
古くはヴェスヴィオス火山の噴火による火砕流によって、都市ポンペイが一瞬にしてこの世から消えたとされるイタリアは火山国の印象があります。しかし、それ以上に日本は火山爆発や地震、加えて台風による自然災害は避けては通る事は出来ません。まさに災害大国の日本です。
そんな日本での東日本震災や熊本震災に対してあまり知られていないながら、補償コン会員が震災復興に総力を挙げ活躍している業務を紹介致します。
それは、通常担当している公共用地関連の仕事とは異なり、地震によって倒壊し撤去せざるを得なくなった建物に対し、撤去に要する費用の補助金を得るための仕事です。
所有者自身で行うべき事務手続きの補助や被災建物を解体・撤去する管理業務を、熊本益城町等の被災市町村から補償コン協会が依頼を受け、熊本県部会会員がこれ等業務を実施しています。
町全体の崩壊建物を撤去し更地にするまでに数年、そして町を再興させるためには更に数年は必要とされ長期間を要する事業です。
これ等の業務の発端は東日本の震災時に、個人情報を扱っている補償業務の特性等を基に、東北市町村から協会が業務の依頼を受けて東北各県部会が実施したものです。そして九州で、東北での実績とノウハウが評価され、熊本・大分でもこの復興業務を補償コンが実施する事になったものです。
中部地方では今後30年の間に70%以上の確立で東南海大規模地震が発生するとされています。その時には中部の補償コン会員が中心となって、これ等の業務はもとより震災復興に対して全力で協力する必要があると考えています。
台風に地震等、近年、毎年のように頻繁に見舞われる自然災害を耳にする度につくづく実感しているところです。
標準書の改訂について
今年度、損失補償基準の一部が見直しされ、積算要領の一部も改訂されました。また地区ごとの用対で標準書の書式が違うため、それを揃えることも行われたようです。
私共が使用する大きな変更点を挙げると、まず建物移転料計算書の書式が全国統一されました。
調査、算定を行う上での大きな変更箇所は2点です。
①樋工事
樋工事は、木造建物は軒樋の形状ごとの単価を1階床面積に乗じ、非木造建物は建面積当たりの単価があり、屋根形状と軒樋等の形状寸法で求めた単価で算定することができたのが、軒樋・竪樋・集水器等を実測することになりました。
軒樋は平面上で求めることはできるのですが、竪樋は軒出、屋根勾配があるため実測するのは難しく、指針では軒高+軒出で良いと言うことになったようですが、チョット疑問に感じました。
②電気設備
電灯設備は木造建物、非木造建物にかかわらず照明器具・スイッチ・コンセント・分電盤の総数を用途ごとに集計すれば良かったのですが、それぞれの形状ごとに拾い上げ、配管配線を別途計上することになり、スイッチは1連・2連、コンセントは1口・2口と分けて、また埋設・露出と分類する必要があり、集計が雑多となりました。
スイッチ、コンセントはそれぞれの価格を平均したもので単価を作成することができると良いと思います。
以上の改訂以外には、非木造建物の仮設工事で外部足場の使用期間が1ヶ月単位となり、工事工程表を作成し使用期間を求めることが求められるようになりました。現場を経験したことのない者としては、大まかな作業工程は解りますが、細部についてはこれで良いのかと不安に思います。専用住宅、店舗、事務所、工場等の用途及び面積区分を設け、一般的な工事工程表を添付してほしいものです。
今年度の標準書では、歩掛の改訂も行われたことから、標準書単価の内部の記述にも改訂が行われた箇所が多く見受けられました。十分注意して使用していきたいと思います。
所有者等の確認(その3)
前回(第110号)にて借家人(借間人)等の所有者確認を述べました。今回は、借家人(借間人)が取り付けた設備・工作物・造作等《以下 借家人工作物等》について、一般的な確認方法を記述したいと思います。
調査に行く前には、土地の所有者および建物所有者《以下 建物所有者等》の了解を得て、借家人(借間人)《以下 借家人等》の立入りのお願いを行います。建物所有者等より事前に借家人等に了解を得られれば良いのですが、移転時期など建物所有者等が説明できないこともありますので起業者の協力が不可欠です。
調査の内容として、借家人等が入居後に土地、建物に設置した借家人工作物等の確認を行っていきます。確認作業は、借家人等および建物所有者等の双方にする必要があります。
調査の例として、エアコン・湯沸器・アンテナなどの設備、目隠しなどの工作物、棚などの造作などが考えられます。
注意点としては、取り外して移転出来る借家人工作物等だけではありません。「建物の一部を改造した。土間コンクリートを打った。庭木を植えた。」など土地および建物に属することが普通に行われています。
借地借家法33条では、「建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した造作がある場合、賃借人は、建物の賃貸人に対し、その造作を買い取るべきことを請求することができる。」とあります。俗に言う買取請求権が借家人等にあります。
借家人等が契約満了の時には、入居時点の復旧義務または建物所有者等への買取請求権がありますが、公共事業の移転の場合には、契約の途中であることが普通であり、補償対象とすることが一般的です。
補償では、個別払いの原則によって、所有者ごとに補償金を支払う必要があります。しかし、借家人等が、建物所有者等の了解を得て設置した借家人工作物等のうち、建物に附属する造作等は、建物等所有者の所有となります。建物に附帯する畳・襖などは建物の一部として取り扱われ、畳の表替え、襖の張替えを行っても所有は変わりません。
補償金は、建物等所有者に支払い、借家人等が買取請求権を建物所有者等に行うものです。
現実的には、後々の紛争を避けるため、建物所有者等の了解を得て、借家人等の所有物とする場合がありますので、起業者と十分協議を行ってください。
現地の調査では、建物等所有者、借家人等の双方の確認が十分出来ない事も多く、聞き取り確認は、後日となることがあります。所有の確認は、双方の確認が取れるまで続きます。
長年、補償調査業務に携わっていますが、補償物件の正確な把握は最も基本的なことです。今後も正確な物件の所有者等(借家人等)の確認には最大限の配慮を尽くしてまいります。
★かまいしだより№13
漁村部の造成設計
私が東日本大震災後に釜石市に赴任して初めて関わった業務は、漁村部の防災集団移転促進事業での造成設計でした。
業務場所は釜石市の両石湾に面した箱崎半島にある桑ノ浜地区です。この桑ノ浜地区は急峻な地形が入り組んだリアス式海岸にある漁業集落であり、山に囲まれた平地が海から山に向かって3方向に広がっており桑の葉のような形をしていることより桑ノ浜と地名が付けられたと聞いております。
この地区も他の釜石市内の漁村部と同様に、東日本大震災では甚大な被害を受けました。海岸部にはT.P+10.0mの防潮堤がありましたが、その防潮堤を超えて津波が地区内に入り込み、最大T.P+20.0mの高さまで津波が到達しました。建物の被害は全壊建物43件、大規模半壊建物5件と集落のほとんどが被害を受けました。
被災1年6ヵ月後に私は初めて現場を見ましたが、その際にはまだ家屋の瓦礫の撤去作業を行っている最中であり、津波の傷跡が残っておりました。それから4年が経過し、今年の10月に桑ノ浜地区の造成工事が完了しました。今まで現場状況を見る事はありませんでしたが、今回造成工事が完成したということで現地の見学をさせて頂きました。その際の状況についてお伝えしたいと思います。
まずは、この桑ノ浜地区の概要について説明したいと思います。
- 区域面積:約33千㎡
- 住宅面積:約6千㎡
- 法面面積(盛土、切土):約13千㎡
- 緑地・広場面積:約1.3千㎡
- 道路:幅員4m~6m 約1.1千m
であり、盛土の最大高低差は約15mとなっています。
桑ノ浜地区の造成高さは、津波シミュレーションにより、L1津波(百年に一度発生程度)、L2津波(千年に一度発生程度:東日本大震災と同程度)の計算で決定しています。L1津波に対しては防潮堤(T.P+12.0m)で浸水を防ぐ、L2津波に対しては高台造成(T.P+20.0m)にて浸水を防ぐように検討しています。集落の造成地は津波シミュレーションに合わせてT.P+20.0mと元の地盤の高さより15m程度高くなる計画です。
次に現場の状況については、造成地の盛土の法面は5m×3段でしたが法面の勾配が1:1.8あり思ったほど造成地の圧迫感はありませんでした。高台部は防潮堤よりも8m程度高いため、海もよく眺めることができました。緑地や広場については、まだ植栽などの作業がされておりませんでした。高台の造成地へのアクセス道路については、高低差15mを上るために約200mの距離(道路勾配8%)となっており、車では勾配や距離はそれほど気になりませんが、実際に歩いてみると勾配、距離があり、多少疲れます。法面には階段が整備されており、そちらを上れば歩く距離は短くなりますが、かなり急です。津波の被害を受けない造成としてはやむを得ないとは思いますが漁村部で高齢者が多いことを考えると、もう少し親切な計画が必要だと痛感しました。
今後の桑ノ浜地区は、防潮堤や浸水区域の跡地はまだ整備中ではありますが、住宅の整備については今年中に着手すると思われます。来年には住宅が建ち並び、海が見渡せるより良いまち並みが完成すると思います。その際にはまた、この桑ノ浜地区の見学をさせていただきたいと思います。
東北地方の水準
10月15日から2日間、澄み切った秋空のもとで「釜石まつり」が盛大に開催され、私も中央ブロック共同提案体の一員として神輿担ぎに参加しました。釜石まつりへの参加は今回で3度目となり神輿を担いで進むまち並みには、初参加の時には見られなかった復興公営住宅や商工業施設が建設されており、改めて復興の進展と本格化を感じることができました。
弊社東北支店では、釜石市の震災復興事業を推し進めると共に一等水準測量を実施しています。平成23年の東北地方太平洋沖地震で大きく変動した東北地方については、地震後、国土地理院により水準測量が行われ平成23年10月に水準点の高さの成果が更新されています。
その後も地殻変動(余効変動)は継続しており平成28年3月時点で成果との乖離が大きい所で30㎝以上の地域があることを人工衛星からの観測で確認されています。このため本作業では、現況に整合した正確な成果を求めることを目的として、東北地方の水準点について再度、一等水準測量を実施します。
弊社は、岩手県宮古市から九戸郡洋野町に至る全長119㎞の区間おいて1班編成により作業を行っています。現地での観測は、誤差を排除し正確な成果を求めるため、観測方法の厳守及び使用機器の点検調整を徹底しています。水準測量は水準点間の比高を2度観測し、観測値の較差により精度管理を行います。観測値の較差を記録し、その累積が顕著になった場合はただちに原因を突き止め後日の観測に対策を施すことで誤差の累積を防止しています。
水準測量の実施にあたり、精度管理と同様に重要となるのが安全管理です。
作業地域は景勝地で著名な北山崎に代表される断崖の切り立つ隆起海岸がとても美しいところでありますが、観測路線にあっては山あり谷ありトンネルありと危険箇所の連続となっています。またこの地域は「やませ」(北東の冷たい湿った風)の発生や天候の急変が多く、天気予報はあまりあてにならないため、風雨対策を常備する必要があります。
日々の作業開始前に作業区間において想定される危険要素及び対策を全ての作業員に徹底することで安全を確保しています。
東北地方沿岸部では今もなお震災復興事業が各地域で行われています。日々、復興していくまち並みを見るにつれ、私事のように嬉しく励みにもなります。今後も地域に根付いたコンサルを目指し努力してまいります。
福島県におけるCM業務
福島県建設事務所の河川海岸CM業務の用地担当に携わるようになってから、早1年半が経過しました。当初は、沿岸部(浜通り地区)の建設事務所の河川海岸事業だけであったのが、今年の春からは内陸部(中通り地区)の建設事務所の河川CM業務の用地担当にも携わるようになり、最近では同じく中通りの他の建設事務所の道路CM業務の用地担当にも加わるようになりました。当社の4名の技術者で多数の事業の委託業務(用地補償総合技術業務、事業認定申請図書作成業務、物件調査業務、土地評価業務等)の管理を行っています。きっかけは一昨年の秋に、宮城県沿岸部の建設事務所における道路事業CMの用地担当に携わったのが始まりで、その経験を生かし今では福島県のお手伝いをするまでになりました。
私は、当初岩手県釜石市で復興のお手伝いをしていましたが、福島県の河川海岸CM業務の中の事業認定申請図書作成業務の管理をできる技術者を探しているということで、岩手県から宮城県を飛び越え福島県に移動となりました。福島県では平成23年3月に発生した東日本大震災により沿岸部の河川堤防及び海岸堤防が、地震及び津波により壊滅的な被害を受けました。1日でも早い復旧・復興のために今後予想される不明者や多数相続の問題を解決する一つの手段として、海岸事業10本、河川事業13本、計23本の事業認定申請図書作成業務委託を発注されていました。しかし、用地取得を進めていく中で当然全ての事業が収用手続きに進むわけではありませんので、本申請する事業は絞り込まれてきました。東日本大震災に関係する事業における最初の事業認定は、平成25年度に岩手県が申請した『片岸海岸及び鵜住居川の改修事業』でした。当初はとにかくこの申請書を参考に被災した各県が申請書を作成し岩手県や宮城県が次々と事業認定の告示を受けました。
福島県としては、東日本大震災における地震及び津波だけではなく、福島第一原発の影響により地権者が各地に避難していることから用地取得に時間を要し、平成27年度に申請した『小沢地区海岸公共災害復旧工事』が最初で、その後、現時点までで4海岸の事業認定の告示を受けています。詳しくは東北地方整備局のHPに事業認定の認定理由が公表されていますので覗いてみて下さい。
現時点においても数本の河川及び海岸事業において、本申請するべく東北地方整備局と協議を進めています。今後は、福島第一原発に近い浪江町及び双葉町に存する河川堤防及び海岸堤防の事業認定申請に取り組んでいく予定です。被災した各市町村においては各都道府県と連携して『復興整備計画』というものを策定しこれを参考資料に添付するのですが、これらの町ではそれすらまだ作成中の段階となっています。
東日本大震災から早5年半が経過しましたが福島県の第一原発に近い市町村の復興はまだまだ始まったばかりです。
余談ですが、今週相馬市内を散歩していましたら中村城址の蓮池に2羽の白鳥が飛来していました。岩手県に比べると随分と南下しましたが、ここはやはり東北であることを実感しました。