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ミニコミ 2022.08.22

第135号(2022年夏号)『補償コンサルタント業務の発注傾向』ほか

補償コンサルタント業務の発注傾向

近年、補償コンサルタント業務にあって、発注者である官庁用地職員の減少が大きな課題として挙げられています。

平成22年~令和2年の10年間で市町村における用地職員数は15%の減少、国土交通省にあっては16%の減少とされています。

市町村にあっては、そもそも用地職員自体の存在が無い、即ち用地職員数が0人の自治体が70%を超え、3人以上の用地職員を抱える市町村は全体の17%に過ぎないとされています。

そして、数少ない市町村用地職員にあっても、災害関連事業や地元市民の要望による新規事業等の増加によって、本来の用地取得の事務になかなか就くことが出来ない実態もあるようです。

これらの課題は市町村のみならず国土交通省にあっても用地職員の減少とともに急速な高齢化が進み、本来ならば地域と密接に接触すべき用地係員や係長等職員の減少が業務に支障を来たし、大きな課題となっています。

こうした近年の傾向のなか、用地業務として補償関連部門、総合補償部門業務、更には用地CM業務等、発注者の補助及び支援等、一連の用地業務が市町村を中心に発注されつつある傾向がみられます。

しかしながらコンサルである受注者側も、これまでは測量や調査算定など用地調査や物件調査、算定が中心の仕事であって、官庁用地職員が実施してきた事務や手続き等に関しては経験がほとんどありません。

その為、これらの業務受注に現時点では充分な体制が整っていないのが実態です。

今後は補償コンサルとして用地CM業務を含め用地実務経験者の指導を受けながら事務手続き等業務を身に付けて行く必要が有ると思っています。

発注者からは受注者である我々コンサルに対し、補償のプロだと冗談交じりで言われることがあります。しかし、測量や調査算定については多くの経験を有していますが、用地の本質である用地事務手続きに関しては経験も浅く、勉強を深めていかなければなりません。

従来の測量、調査算定を中心とした技術は当然として、用地事務手続き業務のセンスをも身に着け、補償コンサルとして充実させていきたいと考えています。その上で、市町村をはじめ、発注者の役に立てるコンサルを目指す覚悟です。

今後ともよろしくお願い致します。

不法占用物件等の用地交渉

私は、河川災害復旧プロジェクトの一員として発注者とともに、工事遅延、予算超過などの防止を目的に、設計者・工事受注者に対するマネジメント業務(CM業務)に従事しています。業務のなかで経験した河川区域に河川管理者の許可を得ずに設置した工作物や立竹木、動産等のいわゆる不法占用物件について紹介します。

以前、『河川区域については、河川法の規定により河川管理者の許可を得た場合においてのみ工作物が設置できるため、これに該当しないものについては移転補償の対象としない。』と起業者担当職員から説明を受けた事がありました。そのため、不法占用物件等の移転補償については、私自身もこれまでは消極的な考えでした。

今回業務においても、不法占用物件等については移転対象とせず、物件所有者から所有権放棄の同意を得ることを基本に用地交渉を進めました。

この事業での河川区域の物件等は、船着き場のコンクリート叩き、スロープ、花壇等の工作物、動産及び立竹木です。

基本方針に基づき用地交渉を円滑に進めるためには、現在の状況に至るまでの経緯を把握し、不法占用物件等は補償対象とならない事を丁寧に説明しました。その結果、幸いにも工作物や動産については、物件所有者も不法に設置した認識もあり、補償対象としないことで同意が得られました。

立竹木については、所有者が2名で、一方は住宅敷地と河川区域の線引きが不明瞭(公図混乱地域)のままに形成された庭園に植栽された庭木です。

最近行われた法務局調査によって、堤防敷であった事実が明らかになりました。こんな経緯があって、当該地に存する庭木については、移転補償の対象とする事で整理することになりました。

もう一方については、堤防敷に植栽された観賞用の枝垂れ桃です。春には管理用通路を挟んだ自己所有地に植栽されたものと一体となり、綺麗に花が咲き誇ります。しかし、河川区域と認識の上で設置したものであることから、基本方針どおり移転補償の対象外とすることで整理することとしました。

同じ不法占用とは言え、異なる補償対応となりましたが、法令上の正当性のみではなく、占用の認識、経過、地域背景等の条件によって、補償対応が異なります。最近、公共事業用地を取得する場合の不法建築物等について、補償対象にすべきであるという考え方があり、近年の土地収用法の規定に基づく裁決例でも同様の判断がなされている事を知りました。

このような観点から、円滑に公共事業用地を取得していくためには、所有者の認識、背景等にも配慮した上で用地交渉に臨む必要と、不法占用物件等であっても補償対象の是非を検討する必要があることを感じました。

補償説明業務について

補償説明とは、公共事業に必要な土地等の取得及び建物等の移転等の対象となる権利者と面接し土地評価(残地評価含む)の方法及び建物等の補償方法、補償額の算定内容について説明を行うことです。

業務実施前に発注者と打ち合わせを実施して関係権利者に関する情報をヒアリングし、必要な資料及びデータを受領します。この情報、資料を基に全権利者に対して説明資料「用地実測図や権利者ごとに作成した用地平面図(取得地:薄赤色)、重要事項説明書(土地・建物等の補償金、契約後の留意点、税金・年金関係など記載)、物件配置図(移転義務の有・無を記載)、写真台帳、事業計画における説明会資料」を作成します。

この資料を用いて土地評価の方法や補償内容等に関する説明を行うのですが、ある業務では権利者の中に神社があり、事業により境内地の一部が取得となるため、包括団体である神社本庁への財産処分申請手続きが必要となりました。そのため、各神社の代表役員(宮司)より神社本庁へ提出する申請手続きに必要な財産処分申請書(案)や添付書類(所在図、神社との位置関係図、明細図、登記簿謄本、地籍測量図など)を準備、説明して事業への理解と契約同意に向けての協力依頼を行いました。

この様に権利者の事情に合わせた説明資料を作成することもあります。

用地補償総合技術業務と同様に補償説明業務も用地交渉の相手方となる地権者は業種、世代、性別、地域性など様々であり、相手方が抱える問題も移転先、相続など多種多様です。業務設計書から資料を用いて説明する業務と言ってしまえばそれまでですが、専門的な知識を必要とすることはもちろんのこと公共事業に対して協力を得るためのノウハウは用地交渉の中で培う経験が必要となると思います。

現在は情報公開法の施行、インターネットの普及等により権利者側が以前よりも情報を収集しやすい環境となったことから理解されていることもあります。しかし、権利者からよく「理解はできても納得できない。」という発言もあります。説明内容は頭ではわかる(理解できる)が承諾するわけにはいかないということです。

補償説明は相手に理解してもらうことですが、それだけでは不十分で、相手の懐に入り込み相手を納得させることが重要であり、さらに相手に納得してもらうためには何をすべきか考えて行動する必要があると思います。

例えば、

①笑顔で分かり易くゆっくり丁寧に話す。

②事業内容を理解し必要性をきちんと説明する。

③話をよく聴く。(相手の目を見る、適切な相づちを入れる。)

④新聞、本を読む。趣味を持つ。(時事や趣味を持つことで権利者と共通の話題ができます。)

 

補償説明業務と異なり用地補償総合技術業務では補償額算定書や移転工法等の照合などの業務が含まれていますが、どちらも権利者に対し事業への理解と納得に向けた業務だと思います。

石綿(アスベスト)関連規制の改正に伴う事前調査の報告義務について

【石綿の事前調査】

事前調査とは、建築物等の解体等工事を行う前に当該建築物等に石綿含有建材が使用されているか否かを調査することを言います。

石綿は耐熱性、耐薬品性、熱絶縁性、吸湿性などの特性から、吹付け石綿として壁、天井、柱、梁等に使用されたほか、保温材、断熱材等に使われてきました。また、この他にも波型スレート、石綿セメント板、仕上塗材などとして屋根材、壁材、床材、天井材、内外装材の仕上材等に用いられてきました。ただし、平成18年9月1日の労働安全衛生法施行令の改正によって重量比で0.1%を超える製品については、在庫品を含めて輸入・製造・使用等が原則禁止となっていますので、石綿含有建材が使用されていないことと判断されています。

事前調査では、まず設計図書等の書面調査や現地の建築材料に印字された製品名や製造番号等を確認する目視調査を実施して、該当する可能性のある建築材料を特定します。また、書面調査及び現地での目視調査で石綿含有建材の有無が把握できない場合は、現地で当該建材を採取して分析調査を行います。

建物の建築時期、規模にかかわらず全ての建物において、建物の解体、改造、補修工事を行う際は石綿含有建材の有無について事前調査を行う必要がありますが、令和4年4月1日からは、大気汚染防止法に基づき当該工事における石綿含有建材の有無の調査結果を都道府県等に報告することが義務づけられました。また、この報告は、厚生労働省が所管する石綿障害予防規則に基づき、労働基準監督署にも行う必要があります。

 

【事前調査の報告対象】

事前調査結果の報告対象は、以下のいずれかに該当する工事(令和4年4月1日以降に着工するもの)で、個人宅のリフォームや解体工事なども含まれます。

①建築物の解体工事(解体作業対象の床面積の合計80㎡以上)

②建築物の改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込み))

③工作物の解体・改修工事(請負代金の合計額100万円以上(税込み))


※工作物の例

 煙突、立体駐車場、エレベーター昇降路、ボイラー、タービン、化学プラント、焼却施設、遮音壁など


 

【事前調査を実施する者】

適切に事前調査を行うためには、石綿含有建材の使用の有無の判断を行う者は、石綿に関して一定の知識を有し、実際に調査をした上で的確な判断ができる者である必要があることから、令和5年10月1日からは、以下に示す資格者等による事前調査の実施が義務付けられます。

①特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)

②一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)

③一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)

④(一社)日本アスベスト調査診断協会に登録されている者

 

【事前調査実施の義務を負う者】

事前調査の義務を負う者は解体等工事の元請業者及び事業者ですが、工事の発注者は、事前調査に使用する設計図書等の提供や適切な費用の負担等の協力が必要となります。


※大気汚染防止法第18条の15第2項

解体等工事の発注者は、当該解体工事の元請業者が行う前項の規定による調査に要する費用を適正に負担すること、その他当該調査に関し必要な措置を講ずることにより、当該調査に協力しなければならない。


 

【大気汚染防止法に規定する事前調査と用地調査業務における石綿調査の関連】

用地調査業務で発注される石綿調査は、補償額の算定を目的として行うものです。建築時期や修繕実施状況の確認、既存図の確認、施工業者等への聞き取り現地調査を基本として、石綿使用の有無の判定を行い、使用の可能性が不明の場合には試料の分析調査を実施して特定します。調査の結果を調査表と図面にまとめ、これに基づいて石綿含有建材の解体工事費を積算します。

一方、大気汚染防止法に規定する事前調査の方法は、用地調査の石綿調査の方法と重なる部分が多いのですが、目視調査の段階で当該建築物等の構造上確認することができない箇所があった場合には、解体等工事に着手後、目視が可能となった時点で調査を行う必要があります。


※解体等工事前に調査できない可能性がある場所の例

・内装仕上材(グラスウール断熱材、天井ボード、ウレタン吹付けなど)の裏

・改修等工事で石綿含有吹付け材の上に無石綿のロックウールを吹付けた場合

・厨房の調理台周辺の金属板やシンクの裏側、タイル張りの下地材

・バスルームのタイル張りの下地材、ユニットバスの裏側の成形板、システムキッチンの裏側


 

【建物調査における課題】

法の改正によって一定の規模以上の解体等建設工事について事前調査結果の報告が義務化され、建物の移転をする所有者の費用負担によって事前調査を依頼することが明確になったため、撤去処分費に加えて調査費用相当分の補償を考慮してもよいのではないかと考えます。

また、建物調査で実施した石綿調査の結果を大気汚染防止法の事前調査に活用できる場合もあることから、建物調査における石綿調査についても、『有資格者による調査の実施』等の大気汚染防止法・石綿障害予防規則等の規定に準拠した調査仕様とすることが有意義と思われます。


※環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和3年3月)」

過去に石綿含有建材かどうかを調査していた場合、当該結果を書面調査の1つとして使用することも考えられる。また、過去の調査方法が現在の大防法、石綿則の規定に従ったものであるときは、その結果を活用することも考えられる。


 

【新日が対応】

建物調査における石綿調査は、適正な補償額の算定を目的として実施されるものですが、その調査結果については、大気汚染防止法等関係法令における事前調査に結び付く可能性もあり、法令に規定された専門家による調査が期待されていると言えます。

当社は、石綿調査の専門家であるアスベスト診断士が在籍しております。用地調査に限らず建物改修に伴う石綿調査や処理にも対応致します。

再算定業務について

昨年度は歩掛改訂の年次であり、単価構成の数量変更や新規単価の追加など大きな変動があったと思います。また、新規の単価が追加されたことで、単価のコードが変更されている箇所も多々あります。

さて、現在令和4年度単価を使用し、過年度に調査した物件の再算定業務を行っておりますが、業務を通じて今年気を付けていること、補償金額の推移について記述します。

昨年度から木造建具のアルミサッシ、ガラス窓等に4㎜のガラス厚が追加されました。再算定では写真や施工状況から4㎜に変更する必要があるか判断し、変更を行っています。変更に伴い建具位置図、立面図、展開図へ影響を及ぼすため、従来の単価の入替えのみでなく、数量計算が正しく行われているか十分に精査する必要があります。また、中部単価の建具のコードが変更となっているため、過年度のコードのまま再算定を行うと雪見障子がクローゼット折戸となってしまいます。雪見障子や舞良戸といった中部単価を使用している物件については、今年十分に気をつけて再算定を行う必要があります。また、カーテンレールの単価は、過年度は金属製のもので長さは2mまででしたが、今年度から木製のカーテンレール及び長さも3.6mまで追加されました。

今年度の損失補償算定標準書において、大きく変化があったのは木造建物の廃材量の考え方であると思います。従前は100㎡程度の建物から排出される廃材量を基準とし、延床面積によって補正を行うというものでした。今年度は1㎡当りの廃材統計値を定め、1階床面積あるいは延床面積を乗じて求めることとなりました。また、浄化槽や便槽が設置してある場合は別途廃材量を加算することとなっています。早速、新しい算定方法で廃材量を求めたところ、混合廃材等が大幅に増える傾向があります。廃材運搬のトラック台数を求める係数も変更があることから、今年度の再算定では補償金額の大部分を占める「建物移転料計算書」に大きな変動があるため、十分な精査が必要と感じています。

歩掛改訂に伴い単価の金額はほとんど上昇傾向にありますが、廃材処分費、分電盤は金額が減少しています。また、年利率も0.8%に引き下がっているため再築補償率も減少傾向にありますが、今年度の補償金額は過年度に比べるとほとんどの物件が上昇しています。

昨年度の歩掛改訂に続き新規単価の追加、木造建物の廃材量の考え方など、損失補償算定標準書に変更があります。過年度調書からの変更内容及び金額の推移など、発注者の方に分かりやすい調査報告書を作る必要があると感じています。

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