第113号(2017年冬号)
水と油の関係
この時期は年度末業務が集中し最も忙しい時期になります。技術サイドではこれ以上の受注は無理という一方で、営業サイドは繁忙期が故に絶好の受注チャンスというのが一般的な認識です。無理な受注は技術職員に過度な残業を余儀なくし、労働条件の観点からすれば、近年では社会問題ともなりかねません。
とは言え、4月や5月には官の業務発注量は激減し、業務確保の観点からすれば痛し痒しといったところでもあります。
無理な受注は技術職員への大きな負担となります。また、品質確保の面でも課題が残ります。しかし、春以降の業務確保も企業経営の観点からは非常に重要です。この時期の受注に対する営業サイドの「YES」に対し技術サイドの「NO」は毎年恒例の対立構造となっています。
こんな関係から営業対技術を水と油の関係に例えられますが、お互いが対立することの言い訳にしているようにも思えます。一般的に水と油は溶け合えない関係とされていますが、この水と油が溶け合い理解しあうことが企業存続には最大の課題であり、最も重要な事項でもあります。
最近の化学分野では、水と油も乳化技術によって溶け合うことは可能です。油50と水50を混ぜ100となったエマルジョン燃料は、70~80の効力(水の20~30相当を燃料に変換)を発揮します。
溶け合えない関係を解決することにより、お互いが持つ以上の力を発揮する事も可能だということになります。企業で言えば営業と技術分野が融合協力できるか否かが企業存続、企業発展の鍵ともいえます。
企業にとってこの関係を融合機能させる事が重要ですが、これは発注者と受注者の関係にあっても同じです。立場こそ違えど対等な関係とされてはいますが、時として現実には業者サイドからすれば我慢の連続となることもあり、水と油以上の難しい関係を実感することも無くはありません。発注者と受注者がともに協力し課題解決に当たることが重要かつ本来の姿と考えます。
受注者としての立場は何ら変わるものではありませんが、発注者の皆様方には今後とも温かい目で御指導を頂くことを節に願っている次第です。
海外損失補償制度調査団を振り返って
平成28年10月25日から11月1日まで7泊8日の日程で海外損失補償制度調査団に参加させて頂きました。
日本補償コンサルタント協会の沖縄支部から東北支部までの総勢10名での参加で、日程はドイツ(ゲルゼンキルヘン)から始まり、スペイン(ビルバオ)、イタリア(ローマ)と南下しながら訪問するスケジュールでした。訪問する企業、行政の資料は事前に配布されましたがテーマが広く、具体的な内容は当日にならないとわかりません。視察先の用地取得に伴う流れや法規制、諸問題の解決方法を聞きながら質問形式で具体的な内容を理解していきました。
最初の訪問先であるゲルゼンキルヘンでは、東日本大震災を受け原子力発電から太陽光発電等の再生可能エネルギーに変更し、電力を北部からドイツ中心部へ送電する計画があるとのことです。全長5千㎞のうち4千㎞は架空計画、1千㎞は地中埋設ケーブルにより送電する計画でした。架空線は地役権設定が必要になると思われますが、ドイツ内では日本と異なる法規制によって権利関係や補償業務を整理しているようでした。
ビルバオでは多数の開発プロジェクトが実施されており、市内は観光客を満足させるための施設が建設され、特に有名な施設はグッケンハイム美術館であり、河川の両岸から歩いて景観を楽しむように計画されていました。
このようなプロジェクトは行政が窓口となり土地取得を実施しているようでしたが、日本のような用地補償システムは構築されておらず地元民間企業が積極的に参加しながら街づくりに貢献していることは素晴らしいと感じました。
用地業務についての質問が専門的なため、通訳を介して先方の担当者に理解して頂くのは時間が掛かりましたが何とか研修を進めることができました。
最後の訪問地のローマでは市役所の用地担当者と直接情報を共有することができました。ローマでの用地交渉は全て市職員が対応し、補償金算定についても職員自らが行い、コンサルに発注することはないそうです。
同じ欧州でも国が変わればそれぞれ置かれている環境が異なり、今回訪問した3カ国でも補償業務の考え方が異なることが分かり非常にいい経験をさせて頂きました。
出発前にはイタリア中部でマグニチュード6.6の地震が発生したこと、難民による治安問題、テロ等の危険が心配されました。参加者の中には外務省海外安全ホームページより「たびレジ」をダウンロードし、安全情報を受信している方がみえて全員で情報を共有しながら一喜一憂しておりました。
何よりの楽しみは地元添乗員の紹介による郷土料理店にて会食することでした。お酒を嗜む方が多かったこともあり直ぐに親睦を深めることができたので、大変有意義な時間を過ごすことができました。
今回初めて欧州を訪問させて頂きましたが、もう一度機会があるならば街中が世界遺産のようなローマでゆったりと時を過ごしたいと切に感じました。
最後になりましたが、今回、同行させて頂いたメンバーの皆様には、私のような若輩者にも親しく接して頂いたことに改めて感謝致します。
釜石応援隊
私は、昨年12月中旬と今年の1月下旬に岩手県釜石市へ仕事の応援に行ってきました。
2年前まで釜石の支店で業務を行っていたので久々の釜石は2年前とは少し風景が変わったように感じました。それに名古屋の気候になれたせいか、さすがに冬の釜石は寒いと感じました。
仕事の内容は、嵩上げ工事を行う際に損害が生じる恐れのある周辺の家を対象とした事前調査でした。
始めに所有者のアポ取りをし、日時を決め調査に入ります。
事前調査は屋内であれば床、壁、天井、建具、床傾斜、柱傾斜の損傷等の状況をボードに書き、現況写真や損傷箇所の写真を撮って、全ての部屋をまわります。
屋外も屋内同様に損傷等の状況の調査を行いますが、あわせて建物のレベルも計測します。
建築図面があるお宅は図面を活用して部屋の間取りを確認しながら、損傷箇所の調査を進めていきますが、古いお宅の場合には建築図面が無い場合があります。その際は屋外、屋内の平面図、立面図をスケッチする作業も必要になります。また大きなお宅になると部屋数も沢山あり、そのうえ築年数が経っているお宅については損傷箇所も多くなるので、作業スピードを上げないと時間内に調査が終わりません。
冒頭にも書きましたが名古屋に比べると釜石の冬はとても寒いので、屋内での作業は良いのですが屋外の作業になると手が悴んでボードを持っている手が痛くて痛くて辛い作業でした。
私は屋内作業の方が多かったので、屋外の作業の人には本当に申し訳ないのですが、随分と楽をさせてもらったと思います。ずっと外に居たら耐えられなくて、子供のように泣いてしまったかもしれません。
現在、現場作業は終わりましたが、今度は内業で苦労しています。今さらですがもう少しスケッチを細かく書いておけば良かったのに…と反省しています。2月末には出来上がるよう頑張っている最中です。
釜石は少しずつではありますが、着実に復興に向かっています。釜石の皆さんが安心して暮らせるよう早期復興を願っています。
★かまいしだより№14
中間貯蔵施設設置に伴う用地総合支援業務2年目
私が放射性廃棄物の中間貯蔵施設設置に伴う用地取得のための支援業務を行うため、福島へ赴任してからもう2年が経とうとしています。
補償金算定書の内容審査をしているのですが、この1年間は驚異的なスピードで進み1千件を超える成果品の審査が終了しました。これは調査・積算をした受注コンサルタントの方々や事務所スタッフの努力と協力の結晶だと思います。
成果品には大きく一般の住宅物件の他に工業団地の企業物件と墓地と山林があります。その中で墓地に関しては、昨年の6月に今回の事業における詳細な積算内容が固まりました。この事業では放射線量が高いことなどから通常採用される移設による移転方法がとれないため、墓石を全て再築(新設)する方針となりました。祭祀料は大熊町と双葉町に公営墓地の建設計画があり、権利者の希望により保管場所(檀家寺等)へ一時納骨し、公営墓地の建設後に墓地を建立して納骨するといった場合には、2回の祭祀料を計上するケースもあります。改葬料における霊体数の調査は、権利者による立会いが少ないことから竿石や墓誌からの読み取りにより霊体数をカウントして積算しておき、最終的な霊体数の確定は用地交渉時に実施することになります。また対象地域の一部では、土壌が軟弱地盤であることから、土葬された遺骨を掘削して掘り起こす際に地盤が緩んでしまい墓地を建立出来ないために、土葬の上に墓地を建立している場合もあります。この場合は、墓石を一時撤去(移設)した後に土葬を改葬することとなります。
また、一般住宅物件の中には津波被害で1階部分が浸水し、被災度認定基準では大破、破壊といった評価となり補償額が出ないこともあります。当然、権利者側や発注者側からすれば2階部分が残存していることから補償が見込めるのではないかと考えるでしょう。そういった申出や理屈の中で基準や積算要領などから妥当な補償内容を模索しなければなりません。
以上の様に当該事業における用地取得に関しては放射線による影響などにより補償方法及び内容の特異性が強くなっています。
来年度は多くの墓地や山林の補償内容の審査に公共施設などの審査も加わるため、今年度以上にハードになるでしょう。
震災後6年が過ぎようとする中、既存施設や今後の建設予定の施設により機能回復が可能な公共施設もあり、変化していく情勢の中で補償方法及び内容について慎重に協議し精査していこうと考えています。
慌てず、しっかり地に足を付けて復興へ向けて微力ですが努力しようと思います。
復興事業に携わって
岩手県釜石市も厳冬の季節でございます。私が釜石に赴任した平成25年11月から3年が過ぎ4回目の冬を迎えました。
最初の冬も非常に寒く雪の多い冬でした。名古屋本社から持ってきたカローラが雪に埋もれる姿がなんとも可哀想で、とんでもない所まできたもんだと正直、呆然としたものでした。
釜石は東北地方と言っても、降雪が少ない地域です。それでも毎年数回は積雪があり、数年に一度は大量の雪に埋もれることがあると聞いています。
赴任最初の冬がその数年に一度の大雪の年でした。そして、今冬は全国的に厳しい冬だそうで、釜石でも年末から降り始め、街のあちらこちらに雪かきの跡が山になっています。冬はこれからが本番、まだまだ油断はできません。
さて、釜石の復興事業の状況はと言えば、いよいよ傍から進捗が目に見える大工事に突入しており「現在、復興工事中」という感じです。
とは言え、ここまでには相続未整理を初めとする用地買収の難題や予想外の支障構造物撤去などに手間取り、年単位での工程延長が生じており、被災者の皆様方からすれば「まだここまでか」と怒り半分、呆れ半分と言ったところだと思われます。
私がこの地で主に担当してきたのは、釜石市の東部地区の補償関係業務です。東部地区とは釜石市の只越町~浜町~東前町~新浜町に渡る地区のことで、震災前は商店や鮮魚の加工場、そして多くの住宅があった地域です。かつて釜石市の中心部と言われていました。
東部地区は広範囲に津波の被害に遭い、地盤の沈下も起きていました。
岩手県施工の防潮堤計画に加え、釜石市の東部地区復興計画では、今後の津波予想シミュレーションに基づき、第一種危険地域は非居住地域に認定し、整地後、海産物加工工場等の建設地とし、その他の地域は最大8mの盛土による造成を行い住宅地として街の再興を図るというものです。
市は津波復興事業として造成工事をするため全ての土地を買収し、造成後は元々の地権者の方々を優先して新たな街区の再分譲を行います。
当初、私の属する補償調査部の任務は、市役所職員の方々と分担し、各地権者の方を訪問する用地交渉補助業務でした。
相続未整理の土地も多く、相続者の調査も含めかなり困難な作業が伴いました。
用地交渉が一段落してくると、次は用地内の建物等の物件調査が必要になりました。
津波により毀損し居住困難な建物や修復し使用中の建物、中には震災後に建て直した建物も含め100件余りの物件調査が必要となりました。補償契約の補助や補償説明の為に市職員に同行したりもしています。
計画用地内の物件調査も後数件を残すのみ(本誌発行時点では完了しているものと思います)、今は用地周辺の工損調査(事前調査)に悪戦苦闘。
用地買収、補償契約が整えば、いよいよ造成工事の着工です。造成工事自体は弊社とJVを組む施工会社が担当するところとなるわけですが、弊社の仕事は、まだまだ残っております。
昨年より造成後の再分譲の意向調査を開始しており、造成完了後には新街区の画地測量、周辺建物の事後調査などなど。
造成工事が完了するまでは、もう少し忙しそうです。
東北支店で働いて
私は去年6月から東北支店に勤務しています。最初の頃は道端を日常的に歩いている鹿に驚いていましたが、今ではそういったことにも慣れてきました。
夏場は名古屋と比較すると過ごしやすい気温でしたが、冬になると改めて東北の寒さを実感します。しかし、気温こそ低いですが外業の際に「寒いだろうから」と温かいコーヒーを頂いたり、隣家の大家さんから突然アワビ!?を頂いたりと所々で人の温かさを感じる出来事も多くあります。
自分は東北支店で基本的には測量業務を行っていますが、補償業務の手伝いや釜石市の復興事業に関わる用地買収業務などにも同行することもあります。そのため本社に居た時には分かりづらかった会社が行っている測量以外の他業務について学ぶ事が多くあります。
測量という仕事を始めて2年が過ぎようとしていますが、まだまだ覚えることが多く、調査測量部の先輩方に日々揉まれています。
東北での測量業務のうち、復興事業では画地確定や用地測量などの土地の面積や境界に関するもの、道路設計に関する資料作成のための路線測量などを行いました。
先日、画地確定測量を行う為に3級基準点測量をGNSS測量機を使用して行いました。
(GNSS測量とは人工衛星から送信される電波を利用する測位方式。)
観測予定日の前日に大雪に見舞われ観測を延期せざるを得ないといったトラブルもありましたが無事に観測を行うことが出来ました。
GNSS測量は技術的にはソフト等も含めた使用機械が日進月歩で進歩している為、経験年数の少ない技術者にも馴染みやすいと思います。
その他には国土地理院の一等水準測量を9月から11月にかけて岩手県宮古~洋野町間(総距離約120㎞)を行いました。水準測量では、水準点の設置作業や作業を行う為に必要な許可等の為、役所や警察署、国道事務所等を回るなど、作業前の準備から往復観測を行う本作業までを行いました。
一等水準測量は初めてでしたが、2か月間作業を行うなかで歩測作業や固定点の設置や往復差、観測差などが許容範囲内に収まっているかを確認する計算作業等の進捗が慣れていくにつれ実感する事が出来ました。
作業期間内の出来事を言えば靴を2足程履き潰しました。体力的にきつい仕事でしたが、観測作業が無事終わったときには達成感がありました。
GNSS測量といった比較的新しい技術を使用したものから水準測量といった体力のいる測量まで行ったことで、測量という仕事への理解が深くなったと感じています。
編集後記
2月に入って山陰地方では32年ぶりの豪雪に見舞われ、90㎝を超える積雪となりました。ニュースの映像によると鳥取の砂丘でも砂が見えなくなるほどの積雪があった模様です。この地方でもまだまだ寒い日々が続きますが、日差しや草木には春を感じ始めている今日この頃です。これから繁忙期を迎えるに当たり、インフルエンザが流行っていますので、皆様、お気を付け下さい。
当社では経験豊富な社長自らが中心となって講師となり、平成28年6月から若手を対象とした補償技術のスキルアップのための勉強会を行っております。今月で早や10回目となりました。
このように常に研鑚を重ね、いつでも皆様のお役に立てるような体制をとっています。ご質問、ご要望があればいつでも何なりとお問い合わせください。きっとお役にたてると思いますので、今後ともよろしくお願い致します。