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ミニコミ 2020.11.19

第128号(2020年秋号)『感染予防対策のもと補償コンサル業務の実施』ほか

感染予防対策のもと補償コンサル業務の実施

用地調査にせよ物件調査にせよ、補償コンサル業務は権利者と対面し業務を行うことが大きな特徴です。

多くの業種でデジタル化やIT化が進み人との接触が減少傾向にあるなか、人との係わりが本質ともいえる補償コンサル業務は人との接触、説明、交渉なくしては成り立たない仕事といえます。

当に、補償コンサル業務は対人そのものが業務の要であり、ラストワンマイルの言葉(最終的には人間対人間が総てを解決)が意味する業務です。

特に、今年の初め以降、日本中を不安に陥れているコロナ禍での各コンサル業務では、発注者との打ち合わせ等にあっては最少人数、最短時間での業務対応を余儀なくされました。

補償コンサル業務でもこの対応に変わりはなく、業務では発注者及び権利者との密な接触は最小限にとどめる傾向となっています。

補償コンサル本来の業務内容は、発注者との協議はもとより、土地や建物の権利者等への挨拶説明に始まって、土地調査や物件調査では、ヒアリング調査や権利者からの説明等を受けながら調査や算定作業を進めていきます。

更に、補償説明業務や用地総合補償業務に至っては、度重なる丁寧な説明や交渉、合意等、権利者との接触が必要です。

このように濃厚接触が重要な性格の仕事にありながら、この時期、良し悪しに関係なく最小限の説明と接触で業務継続を進めているのが現状です。

そのため、このコロナ禍にあって補償コンサル業務に携わるに当たっては調査担当全員に対して、用地調査関係では

 

①発熱、倦怠感等の症状がないか確認。

②アルコールによる手指の消毒。

③消毒済の器具等の使用。

④マスク着用。

 

等々の感染予防対策を徹底し、更に物件調査等、家屋内の調査では会話は極力少なく密にならない配慮等、細心の注意を払う等の感染予防対策を宣言し業務に従事しております。

この世のなか何が起こるか分かりません。

どんな時代になろうとも、感染予防対策のもと業務継続を目指します。

曳家工法云々

皆様ご存知のことと思いますが、既存の建物等を分解することなく、現状の姿のまま、他の場所に移転する方法が曳家です。

区画整理事業においては、移転工法として一般的な採用工法として扱われていますが、その他の物件補償では、補償金が安い、曳家後の建物強度の劣化が心配などの理由から物件所有者からの理解が得られにくい、また曳家工法で補償を受けたにも関わらず、何らかの理由により建て直すことを選ぶなど採用工法が実態と乖離しているなどの状況から一時期は曳家工法の認定をさける傾向にありました。

曳家は、一般的には認識の薄い専門的な技術であり、請負業者の選択が難しいことも所有者が嫌がる理由の一つかもしれません。

そもそも日本の曳家の歴史はかなり古いものであり、もともとは神社仏閣に携わる宮大工から派生した鳶職の内から、祖となる技術者集団が生まれたものだそうです。現代の曳家技術は江戸時代から明治時代に専門化し、近年は機械の導入により大きく発展した技術です。余談ですが、この辺りのことは内藤了著の小説「鬼の蔵 よろず建物因縁帳」にも書かれています。(築300年以上の土蔵の曳家に纏わる因縁話です。ホラー好きな方はどうぞ)

曳家の工程は、初めに業者が状況を確認します。建物の重心の見当を付け、そして必要な補強を行います。経験に基づく判断が行われるため、この時点で移動に伴う損傷は大きく予防されます。

次に基礎を切り離し、ジャッキを使って建物を持ち上げます。そして床下から移動先まで敷いたレールに乗せた後、ジャッキで押すかウィンチで引いて移動。新しい基礎の上に据え付けます。

移動は慎重に行われ、基本的に建物を使用したままでの移動が可能だそうです。住んだままで居宅を10m近く揚家した例もあると聞いたことがあります。但し、補償の積算基準では使用を中断するものとして算定することとされています。

近年話題となった曳家の例では、青森県の弘前城天守の曳家だと思います。巨大な天守が動く姿はニュースでも映されていました。曳家があれほど巨大で文化財的価値の高い建物を移動する技術であれば、所有者の方も安心できるのではないかと思います。

さて次に、曳家工法を採用できない場合とはどのような場合か、曳家工法の算定方法は、そして本当に曳家工法は経済的かといった点について書こうかと思いましたが、今回は文字数オーバーとなってしまいましたので、またの機会にいたします。

大規模施設における補償積算について

産業廃棄物の処分場やプラント工場、工業団地内の大規模な製造工場、総合運動場(野球場、テニスコートなど)、かんがい用貯水池などが公共事業により移転対象となった場合、用地調査積算基準に則り業務発注され、補償積算基準や建築基準の積算要領に基づき補償額が算出されます。

しかし、公共施設や工業団地内などの大規模施設は、建設工事(建築工事含む)として発注され、施工されているのではないでしょうか。事業概要や竣工図や建築確認申請などの既存図、登記情報、営業実態など調査を進めていく中で、施設の施工にあたっての見積書や契約書の内容の確認も重要です。建設工事として施工されている場合、現行の小口単価で構成されている損失補償基準の単価などが合致しないと考えられます。用地の補償業務委託として発注されている場合の対処方法として、建物等は建築工事に該当することになりますが資材発注は建設工事となるため、小口単価を大口単価に置き換えることや建設工事による経費率(共通仮設費、諸経費など)を適用することが望ましいのではないでしょうか。

基本的に発注者判断によりますが、受注者側の業務初期における提案も必要と考えます。

補償コンサルタントとして業務を実施するには、資材単価を小口から大口への置き換えするなどの対処が考えられますが、歩掛数量の変更も関連する問題として挙がります。しかも、積算に必要な単価作成には標準書の単価全てが対象となることから相当な時間と手間を必要とし、歩掛数量までの反映となると倍以上の時間を要します。(おそらく業務の工期期間内での作成はまず難しいと考えます。)

大規模な施設が支障となるような事業の場合、次の内容を確認すべきではないでしょうか。

 

①施設概要(登記簿、ホームページなど)

②積算基準の確認(見積もり内容、採用単価、経費率など)

③公共施設建設における交付金

④建設時の見積書や契約金額

 

よって業務発注する前に業者への相談や意見を基に発注者側での検討が必要と考えます。

特に経費率(共通仮設比率、諸経費率など)に関しては、損失補償基準での経費率の約2倍となることもあり、算出する補償額に大きな影響があります。実際の工事発注を想定した実勢価格に近い補償額であることが、公正で妥当な補償だと考えます。

また、③交付金の補償額での重複についても近年の会計検査における指摘ポイントとなっており、控除されていないために不当案件となった事例もあるので注意が必要です。

近年、九州地区や広島県、長野県など全国的にゲリラ豪雨や大型台風などによる大規模災害が起こっており、防災のためのスーパー堤防の築堤など、公共事業の施行により大型施設などが支障となった場合の機能回復という点で、補償額の算出内容について私なりの視点で述べさせて頂きました。

災害復旧事業の現場に赴任して

梅雨のころに新たに受注した福島県のCM業務に派遣される担当者に指名され、収まる気配のないコロナ禍と厳しい残暑の中で福島へ移動してから、そろそろ3か月が過ぎ、磐梯地域の紅葉が美しい季節になりました。

福島県は昨年の台風19号による豪雨災害で、甚大な被害が発生したことは記憶に新しいかと思います。それから1年が経ち、県内では多くの箇所で河川の復旧・改良工事が始まろうとしています。その事業支援の用地担当として福島に赴任したのですが、補償積算や用地交渉以前に事業用地の登記や相続などで多くの問題があり、頭を悩ませているところです。

国から交付される交付金には時間制限があり、よく政治の世界で言われる「スピード感を持った対応」を求められる場面が非常に多くなります。何よりも迅速な解決が求められる場面で『時間をかけて解決する』タイプの手段はまず選択肢から外さなければなりません。しかし、土地に関する案件は往々にして時間をかけなければならない事案が多くあります。

例えば、戦前から戦後にかけて豊かな暮らしを求めて多くの日本人が海外へ移住しました。しかし、その多くはその国に定住し2世、3世と繋がれる一方で、1世本人は既に亡くなられていることが大抵です。その移住者1世が事業対象用地の相続人という事案も少なからず存在し、こういう時に限って技術的観点から設計変更などで外せない場所に存在していたりするため、非常に困ったことになります。通常の事業では、現地の関係機関や専門のコンサルタントなどを利用して海外の居住者を探すなど、時間をかけて解決する方法を採ることもあります。とはいえ時間制限がある以上、短期間で工事着工にこぎつけなければならず、家庭裁判所による手続きや国内の相続人関係者から施工承諾を取るなどの方法が現実的となります。

現地には所々に災害の爪痕も残され、早く何とかしてほしいという地元の意向も伝えられる一方で、短期間で事業を遂行するために、時には荒業も駆使しなければならないといった公共事業の難しい部分を実感させられているところです。

設計会社との共同業務ということもあり、河川の設計について多くを知ることができます。また用地関係についても、本社にいたときには触れることの少なかった補償業務が発注されるその前と後に携わる貴重な機会でもあり、多くを吸収して、今後につながるようにしていきたいと思います。

所有者等の確認(その5)

前回(第122号)にて、ほこら等の所有者についての確認方法を述べました。今回は、境界付近の工作物等の所有者について、一般的な確認方法を記述したいと思います。

調査に行く前には、調査対象地の登記簿謄本などで土地の登記名義人を確認します。また、測量図等で調査する土地の場所を確認します。調査では、土地所有者の確認を行い、土地の立ち入りの了解を得て、建物・工作物等の調査を行うことが一般的です。

調査対象地の境界付近では、工作物等の所有者がはっきりしない場合があります。工作物等の所有は、聞き取りによる確認が一般的ですが、境界に工作物等が重なる場合などは隣接の土地所有者等にも聞き取りを行う必要があります。

聞き取りは、工作物等の所有者と考えられる色々の場合を想定して行わなければなりません。片方の所有者の場合、双方の共有の場合、その他変則な場合など。

片方の所有者の場合でも、隣接者の確認は必要です。双方の共有の場合でも、持分が等分で無い場合もありますので双方から聞き取り照合する必要があります。また、変則の場合もありますので事例として紹介します。

工作物はブロック塀の共有でした。基礎および3段目までのブロック積みは共有でしたが、上2段は片方の所有となっていました。別の事例として、基礎から4段目まで片方の所有でしたが、上2段は隣接者の所有となっていました。このように色々なパターンがあると考えられますので、十分な聞き取りが必要です。

工作物の設置された経緯が分かる場合は、聞き取りもスムーズに行えますが、古い時代の工作物等では、隣接者双方の聞き取りに食い違いが出る場合があります。親の代、先々代になるほど、はっきりしない場合があります。特に、親戚同士が隣接者の場合、工作物等の所有継承の過程で食い違いが生じる可能性があります。

所有の確認は、調査員が決めるものではありません。双方の納得が出来た時点で、調査報告書に所有者として記載をしていきます。双方が納得しない場合は、発注者(起業者)と協議をしなければなりません。(報告書の作成が出来ないため)

境界付近の工作物は、隣接地(公共部分含む)に、はみ出る場合もあります。敷地へ乗り入れるため道路や側溝(水路)にコンクリートで施工した場合などです。特に水路の上を使用する時は、占有許可が必要な場合もありますので、その確認も必要です。

長年、補償調査業務に携わっていますが、補償物件の所有者の正確な把握(確認)は最も基本的なことです。今後も正確な物件の所有者等の確認には最大限の配慮を尽くしてまいります。

石綿調査

令和2年3月に中央用地対策連絡協議会事務局より、土地・建設産業局事務局によって石綿調査要領の解説が作成されたので令和2年4月から適用になった旨の通達がありました。

今までは発注される際に要望があったもののみ石綿調書を作成していましたが、全ての業務に調書を作成する事になったということです。そのため内容をよく把握して分かり易い調書を作成することが必要になりました。

石綿(アスベスト)は安価でありながら、耐熱性・耐火性・絶縁性・防音性などに優れており、建築現場などでは非常に重宝されてきました。

アスベストとは、地中から産出される繊維状ケイ酸塩鉱物のことで、石綿製品の9割以上を占める白石綿や吹付石綿として使用される角閃石等などがあります。

これら石綿は細かな繊維状でできているため、熱や摩擦、酸やアルカリに非常に強く、そのうえ変形しにくいといった特徴がみられます。

そのため、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されてヒトの肺胞に沈着しやすい特徴があります。吸い込んだ石綿の一部は異物として痰の中に混ざり体外へ排出されます。

しかし、石綿繊維は丈夫で変化しにくい性質のため、肺の組織内に長く滞留することになります。この体内に滞留した石綿が要因となって、肺の線維化や肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こすことがあります。

このため1975年に初めてアスベストが規制された後、1986年、1995年、2004年、2006年と数年おきに規制が強まったため、2006年以前に建てられた建物にはアスベストの含有の可能性があることになります。

さまざまな建築物に広く使われてきたアスベスト含有の建材は建物の建てられた時期と規制の経過を照らし合わせることでアスベストの有無をある程度判断することが可能となるということです。

そして、現在は使用されることが無くなりましたがアスベストは現在でも古い建物に残っていることが多く、解体工事やリフォームを行う際に十分な注意が必要となるのです。

直近の業務において判断したのは、建築年度が昭和49年の木造建物の外壁に使用されている『リシン吹付』が対象になるかどうかでした。

『リシン吹付』は骨材に樹脂、セメント、着色剤などを練り込んで造り、外壁等の表面保護に吹付けられています。仕上塗材、下地調整剤に使用されていたアスベストのほとんどは白石綿で、ごく一部の製品に茶石綿が使用されており、最も発がん性が高いとされている青石綿については使用実績が無いそうです。外壁の塗装によく用いられる『リシン』ですが、関東地方ではリシンに関する分析で実際にアスベストが検出された事例もあるそうです。

実際に使用されていたとされる期間は、国土交通省の石綿含有建材データベースを確認したところ、アスベスト含有仕上塗材・下地調整塗材の概要の中にレベル2として1981年から1988年に使用されていると記載がありました。対象のリシン吹付は1974年。石綿の含有は無しの判断に至りました。

アスベストは使用禁止になるまで、建築された年代によって使用率が違うため、石綿含有建材データベースを元に、使用していた期間、使用されたと思われる期間を「種類別石綿使用期間表」にリストアップし実際に建築された年度がどこに当たるかを表記。その後、参考資料として『レベル別石綿調査算定フロー』に従って石綿の使用の有り・無しを判断し、石綿の使用が有りや不明の場合によっては『調査』を実施し、除去処分費用の加算、手こわし単価等の採用となります。

まだまだ、じっくり考えながら調査、算定を進めていかなければいけないと考えています。

編集後記

今年は暦通り立冬に合わせて朝夕が寒くなってきました。気温の低下、乾燥の季節になるとインフルエンザが蔓延し始めます。また、新型コロナも再びその勢力を強め始めているように思えます。

例年と違いダブルでの感染拡大が懸念されます。三密を避け、手洗い、消毒、マスクの着用等でウイルス感染拡大の対策をより一層強化し、これからの繁忙期を乗り切りましょう。

当社は、昨年で創立50周年となり、今年から「100年企業をめざして!」のキャッチフレーズをもとに新たなる第一歩を踏み出しました。これを機にこれまでの経験を活かすとともに更なる技術の研鑽に励み、皆様のお役に立てるよう努力をしてまいります。

今後とも、よろしくお願いいたします。

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