第138号(2023年春号)『新日用地サポートデスク蓄積事例の内容紹介』ほか
新日用地サポートデスク蓄積事例の内容紹介
前回のミニコミでは「新日用地サポートデスク」を紹介しました。
このサポートデスク活動内容である①実務事例の蓄積、②相談窓口の開設、③出前研修講座の提供、のうち①実務事例の蓄積については、弊社職員にとって有効と判断される事例の要旨のみをまとめ社内財産として整理蓄積を図っており、これらの一部事例について、サポートデスクで活用したいと考えています。
その主な内容として、【物件移転補償】では農業補償特例や食品衛生駐車場問題に関連した店舗工場等、社寺仏閣及び御神木等、レジャーランドやゴルフ場等のレジャー施設、牛馬豚鶏の畜産・養殖施設等、ハウス栽培作物施設等があり、【権利関係の補償】では採石権や温泉権等の補償、【営業補償】では風俗関連業(テレクラ、モーテル、ヘルス)等の補償、【漁業補償】では内水面及び海水面の補償、【事業損失補償】では電波障害補償、水枯渇・日照阻害補償、及び振動・騒音等による畜産関連・養殖魚関連(採卵、鶏肉、肉牛、乳牛、ウナギ、ヒラメ)業に対する補償、【公共補償】では共同墓地、ため池、簡易水道等、【その他補償】では特殊案件の予備調査、下水道整備に関連した一般廃棄物処理業者に対する合理化計画策定業務、台風地震等災害に対する損害保険評価業務、市街地再開発事業に伴う権利変換及び地区転出補償等に関する事例の蓄積を進めつつあります。
新日用地サポートデスクでは、今後これ等の事例を中心に相談窓口業務及び講師の派遣を含め出前講座の提供の活動を進めていきたいと考えています。
ご要望があれば弊社企画部職員にお声をお掛けいただければ幸いです。
収益事業を行う任意団体
任意団体とは趣味、職業、目的等が共通する人が集まって作った組織のことです。法律などで設置が義務付けられている団体と異なり、設立も解散も法律に縛られることなく自由に活動ができる団体です。文化団体、スポーツ団体、○○サークル、○○市建築士会、学会・研究会、子供会などがその例です。このような任意団体が収益事業を営んでおり、その所有する資産が公共事業の施行に伴って移転する場合には、営業補償の調査や消費税の調査が必要となるケースがあります。以下任意団体における収益事業の判断について整理をします。
法人税法第2条第1項第8号では、法人格を持たない任意団体を「人格のない社団等」とし、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」と規定しています。また同法第3条では「人格のない社団等は法人とみなして、この法律の規定を適用する」と記されており、法人税を適用することが明言されています。したがって、任意団体であっても収益事業を行っていれば法人税の確定申告が必要となります。任意団体の収益事業に課税する理由は、収益事業を行う一般法人と同等に扱わないと課税の不平等が生じるからだと言われており、法人とみなされる任意団体の収益事業も、法人税の対象となります。
収益事業の範囲は、法人税法第2条第1項第13号に「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるもの」と規定されており、同施行令第5条第1項において具体的に34の事業区分が示されています。
「継続して行われるもの」とは、各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行うもののほか、事典の出版のように一つの事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するものや、海の家の貸席や縁日の物品販売のように定期的若しくは不定期に反復して行われるものも含まれます。なお「学校法人等が行うバザーで年1、2回開催される程度のものは、物品販売業に該当しないものとする」との通達がありますのでPTAや子供会がバザーを主催して利益を出した場合でも収益事業に該当しないと解されています。
「事業場を設けて行われるもの」とは、常時、店舗事務所等で事業活動の拠点となる一定の場所を設けて事業を行うもののほか、移動販売や移動演劇興行等のように必要に応じて随時その場所を設けたり既存の施設を利用したりして、転々と移動するものも該当するとされています。
収益事業を行う任意団体は、法人税の確定申告が必要となりますし、消費税、法人住民税、法人事業税、事業所税、固定資産税、印紙税、源泉所得税といったものが課税対象となる場合があります。
耐震構造墓石の移転について
以前、実施した墓石の移転業務について御紹介します。
公共事業により直接支障となった墓地は、菩提寺の管理運営により寺院墓地として営まれていました。
当該墓地に建立されている墓石は、耐震構造で施工されており、「損失補償算定標準書」に定める『墓石等の移転工事』の補償単価では適合性を欠くものと予測されたため、耐震構造についての構造、施工方法について調査し、それに基づき対象墓石の物理的、経済的に合理的な移転方法を策定することにより補償額を算定しました。
Ⅰ.耐震構造の墓石
当該地域における震度5弱の群発地震を契機に耐震構造の墓が登場しました。耐震工法による墓石の設置工事費は従来の墓石価格の+5~10%程度の費用であり、地震に対する関心の高い地区にあっては、その需要は高まっているそうです。
墓石の耐震構造についての行政上の規制や指針等はなく、施工方法は各業者によって様々であり、接着剤により墓石全体を一体化させるものや墓石に鉄筋を貫通させるもの、アングル金物で固定するもの、ほぞを切って組み込むものなどがあります。
「耐震構造の墓石」といっても様々な方法があり、施工業者などへ聞き取りを行いその実態を把握しました。
Ⅱ.耐震構造の墓石の移転と工作物の移転方法の原則
損失補償基準における工作物の移転についての考え方は、
- 基準第28条(建物等の移転料)
「…建物等を通常妥当と認められる移転先に通常妥当と認められる移転方法により移転するのに要する費用を補償するものとする。」
- 基準細則第15の2
「工作物の移転料については、次によるほか建物の移転料の算定方法に準じて算定する。
(一)移転しても従前機能を確保することが可能な工作物については、原則として建物の復元工法に準じて算定するものとする。」
とあり、工作物の移転は建物復元工法、いわゆる「移設」を原則としています。
しかし、移転後においても従前機能を確保することが困難な場合には「移設」によらない移転方法、つまり、「新設」等の費用をもって補償算定することとなります。
よって、個々の墓石毎に「移設」による従前機能の確保が可能であるか検証し、「移設」による移転が妥当と認められる場合は標準書掲載の移転単価による補償とし、墓石の切り離し時に破損・剥離の危険性が高く従前に利用していた形状・規模を回復することが著しく困難と認められる場合は、新設費の補償を行うこととしました。
Ⅲ.墓石の移転方法の判定
(条件)墓基は、全て石材用接着ボンドにより固定した一体構造となっています。
この構造を前提に考えられる3つの移転方法の内容について検討し、最も合理的な移転方法を採用しました。
①丸ごと移設する方法
一体化した墓石を、丸ごと吊り上げるか、下から受けて移転する手法ですが、吊り上げる場合は重心が真下に通っていないと傾き、自重で石材が破損します。また、下から受ける場合は機材を石の下に設置するための周囲の作業スペースが必要です。対象となる墓基は形状が不対照で、隣接の間隔が極めて狭いことから実現不可能と判断。
②パーツに分割して移転する方法
接着面を分離してパーツ単位で移転する手法であるが、接着面を取り外すことは接着ボンドの引張強度から考えて外す際に墓石表面の剥離、破損も考えられることや石材用接着ボンドの溶解剤も存在しないことから実現不可能と判断。
③新設により移転する方法
①、②による移設は実現不可能であることから、「新設」による移転方法としました。
発注者支援業務のご案内
昨今の起業者の用地職員の不足、用地経験職員の不足、また各地権者の権利意識の向上等に伴い、用地業務はより専門知識が必要な時代になっています。そこで、それらを補うために「民間でできることは民間へ」と言う考え方が徐々に広がっています。
ご存知の方も見えるとは思いますが、各起業者が用地業務推進のために補償コンサルタントに発注している発注者支援業務を紹介したいと思います。
【用地交渉等を行う】
- 用地補償総合技術業務
事業に必要な土地等の取得等及びこれに伴う損失補償、並びに事業施行に伴う損害等の費用負担に関する業務の内、公共用地交渉及びこれに関連する業務を総合的に行うものです。ただし、契約行為に関しては起業者で行っていただきます。この業務は関係権利者の特定、補償額算定書の照合、移転履行状況の確認まで委託することが出来ます。国土交通省が先行していますが各県も準備を進めています。
【補償内容説明を行う】
- 補償説明業務
事業に必要となる土地等の取得等に伴う用地取得または建物等の移転等の対象となる権利者に土地の評価方法や建物等の補償方針及び補償額の算定内容の説明を行うものです。説明回数は5回が標準となっています。
【調書の点検、工程管理等を行う】
- 用地調査点検等技術業務
起業者の担当者の補助として測量、調査、補償金額の算定に係る工程管理補助、若しくは成果の点検・調整確認又は用地関係資料の作成等が業務となります。国土交通省が先行していますが、各県も準備を進めています。
【道路等新規事業の際のルート選定の協力を行う】
- 用地アセスメント調査等業務
円滑な用地取得を図るため、事業予定地の用地リスクに関する調査及び用地取得の工程管理計画策定等を行う業務となります。中部地方では、発注実績がほとんど無いように思います。
【事業認定等収用関連業務を行う】
- 事業認定図書作成業務
道路、河川及び図書館等の施設について、土地収用法の事業認定申請図書の作成を行う業務となり、相談用資料の作成と申請図書の作成(相談用資料の更新、補足を行う)の2段階となっています。
この業務は、国土交通省はじめ各市町村からも発注実績が多数あります。
【裁決申請等収用関連業務を行う】
- 裁決申請図書等作成業務
土地収用法第40条に定める裁決申請図書の作成、同法第47条の3に定める明渡裁決申立書の作成と収用委員会の審理における配布図書(配布図書、シナリオ、想定問答及び審理概要書等)の作成、現地調査関係図書(配布図書、シナリオ、説明用パネル、現調概要書等)の作成を行う業務となります。申請図書までの作成は多く発注されていますが、後段の収用委員会の審理や現地調査に関する資料の作成はそれほど多くは発注されてないように思います。
当社では、これら歩掛りのある業務の他に裁決申請図書及び明渡裁決申立書に添付する土地調書及び物件調書の作成に必要となる土地収用法第35条調査に関する資料(実施計画、シナリオ等)の作成及び実施や行政代執行に関する資料の作成(実施計画、シナリオ等)及び実施、また、当社が福島県様から受注しておりますCM業務の中の用地取得段階についても実績がありますので、何かこんな事手伝ってもらえないかと言うことがありましたら、前回号において紹介した「新日用地サポートデスク」、又は直接電話及びメールにて連絡頂けましたら幸いです。また、業務実績につきましては、当社ホームページをご覧いただければと思います。
福島県の復興事業における特殊な用地事例
私は平成27年度から福島県の相双建設事務所で河川・海岸の復興事業に伴う用地取得のCM業務に携わりました。令和4年度まで8年間赴任し、令和5年度からは名古屋に戻っております。福島での8年間は今振り返るとあっという間でしたが、用地取得に関してかなり印象的なことがありました。
一つは、災害査定を受けた後すぐに着工できる事業で発生した問題です。それは、地震で沈下した河川堤防の嵩上げ工事でした。嵩上げ工事でも堤防の法幅が民地側に若干入るため、その箇所の用地取得が必要となります。川沿いは大半が農地でしたが、一部集落がありました。住居棟の建物が存する場合、用地取得に時間が掛かるという懸念があり、この区間のみ堤防法線を川側に振り用地取得をしなくて済むようにしました。ところが、用地取得は無かったものの、嵩上げを川底から6m余り(通常は既存堤防に1m程度)行ったため、盛土の重みに軟弱地盤が圧密沈下を起こし宅地が川側に引き込まれるように不同沈下が発生し、家屋も建て起こしが必要なほど傾きました。当然居住している住民からはクレームがあり、対応に苦慮しました。この区域は市の防災集団移転促進事業のエリアとなっているため、大半の家屋は取り壊されており、6件だけ残っておりました。県としては、この区域の正確な地盤状況を把握しておらず、工損調査も発注しておりませんでした。実際には工事着工した当初、工事請負業者が任意で専門業者に委託し事前調査を行いました。具体的な被害が発生しましたので、県としては工事後事後調査を発注し、費用負担額の算定と説明を行いました。原因は復興事業で時間が限られていること、事業課と用地課で状況を共有出来ていなかったことによるものと思われます。
もう一つは、地権者が震災で行方不明となり死亡がほぼ確実なものと思われていましたが、親族が死亡届を町に提出していなかったため、相続が確定しませんでした。親族の心中としては、中々死亡という状況を肯定したくなかったのかもしれません。そのため、相続人となる方にも交渉が出来ませんでした。また、相続人となる方も震災に対して様々な思いがあるのか、死亡届が出されても事業にはもともと否定的であったようで交渉は難航しました。最後は収用手続きで用地取得を行いましたが、その相続人の方は収用審理に一切出席せず補償金の受け取りも拒み法務局への供託となりました。最終的には用地取得に成功したものの、素直に喜ぶことは出来ませんでした。
復興事業は公共の利益を守るため、用地取得は当然必要なこととは認識していますが、こういったケースに遭遇するとやり切れない気持ちにもなります。私どもは補償コンサルタントとして役所(行政)と被補償者の中立的な立場ではありますが、今後このようなケースに遭遇した場合に、出来るだけ地権者の気持ちに寄り添えるよう業務に取り組みたいと思います。
因果関係の検証(事業損失)
公共事業の工事箇所に近接する日本ミツバチの養蜂園から被害(蜂群の逃去など)の申し出があったことにより、工事施工に伴い発生する騒音・振動等によるものなのか否かを被害状況の調査(蜂群の逃去被害の実態など)や対象養蜂農家、農業協同組合等関連業団体、大学等研究施設から資料収集及び聴き取り調査等を実施し、当該工事との因果関係について検証を行う業務を実施した。
今回の業務は、申し出の発生した被害について工事の着手前と完了後のそれぞれの被害の状態等を対比出来るような調査と資料収集及び解析を行い『因果関係』を判定する事業損失の業務であった。
そこで、養蜂事業の経営被害が当該農道整備事業工事の施工に伴って発生したものか否か判断するため、以下の内容について調査を実施した。
①工事期間中の状況調査…本人からの聴き取り、養蜂状況の変化の把握
②資料収集…対象農家 経営関係資料(経営実態の把握)、ミツバチ導入記録等、蜂蜜出荷状況、一般公的資料
③研究機関へ聴き取り調査…研究機関や大学等に騒音・振動等と逃去の関係性や日本ミツバチの生態等の聴き取り調査を行い、意見書を収集
④事業との関連性の検討…工事内容、計画工程表などから周辺環境への影響
調査で得られた情報により、養蜂経営の特質や工事施工、被害の発生状況などから以下の内容について検討した。
①工事と被害の場所的同一性…隣接する工事であり、場所的同一性が認められる。
②工事と被害の時間的同一性…工事期間に被害が発生しているとは言い難い状況である。
③他工事の有無…周辺において、当該工事以外の工事は行われていない。
④自然環境…豪雨や台風、日照不足の影響による秋の蜜源の減少。
⑤騒音・振動の発生…工事期間中、騒音・振動の測定は行われていないものの、調査記録を見る限り騒音・振動の突発性工事実施中の暗騒音・暗振動の上昇があり、一時的な環境変化によるストレス状況は否定できない。
⑥研究機関等の所見…工事振動・騒音等により、日本ミツバチが逃去行動を起こすことはある。一方で、日本ミツバチは自然環境に合わせて生息する自然の蜂であるから、逃去が公共事業による影響ではなく、おそらくアカリンダニ症にかかったことが原因で逃去したとの意見がある。
⑦養蜂状況…スズメバチやテンなど外敵による被害があったほか、西洋ミツバチへの移行に伴い巣箱の移転なども行っていることやミツバチは本来分蜂により増えるものであるが工事期間中の蜂群数が横ばい、微増の状況が確認出来ることから蜂群数の減少が工事による被害とは言い難い。
以上、①~⑦の検討結果から逃去被害と工事との間に因果関係は認められないとする判断が妥当と考えた。
ミツバチは花粉を集める性質を持つことから一般住宅から離れた自然豊かな閑静な場所で事業を運営することが一般的である。今回の対象である日本ミツバチは我が国の在来種であり、体全体が黒っぽく小柄である。働き蜂の行動半径は通常2㎞程であり、ミツバチの中でも気性が穏やかで針を刺すことはあまりない。西洋ミツバチに比べ環境変化によるストレスが要因で逃去行動がよく確認されることから、田園地域や山間部の静かな場所でしばしば飼育される。
今回、公共事業の完成前であったが「騒音・振動」、「ストレス」という観点からみて、公共事業が完成した後には交通量の増加等が予想され、今後の養蜂事業への影響が懸念される。