第124号(2019年秋号)
地籍調査勉強
令和元年を迎え、台風15号は9月8日から9日にかけて三浦半島を通過し、9日早朝千葉市付近に上陸しました。この台風では最大60メートル級の暴風が吹き荒れ、屋根は吹き飛ばされ窓ガラスも割れ、また更に1時間あたり50ミリ(局地的には80ミリ)を超える大雨を観測し、千葉県内では2千本の電柱が倒壊し、20万軒で停電となる被害をもたらしました。
そのため、復旧には電力会社と自衛隊が倒木取除き作業に全力で対応したものの、1週間を経過しても6万軒、10日経っても、尚、4万軒以上の住宅で停電状態が継続することになりました。また、その1ヶ月後には台風19号が再び千葉県を含め、中部、関東、東北の各地を縦断し、千曲川など71河川の140ヶ所で堤防が決壊し大規模な洪水被害及び停電が各地で発生することとなりました。
最近では、地震、台風、集中豪雨等による自然災害が、大規模化しており、何時、何処で、どんな被害をもたらすかは予測困難となっています。この地方でも、伊勢湾台風規模の台風や、かつてより懸念されている東南海地震は何時おきても不思議ではなく、その危険性は非常に高いと言われています。台風や地震等の発生に関し、理屈の上ではその危険性を理解しているとはいえ、やはり他人事。明日は我が身との認識にはなかなか成り切れていないのが正直なところかもしれません。
東日本大震災や九州熊本地震、北海道胆振東部地震、また愛媛、岡山、広島県各地を襲った西日本集中豪雨の復興業務では、各被害地とも地籍調査が進んでいたため境界復元等復興事業進捗には大きな手掛りとなったと聞いています。地籍調査事業自体、中部では東北や九州に比較し遅れているものの、直ちに支障をきたすものでは有りません。しかし、何時何処で発生するか不明だと考えれば、災害を他人事ではなく自分のこととして地籍調査業務を認識する必要があると思います。
弊社では、地籍調査に関心ある市町等に対する積極的な資料の提供、情報発信、更には勉強会の開催等を計画しています。興味ある自治体ご担当の皆様には、是非とも声をおかけ頂ければ幸いに存じます。
宜しくお願いいたします。
曳家工法について
平成28年度より曳家工法の算定要領が全国統一されました。大きな変更は非木造建物の曳家係数及び単価が無くなったことで、曳家工事費は、専門業者の見積りを徴収することとなりました。
中部では、これまでは木造、非木造の曳家工事については、中部独自の曳家工事移転料積算基準があり、曳家移転工法案により曳距離等を求めれば、再築工法で算定した数量を利用し、曳家係数及び単価を用いて曳家工事費を算定することが可能でした。新要領では、木造建物については、以前と同様に曳家係数を用いて算定を行うのですが、基本単価が平家建を基本とし、専用住宅・併用住宅・店舗等の3種類に分類されました。係数等の変更、補修工事の算定方法等も若干替わりました。非木造建物については、原則として、専門メーカー等の見積りを徴収することにより行うものとなりました。
曳家業者の見積りの多くは、実際の曳家移転工事のみで、仮設・基礎工事及び内外装の補修工事は、曳家工事に合わせ部分別の算定をすることになります。工事の内容では基礎及び内外装の解体費を計上する必要もあります。曳家工法は、現在はあまり利用されない工法であり、地区によっては工法として採用しない場合もあるようです。
しかしながら、中部では、区画整理事業や移転工法が構内移転となった場合には、再築工法と曳家工法との経済比較をするのが当たり前になっており、発注者は気軽に算定して下さいと言われます。しかし実際は、専門業者への見積り依頼を行い、出来た見積書に合わせた基礎の撤去費や、建物の補修工事の数量を拾い出す必要があり、二つの工法を算定するには手間や時間が掛かるのが実態です。現況の請負契約では非木造建物調査・算定1棟となっているのみです。にもかかわらず、実際の作業では2工法の算定を行い、さらに専門業者への見積り徴収をしなくてはならず、見積料も請求され、大変苦労しているのが現状です。
なんらかの救済措置を講じてほしいものです。曳家の専門業者は少なく、気軽に見積りを依頼できるところはありません。他の同業者にしても同様な悩みを持っているのではないでしょうか。
木造建物の曳家係数は若干変更され、単価は大きく上昇しました。非木造建物については、構造により分類するのは難しいとは思いますが、以前のように中部独自の基準を策定し、曳家係数を用いた算定方法の復活を望んでいます。
建物移転請負工事契約に要する費用と、諸経費について
建物移転請負工事契約に要する費用について話題となったことがあった。工事契約に対する契約印紙代をどの工事費に対しての契約印紙代かによって考え方が地域によって異なっている場合がある。
中部地区の場合は建物の移転工事費((推定再建築費×現価率)+運用益損失額+取りこわし工事費+法令改善費運用益損失額)に対して契約印紙代を補償する。また、それ以外の工法の場合には各工法に応じて建物の工事費に対して「建物移転請負工事契約に要する費用」の表から契約に要する費用(印紙代)を決定する。
一方、他の地区では建物工事費と工作物の合計金額に対して印紙代を決定する場合があり、再築の場合には推定再建築費の金額に対する契約印紙代を補償する場合もある。補償対象者は現在と同等の建物を新築するので現価率で減耗した金額では不足すると考えられるし、一方、不足分は運用益損失額によって補填されているので移転工事費で良いとも考えられる。仕様書が異なっているのでどちらが正しいとも言い難いが、中部地区では建物の移転工事費に対する契約印紙代のみしか補償していない。
一般住家の場合では工作物を合計したとしても概ね1000万円を超え5000万円以下に該当するので余程高額な工作物がない限り結果は変わらない。別発注として考えたとしても工作物の工事費に対する印紙代は数百円程度であるので特に問題とならないのであろう。これが諸経費の場合でも同様に考え方の違いが発生している。
諸経費率を建物工事費、工作物移転補償額を合計した諸経費率とするか、建物工事費、工作物移転補償額それぞれの金額での諸経費率とするかで補償額が異なってくる。中部地区ではそれぞれの金額に対しての諸経費率としているが他の地区では建物と工作物の合計額に対する諸経費率としている場合がある。建物と工作物を別発注ととらえるか単一発注と考えるかの違いである。
通常、一般の人が住家を新築する場合、どちらもあり得るが、住宅と外構工作物を別発注する場合はいくつかの工事業者に見積もりを依頼し安い業者に発注するため住宅メーカーに単一発注した場合よりもより経済的に安価で済む利点があり、単一発注した場合は外構工事を住宅ローンに含むことができるなどの利点がある。
補償基準による算定の場合は建物も工作物も同じ率により算定を行うため建物、工作物を別で算定した方が金額が高くなり、合計額で読んだ方が安価となる。一般的に多くみられるのは別発注であり、補償上安価となるのは単一発注である。どちらを採用するのかは考え方次第です。
★かまいしだより№25
断水の経験
台風19号により、私もプチ被災者となりました。現在、福島県に復興の業務(CM)で単身赴任しております。
10月12日(土)の夜中から雨風が激しくなり、窓から覗くと外はまるでガソリンスタンドに置いてある洗車機の中にいるようでした。一夜明け、日曜日には午前中から晴れ間も見え、台風が過ぎ去った後で浸水もなく、電気、ガス、水道も使えたため、何ともなかったことに安堵しました。その日の午前中は食事、洗濯をいつもどおり行いました。少し異変に気づいたのは、昼ごろに蛇口をひねった時、水の出方がかなり弱くなったからです。その時は、もしかしたらどこかで断水しているため、水量の調整でもしているのかなと思っただけでした。その後、午後に買い物をするため車で出かけたところ、近くの川沿いの道に土砂があちらこちらで堆積しているのを見ました。
また、その周辺の家屋では家から土砂をかき出しているようでした。その時初めて私は自分のアパートに割と近いところで浸水していたことを知りました。夕方になり、お風呂にお湯を張ろうと給湯器のスイッチを入れたのですが、給湯器は全く作動しません。蛇口をひねっても水が出なくなりました。インターネットで調べたら、自分が住んでいる相馬市全体が断水していることを知り、愕然としました。とりあえず風呂に入ろうと思い近くの温泉へ行ったら入浴客がいっぱいで、体を洗うのに1時間半ほどかかりました。通常は30分くらいです。それから、翌日の給水車で水が配られていることを知り、ホームセンターに水タンクを買いに行きましたが、売り切れており手遅れでした。
また、水がなくて調理しなくても食事が出来るようにとパン、惣菜等を買いにスーパーに行きましたが、どこも見事に品物がなく落胆しました。対応が後手後手に廻っています。この時気づいたのは、リスク管理のことでした。普段業務ではリスク管理を気にしていたのですが、まさか自分自身の生活でこのような事が起こるとは想像もしておりませんでした。
日頃から、いざという時に備えて水タンクや防災グッズを用意しておくことや、台風が近づいてきたら台風関連の情報をこまめに入手し状況を把握することを怠っていました。また、言い訳になりますが、私がこちらに来て5年間この時期に西日本に大きな台風が来ても、東北では被害が少なかったこともあり、今回もあまり気にしていませんでした。想定外という言葉がありますが、今回のことは全く想定することをしなかったと言えます。幸いにも最初の3日間は水のない不自由な生活でしたが、後半3日間はホテルに滞在させてもらったため、それほど不自由な思いはありませんでした。
断水してから、ちょうど1週間が経過し、通水しました。まだ、飲み水としては利用できませんが、生活用水としては十分です。大げさかもしれませんが、通水を確認した時は、テンションが上がりました。災害が起こるたびテレビ等で、被災者の方の様子を見て、気の毒とは思いながら、どこか他人事と考えていました。
地球温暖化のせいか台風、ゲリラ豪雨等による自然災害が年々多くなっています。こうした災害のリスクは、これからも高まっていくものと思われます。東日本大震災後の復興・復旧のため、今の業務に関わり現地の悲惨な状況等も見聞きしました。今回は自分自身の事でも日頃からリスク管理が大切であることを痛感しました。改めて、水に対する感謝と恐れの気持ちでいっぱいです。
復興業務も終息へ
平成25年6月より携わった釜石市の復興事業も6年4ヶ月となり、そろそろ当社の担当業務も最終章を迎えています。過去のミニコミの繰り返しになりますが、改めて振り返ってみたいと思います。
【市の土地利用方針】
釜石市では、被災した地区を21(市街地5、漁業集落16)に分類し、地区の意向や地区がおかれている状況を踏まえて「安全確保」「住まいの再建」「避難のしくみづくり」を3つの柱に復興まちづくり基本計画の策定を行っています。また、復興事業について「防災集団移転促進事業」「津波復興拠点整備事業」「区画整理事業」「漁業集落防災機能強化事業」等、それぞれの地区の特性や実情に応じた事業を実施しています。
【担当地区(東部地域)】
東部地区は釜石港の北西側に位置し、古くから発展した市街地で狭い敷地に住宅や店舗などが混在・密集していたため津波により甚大な被害を受けました。
津波により被災した地域の復興を先導する拠点とするため、住宅、公共公益施設、業務施設等の機能を集約させた安全な市街地を整備するため、津波後も建物が多く残った東部(中心部)地区については、道路部分のみ工事を行い震災前の街区(街並み)は変更しないが、道路を嵩上げするため宅地との擦り付けが必要になります。
津波により建物の殆どが流失した東部(浜町)地区については、市に土地を売却し1m~8m嵩上げを行い、区域全体を嵩上げすることにより防潮堤としての役割を持たせるとともに、この嵩上げした土地に新たに道路・上下水道などのインフラ整備を行ったうえで宅地として売却します。これを「再分譲」といい売却相手は事業のために市に土地を売却した元の地権者等です。
嬉石松原地区は嬉石漁港の南西に位置し、国道45号、283号が通り店舗・工場・住宅が立ち並んでいたため津波により甚大な被害を受けました。0.5m~3m嵩上げを行い区画整理事業の実施により住宅地として利用します。居住に適さない区域は産業用地や商業地、公園として利用します。
【進捗状況】
東部地区については、移転が遅れた箇所以外は10月末に工事は完了しその後、当社の担当業務を実施する事となり、年内に完了予定です。嬉石松原地区については、当社担当の業務は全て完了し10月9日に検査も終了しました。
【最後に】
6年半、長くもあり短くもあり、見知らぬ土地に来て、たくさんの人と出会い同じ復興への思いを持って過ごせたことは、貴重な経験でした。来年の事はまだわかりませんが、釜石での経験を活かして行くつもりです。関係者の皆様本当にお世話になりました。どうもありがとうございました。
釜石の思い出
私が釜石市に赴任して6年半が過ぎました。
振り返って見れば、私が東日本震災復興支援業務に携わるきっかけは、電子基準点のデータで得た旧座標から新座標への座標補正パラメータによる、街区基準点等の座標補正及び検証測量業務に携わった経験からでした。その業務は、青森県から岐阜県に至る震災後の地殻変動に係る業務であり、私が担当した地区は青森県の青森市、むつ市、弘前市、五所川原市、八戸市でした。
当時の印象として、東北地方は地籍調査が進んでいるため、街区基準点の配点が多かった事を記憶しています。
初めて釜石市内を見た印象は、津波で木造の建物が流され、市内といえども更地が多いということ、また残っていたとしても、建物の骨組みだけが解体されないまま放置された店舗等が目につきました。6年半前、釜石港合同庁舎に表示されていた津波到達点は地上から9.3mとなっており津波の恐ろしさを知りました。当時の状況を見て復興業務完了まで何年かかるか、不安になることもありましたが、あと数カ月で完了すると思うとほっとしています。
釜石市に赴任中は復興業務に従事するとともに、地元主催の様々なイベント(釜石祭り、釜石よいさ、韋駄天競争、仙人マラソン、第九)に参加させていただきました。どれもとても良い経験となりました。
その中でも最も大きなイベントが、最近南アフリカの優勝で幕を閉じたラグビーワールドカップです。私も釜石復興スタジアムでナミビア対カナダ戦を観戦予定でしたが、残念なことに台風19号の影響で中止となりました。ところが、ここでとても素晴らしい出来事に触れることができました。なんとラグビーカナダ代表が地元の皆さんと協力して土砂を除去するボランティアをしてくれたのです。地元の皆さんとカナダ代表が力を合わせて土砂を片付ける姿を見て、これぞ「One for all, All for one」だと感動しました。
最も大きなイベントがラグビーワールドカップなら最も印象に残っているのが「釜石祭り」です。私は神輿の担ぎ手として6年前から毎年参加させていただいています。6年前は震災の影響で担ぎ手が少なかったため、何度も交代して担いだ記憶があります。今年は9年ぶりに見事復活した六角型の大神輿を担ぐことができました。
復活した大神輿を担ぎながら見渡す釜石の街並みは、6年半前の震災後の姿から見事に復興し賑わいを取り戻しています。釜石市は私の第二の故郷です。是非、皆さんも復活した釜石を見に来てください。
編集後記
今年は、台風と豪雨等で自然災害の多い年でした。その傷跡が残ったまま残り二ヶ月となりました。復旧・復興が少しでも早く進むことを願わざるを得ません。当社は、11月6日に「創業50周年」を迎えました。この記念すべき50年という節目の年を迎えることができましたのも、これまで様々な形で当社を支えてくださった皆様のおかげと心より感謝いたしております。
これからの50年においても、当社の経営理念である「奉仕に徹し、一歩、一歩、・・・また一歩」のもと、社員一同「新日、新時代」に向け、「ワンチーム」となって総合建設コンサルタントとしての技術力向上に努め、皆様のお役に立てるように更なる努力を続けてまいりますので、今度ともよろしくお願いいたします。