トピックス

ミニコミ 2022.11.24

第136号(2022年秋号)『補償実務例集の作成を』ほか

補償実務例集の作成を

学校を卒業し補償業務に携わることになって50年。

当時は右肩上がりの時代で戦後の社会資本整備が盛んな時代でもありました。

そして、官庁では測量をはじめ用地買収に伴う物件調査等、用地業務の総てを職員自らが実施する時代でもありました。

これ等業務はその後も引き続き増加する一方で、工場等の特殊物件では測量、建築、設備等の専門知識が必要なものは、民間会社への調査協力依頼も増加していきました。

そのため、我々民間業者は官庁職員の方々といっしょになって、調査や算定方法の指導を受けながら仕事を覚えていきました。有難い時代でもありました。

その後も業務は継続増加し、官から民への業務発注が増加、また様々な特殊な業務を経験していくなかで、補償業界団体(補償コン協会)も設立され現在に至っています。

現在では、補償業務として特殊及び類似の補償事例等の情報収集もコンサルの役割となっています。補償実務に長く携わったとは言え、自らの実務経験はそれほど多くもなく、単に業者の経験であって、起業者として決定採用した内容とは必ずしも一致するものとは限りません。言わば補償方法検討に当たって、何が課題、何を検討分析したかという意味での実務例です。また、補償法として「通常妥当な移転先に、通常妥当な移転方法によって…」とありますが、この通常妥当とは時代によって変化していくものでもあります。

しかし、多くの事例を収集するためには、自ら経験した補償事例を積極的に紹介してこそ新たな事例等の情報収集も可能となってきます。

そんな意味で、今後は自ら経験してきた補償実績を、忘れかけた記憶と数少ない記録に基づいて収集蓄積したいと思います。

そして、今後しばらくは、補償実務例集の作成にも力を注ぎたいと考えています。

所有者等の確認(その6)

前回(第133号)にて境界付近の工作物等の所有者について確認の方法を述べました。今回は動産の所有者について、一般的な確認方法を記述したいと思います。

調査に行く前には、調査対象地の登記簿謄本などで土地の登記名義人、建物の登記名義人を確認します。動産の調査では、土地・建物の所有者から立ち入りの了解を得て、調査を行います。

動産調査では聞き取りにより所有者を確認することが一般的です。

動産の所有者の確認は、左記のように注意が必要です。

【その1】借家で大家の動産がある場合、動産の所有を分ける必要があります。

【その2】2世帯の場合、動産の所有を分ける場合があります。

【その3】工場等で修理部門がある場合、預かり品は所有の確認が必要です。

【その4】リースの場合、所有はリース会社になります。

【その5】店舗等で販売権利者と、販売者の動産を分ける必要があります。

動産の所有者の確認において、片方の聞き取りではなく双方から聞き取り照合する必要があります。

動産は、持ち主が誰々だと思い込んでいる場合もあり、慎重に聞き取りを行う必要があります。現地調査の事例を紹介します。共同住宅の倉庫の中の動産が、誰の物か分からないことがあります。大家の協力により前の所有者が置いたままになっていることが判明し、引き取りに来ることになりましたので、その動産は対象外としたこともあります。

別の事例として、預かり品を動産とするか否か検討した結果、長期に預かっている状態であったので、預かり品の動産は移転先に移動することが妥当と考えました。

同様に、リースの複写機などは、リースの借り換えの場合も想定されますが、リース利用者の移転先に動産として計上することが妥当と考える場合があります。

動産の所有は、調査員が決めるものではありません。関係者の確認が出来た時点で、調査報告書に動産の所有者として記載をしていきます。動産の所有が不明の場合や関係者の複数人が所有を主張する場合は、動産の特定が出来ず報告書の作成が出来ません。その場合に発注者(起業者)と協議をしなければなりません。

動産は、目に見えない場所にある場合もあります。建物の天井裏に物入を造作し動産を置く場合、床下に収納スペースを造作し動産を置く場合や屋根瓦を保管していた場合もありました。

長年、補償調査業務に携わっていますが、動産の所有者の正確な把握(確認)は、基本的なことです。今後も正確な所有者等の確認には最大限の配慮を尽くしてまいります。

除却工法を認定した事例及び関連する空き家問題について

今回は建物の移転工法の内、除却工法を認定した事例及びそれに関連する空き家問題についてお話ししたいと思います。

 

①除却工法を認定した事例

移転工法には、再築工法、曳家工法、改造工法、復元工法、除却工法とありますが、一番採用される数の少ない工法が今回紹介する除却工法ではないでしょうか。

用対連基準細則 第15条1項(二)には、建物の一部が当該建物に比較してわずかであるとともに重要な部分でないため除却しても従前の機能にほとんど影響を与えないと認められる場合、又は建物を再現する必要がないと認められる場合には通常妥当と認められる移転先の認定を要しないものとし、通常妥当な移転方法として除却工法を認定すると記されています。

除却工法が認定された当該物件は敷地内に昭和初期に建設された建物2棟、附帯工作物、動産及び立竹木がありますが、これらの所有者は既に亡くなっており、調査実施時点では空き家の状態でした。さらに、当該物件は所有者が亡くなった後、すべての相続人が相続を放棄したことから、調査実施時点での所有者は、県が裁判所に対し相続財産管理人選任の申し立てを行い、選任された弁護士となっていました。

以上の要因から、実質的な所有者は不在かつ空き家で一定期間利用実態がないと判断することができ、当該物件は上記細則の後半部分に当たる、再現する必要がないと認められる場合に該当すると判断したため、除却工法を認定しました。

 

②空き家問題について

近年ニュースで取り上げられている通り、日本では「空き家」が増加の一途をたどっています。「住宅・土地統計調査(総務省)」によると、空き家の総数は、この20年で1.8倍(448万戸→820万戸)に増加しています。

空き家は「賃貸用・売却用」、「二次的利用」、「その他の空き家」の3種類に分類されます。「賃貸用・売却用」とは、住む人がいなくなった家の買い手や借り手を探している状態の空き家を指します。「二次的利用」とは、別荘など普段は人が住んでいない家のことで、空き家に分類されてはいますが、基本的には所有者が利用、管理している状態の空き家を指します。つまり、「売却用・賃貸用」、「二次的利用」に分類されている空き家については、特に問題はないと言えます。問題となるのは、「その他の空き家」です。「その他の空き家」とは、買い手や借り手を募集しているわけでもなく、そのまま放置されている状態の空き家を指します。この問題となる「その他の空き家」単体でみると、この20年で2.1倍(149万戸→318万戸)に増加しており、空き家全体に占める割合は38%に上っています。

 

今回紹介した物件はまさしく「その他の空き家」に該当します。すべての相続人が相続を放棄するという要因もあってのことですが、今後さらに「その他の空き家」の増加に伴い、当該物件と同様の理由で除却工法を認定する物件が増加していくのではないでしょうか。

補償積算システムに思う

昨今、建物補償積算システムの活用が不可欠なものとなってきており、わが社では現在2種類のシステムを使用しています。

入社した当時、図面も描けず算定もできず、手で描いた図面をコピーで切り貼りし、全て手書きで調書を作成している周りの人の姿を見て、自分にできるかどうか不安な日々でした。その後、調査表をマークシートで記入、数字をテンプレートで記入することが導入され、愛知県システムYOUHOS、名古屋市システム等の使用が始まり、当時は頭を悩ませながら駆使して調書を作成した記憶が鮮明です。最近ではWINDOWS版対応のシステムもすっかり定着し慣れてきているものの、活用するにはいくつかのポイントが必要に思います。

システムもそれぞれ特徴がありますが、建物の算定の場合には、図面→数量計算書→算定書(別紙単価表作成)→移転料計算書→総括表の作成となっています。その際に平面図でどれだけ情報を連動させる要素を入力するかにより、数量計算書に反映させ作業を省力化できるかになっています。わが社では残念ながらシステムで図面から作成して書ききることを覚える余裕がなく、思った通りに加筆可能なCAD専門のシステムを使用し、図面の出来栄えを優先しています。そのため数量計算書からの入力となります。数量を入力し、単価を入力するのは図面と突き合わせる作業になりますが、基本的に統計値等の基本事項は頭に入れておかなければなりません。さらに、毎年単価の改正に加え5年ごとの歩掛からの改正等、標準書の内容は最新のものを頭に入れておく必要があります。令和4年度は建物の廃材量の考え方が根本的に見直され、現在使用しているシステムも毎年6月ごろに更新されるデータに間に合わず対応しきれないため、エクセルでの補足が必要となっています。

建物の補償は全て同じ積算のものはほぼありません。そのためシステムで全てを入力できない場合も多々あります。エクセル等、別紙を作成して補足資料で補うのが一番良い方法です。

システム開発の方は全国の補償算定業務に対応するシステム開発をされている為、パラメーターという詳細を決めるとても沢山の条件設定があります。一度設定しても、毎年の設定が変更、追加される場合、システムが起動しなくなることもあります。1業務につきパラメーターを設定しておけば、手分けしてシステムを複数台で使用した際には便利ですが、パラメーターの内容に誤りがあり、訂正を加えることになると、またその業務を担当して作業している人との連携も必要です。どれが最新のものであるか分からなくなることもしばしばあります。当たり前の作業ですが、面倒も伴います。『1業務毎に、補償積算基準に則った条件設定でパラメーターを作成し、エクセル等、添付資料で補足して調書を完成させる』ことが大切に思います。

システム開発の方のご苦労を思いながら、もっとスムーズに入力できたらと期待しながら、積算システムと向き合う日々です。

相続人は何処

福島県の河川改修事業のCM業務の担当者として異動してから早いもので2年が経ち、本来の主目的だった令和元年東日本台風に関する災害復旧事業も完了が見え始め、現在は県が管理する一般河川の改修事業の施行支援へと主目的がシフトしつつあります。担当箇所が人里離れた場所が多かったこともあり、土地の管理者に関する問題が非常に多く、何故か迂回することができない絶妙の位置に出現して、手を付けざるを得ないことが多くありました。

ここで、2年の間に遭遇した中で記憶に残った事例を備忘録も兼ねて記していこうと思います。

 

■相続人が海外に渡り帰化していた。

相続人の1名が某国に移住し、さらにその国の国籍を取得していたという問題。

二重国籍が認められている国もありますが、日本では国籍法の規定により、外国籍を取得した場合、日本国籍を喪失します。また、戸籍の概念が無い国では住所を追跡する手段が限られるため、安否自体が不明になることも往々にしてあります。しかしながら、相続権は国籍関係なく発生するため、手続き上何らかの同意が必要です。

この手の問題は、現地日本人会や領事館の協力を得ながら捜索するのが一般的ですが、幸運にも国内在住の相続人の家族から居所を聞き出すことに成功し、国際電話と国際郵便を駆使して本人と連絡を取ることができたため、現地領事館にも書類手続きの協力を得て、相続処理完了までたどり着くことができました。

■相続人の住民票が削除されていた。

相続人の1人の住民票が職権で削除されていたという問題。

住民票は該当地に居住の事実が認められなかった場合、所在自治体の職権によって削除することができます。

戸籍の附票は生きているものの現住所が分からず、他の相続人から情報を聞き取るも足跡が途中で途絶えてしまい白旗寸前まで行きました。行方不明になる前に病気で倒れ、転院を繰り返していたという親族の証言から、最後の望みをかけて削除時点での所在自治体の福祉関係の部署に電話をかけたところ、別の自治体ながら現在の所在地が判明。所在地にて住民票を再発行し、無事相続手続きに移行することができました。

外部職員の立場の自分には手を付けられない手続きも多く、その節は用地課の皆さんには大変ご苦労をおかけしました。

 

昨年4月に改正不動産登記法が公布され、令和6年度より相続登記が義務化され、罰則規定が追加されることになりました。相続登記の促進により、一つでもこういった問題が減ることを祈念しております。

〝我歩難道〟

今年も残りわずかです。残念ながら、来年も引き続き、コロナ対策が必要となりそうです。

これまで弊社で行ってきた、調査対象施設は様々です。私も、一般の住宅の他、各種店舗や宿泊施設、学校、社寺仏閣、銀行、給油所、町工場から特殊な設備を有する大規模工場、養魚場、酪農畜産施設やビニルハウス等の農業施設など色々な施設の調査に関わりました。

私は目新しい設備の稼働するところや製造工程などを見るのが好きで、工場などの調査は楽しませていただいています。(調査後の算定業務は面倒が多く、あまり好きではありませんが。)

世に同好の士は多いらしく、最近は工場見学ツアーに人気があるようです。ご家族に施設見学が好きだ、というお子さんが居られる方は、将来補償コンサルタント会社へ入社をお勧めください。無料で工場見学ができます。

これらの様々な施設が調査対象となる理由も、いろいろなケースがあります。道路の新設、改良や河川等の改修工事に伴う用地買収による移転補償の対象となった場合、またそれらの公共事業を起因とする事業損失調査が必要と判断された場合。

その他にも再開発事業や区画整理事業により移転等を必要とする場合もあります。

調査方法・積算方法はこれらの事業の形態に応じて違ってきます。

道路改良等の一般的な移転補償は、公共用地の取得に伴う損失補償基準(用対連基準)に従って移転方法を検討し、補償額算定を行います。

事業損失の場合は地盤変動影響調査算定要領に従い、建物等の事前・事後調査の結果から、工事施行により発生し、修復が必要と判断した損傷に対して原状回復に必要な費用負担額を算定します。また稀に、被害が甚大で部分的な修復では困難となり、建物等の再建が必要となることもあります。この場合、先の移転補償と同じく、用対連基準に則り補償額を算定することとなります。

再開発事業では特別な補償方法が必要です。対象地区内の所有者に対しては、地区外への転出と、再開発ビルへの入居の二択に応じた対応がなされます。地区外転出希望者へは、一般的な用地補償と同様に構外再築費用を補償することとなりますが、再開発ビルへの入居希望者には現在の土地・建物の権利を、再開発組合で決めた資産評価基準・権利変換基準に従って評価し、それに見合う価格の再開発ビルの床・敷地の権利に置き換える「権利変換」という方法がとられます。

区画整理事業では、基本的に地区外への移転は考えません。地区内の仮換地への移転のため、曳家工法・構内再築工法・改造工法による補償額算定が基本です。再開発事業と同様に補償基準は施行者が作成しますが、用対連基準等に大体準拠しています。

また、区画整理は、街区全体の区画形状の変更を行うため、工事を機に下水道化や都市ガス化を計画していたり、造成による高低差の拡大、仮換地の位置や方角、造成工事の時期や建物の移転の順番が決まっていて曳家できない、施行者による仮住居等の確保の有無など、事業ごと及び各戸ごとの事情に対応した補償額算定が必要となります。

これらの独自の条件の把握に欠かせない作業が、発注者の皆様との打合せです。工事計画図面や設計書に添付して下さっている特記仕様書も非常に助かるアイテムとなります。

以前に理解不足でお叱りを受けた時、打合せは発注者とコンサルとの認識の同調、知識の共有に重要な作業であると、痛感いたしました。

とは言え、お互い理解力や説明力には個人差があります。何度も同じことを聞き返して迷惑をおかけすることもあるかもしれません。

もし、打合せ中に、何を言っているのか分らないとか、こいつは理解していないなと感じたり、必要なことを聞き逃しているのではないかと思った時には、ご指摘をお願いいたします。

CONTACT US

お問合わせ

建設、補償調査、土地区画整理、
市街地再開発、建築設計、測量、鑑定など
街づくりに関わることは
お気軽にお問い合わせください。