第145号(2025年冬号)『愛知万博から20年』ほか
愛知万博から20年
早いもので2005年3月25日から9月25日まで愛・地球博記念公園において『自然の叡智』をテーマに開催された愛知万博から今年で20年を迎えます。今年の3月25日から9月25日まで愛・地球博20祭のイベントも開かれるようです。
思い起こせば、万博開催前には多くの公共事業が計画、施行され、中でも中部国際空港の開港、名古屋瀬戸道路、中部国際空港連絡道路の開通等大型公共事業に関わる物件調査、事業認定及び裁決申請図書作成業務等で弊社も多忙を極めていたことが思い出されます。私も磁気浮上式システム東部丘陵線(リニモ)の事業認定申請図書の作成で、何度も県庁に出かけていたことを思い出します。
私も愛知万博には一度訪れ『ユカギルマンモス』や『トヨタパビリオン』は見ましたが、確か『さつきとメイの家』は断念したように思います。「弁当持込騒動」などもありましたが、モリゾー、キッコロをはじめ人気を博し、盛り上がったことを覚えています。
20年を振り返れば、東日本大震災をはじめ多くの災害があり、弊社も微力ながらその復旧・復興業務に携わってきました。できれば、災害ではなく夢や希望が持てる万博のような大規模プロジェクトに関わる業務があればと思います。
そして、愛知万博から20年の今年、大阪夢洲において4月13日から10月13日までの184日間、『いのち輝く未来社会のデザイン』をテーマに大阪・関西万博が開催されます。弊社は中部地区ということで、残念ながらこれに関連する業務に携わることはありませんでしたが、1970年3月15日から『人類の進歩と調和』をテーマに77カ国、6400万人を超える入場者により開催された日本万国博覧会から50年が経過した同じ大阪で再度万博が開催されるということで楽しみにしています。私もどこかのタイミングで『火星の石』を見て『アンドロイド(人間型ロボット)』の世界を体験し『空飛ぶクルマ』に是非乗ってみたいと思っています。
残地内工法との経済比較
構外移転工法を認定する際、構外移転の補償額に残地価額を加算した金額と、残地内工法の金額との経済比較を行うことが求められる場合があります。移転工法の標準検討フローを読むと有形的、機能的、法制的検討を経て合理的と判断された残地内工法について、構外移転工法との経済比較を行ったうえで、残地を移転先とした移転工法が経済的か、構外再築工法が経済的かを比較し、その結果、より経済的な工法によって移転先と移転工法を決定するようになっています。
構外再築を上回ったとしても、残地に残るべき合理的事由があって、これを認定する場合に、構外再築工法に残地価額を加えた額が残地内工法の上限限界値とする趣旨です。したがって、残地に残るべき特段の理由がない場合で構外移転の補償額が他の残地内工法における補償額よりも安価である場合には、わざわざ残地価額を加味することによって、割高となる残地内工法を妥当と判定することは適当でないと思われます。
たとえば、照応建物による積層化が必要な残地内工法で、生活環境の利便性低下が懸念されるにも関わらず、残地内工法が妥当と判断されてしまうこともあるので注意が必要です。
現在の移転工法検討フローでは『全ての検討で残地価額を加算した構外移転費と構内移転費の比較により判定するものだ』と解釈されることがあります。
用対連の損失補償基準細則第15の1項(四)1号には「従前の建物と同種同等の建物を植栽、自動車の保管場所その他の利用環境の面を考慮した上で、残地に再現することができると認められるときは残地を通常妥当と認められる移転先と認定するものとする。」と規定しており、これが残地への移転の合理的判断の基準であると解されます。ただし、細則第15の1項(四)4号の規定では、1号で認定した残地内工法による補償額について、残地内工法の補償額に残地に関する損失及び工事費に係る補償額を加えた額が、構外移転の補償額に残地価額を加えた額を超えた場合には残地を移転先と認定しないと規定しています。
構外移転の補償額が、残地内工法の補償額を下回る場合についての規定は示されていないため、前記に示された経済比較の検討が要請されているとの錯覚に陥ってしまうリスクがあると危惧されます。
平成10年の基準改正の際に示された「改正用対連補償基準の概要について(建設省建設経済局調整課用地調整官宮坂次男)」文書の「細則第15」の〈改正趣旨〉(用地ジャーナル1999年4月号)に『残地に従前の建物と同種同等の建物が建築できる場合に加え、(略)照応する建物が建築できる場合には、残地を移転先と認定するものとする。(従前ただし、残地以外の土地を移転先と認定する場合の補償額がより経済的である場合を除く。)』と説明されており、実にシンプルです。基準改正の当時、残地工事費や残地補償等を加えた総額で補償の経済性の比較検討が行われるシーンは、残地に残すことによって建物の集積化などによる財産的価値増が生じるとの思想があったからです。価値増を無限に許容しないための足かせとして残地の評価等を加味した経済比較が有効であるとして、定められたものです。
したがって、いたずらに残地内工法と構外再築工法との経済比較に縛られることなく、残地に残すことの合理性が無い場合で、構外移転の補償額がより経済的である場合には、残地を認定しないことが合理的です。
地役権
『地役権』??ほとんどの方が聞きなれない言葉だと思います。ご存知でしょうか?
『地役権』とは、簡単に言えば自分の土地(要役地)の利用価値を増すため、他人の所有する土地(承役地)を利用できる権利です。要は、自分の所有する土地へ出入りするために他人の土地の通行(活用)を許可してもらう権利です。
『地役権』には、他人の土地を通行する権利(通行地役権)、他人の土地から水を引く権利(引水地役権)、眺望を確保する権利(観望地役権)等があります。先程の『地役権』は、通行地役権にあたります。
今回、話をさせて頂きます『地役権』は電気事業の一環である送配電線(一般に高圧線)の架線下における送電線路施設敷地権についてです。
日本で初めて発電所が登場し、街に電灯が普及し始めたのは今からおよそ140年前の明治時代だそうです。今では、24万基にのぼる送電用の鉄塔があります。高度経済成長時代にもたくさん建てられ、築50年以上のものも多く、今後は電力を安全・安定して使えるようにするため整備・修繕は欠かせないものとなります。
24万基ある一つ一つを結ぶ鉄塔の空中に張り渡された鉄塔間の電線を架線と言い、下の土地を架線下地といいます。架線下地には、本来『地役権』という権利を土地登記簿上に記載しなければなりませんが、記載されていない土地登記簿があります。
では、なぜ今になって地役権設定を必要とするのか。それは、地役権を設定する事により架線下地の土地所有者の建物等と電気事業者の高圧送電線との間に一定の距離を置き電線の通過を安全に確保するためです。『地役権』を設定する事により架線下地の土地所有者への対抗力に備えるためとも言えるでしょう。
『地役権』の説明はここまでとして、私どもの仕事を進める手順は、
「発電 → 送電 → 変電 → 配電 」の
『発電』と『変電』の地役権設定作業です。
①事業説明【各地権者】
②地役権設定契約(案)説明【各地権者への条項の説明等】
③地役権設定契約【司法書士同行】
④登記完了証配付【土地登記簿写】
⑤確定申告用証明書3通配付【各地権者】
となります。この作業の中では、事業説明で『地役権』の説明をさせて頂きます。
聞きなれない言葉のため、『地上権』とどう違うのか?『借地権』ではだめなのか?地権者の方にご理解して頂くのに四苦八苦しています。いろいろな地権者様に接する中で事業説明だけで理解して頂き、その場で了解いただけるのは、1案件で1~2人位です。
毎回、用地交渉に携わり地権者様から教わる事もあり日々勉強だと考えさせられます。
今回おおまかに説明をさせて頂きましたがまた機会がありましたらもう少し掘り下げてお話させて頂きます。
高圧太陽光発電設備の補償①
日本における太陽光発電設備は、2000年代初頭にはすでにいくつかの発電所が稼働していましたが、2009年の余剰電力買取制度の開始、2011年の東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故による電力不安を契機に爆発的に普及しました。昨今では温室効果ガス問題をはじめとする環境問題も相まって、航空写真を見ればある住宅地の半分以上の家には太陽光パネルが屋根に設置されており、中山間部に行けばどこかの斜面には太陽光発電設備が稼働している、そんな時代になりました。
愛知県内では昨年9月時点で118ヶ所の太陽光発電所が稼働しており(資源エネルギー庁統計より)、岐阜県でも同程度、三重県に至っては350以上の発電所が稼働しています。
もちろんこれだけの数が稼働しているわけですから、最近では物件調査の対象に太陽光パネルや大規模な発電設備が含まれるということも珍しくなくなりつつあります。
太陽光発電設備は最大発電量によって扱いが変わり、50㎾未満の低圧連系、50㎾以上2000㎾未満の高圧連系、2000㎾以上の特別高圧連系(通称メガソーラー)という分類になります。本文では高圧連系を主に取り扱います。
なお、太陽光発電設備の移設というのは基本的には認められていませんが、公共事業による土地収用や災害など、事業計画時に想定できないやむを得ない理由がある場合に移設が認められています。
高圧連系の場合、低圧連系と異なり、パネルはもとよりコンデンサーをはじめとした送電線に送るための設備一式すべてを発電事業者が自前で用意しなければなりません。よってコンデンサーなどの資材・設置費用の見積取得が必要になります。これに既存設備の部品の移設による再利用も選択肢に含めて、経済比較を行います。この辺りは通常の機械工作物の算定と大きくは変わりませんが、太陽光発電所の場合、発電した電気の売買という要素が絡んできます。
東日本大震災以降、多くの太陽光発電所が設置されたということで、稼働から10年前後という施設が多くあります。一方で調達価格は年々減少しており、10年前と比べても1kWh当たり20円程度も値下がりしています。
調達価格は基本的に契約が満了になるか中途解約するまで契約時点での調達価格で売電を行いますが、国の規定により、太陽光パネルの合計出力が従前より3㎾もしくは3%以上の増加、もしくは20%以上の減少が発生した場合、調達価格を現在時点の価格に変更しなければなりません。特に土地収用で問題になると考えられるのは20%以上の減少の方です。
売電契約の期間は20年を基本としますが、満了前に調達価格の変更のラインに抵触したことで売電価格が下がると見込まれる場合、その残期間分、契約時と現在の調達価格の差額を補償する必要が発生します。
前述の通り、売電契約の残期間が10年前後という施設が多く、発電量が三桁にもなると、差額はかなりの金額になるため、発電量に影響しない構内移転との比較になるとかなり不利になります。
よって、多くの場合は構内移転が採用になるかと思いますが、問題は構内移転が面積等の問題で採用できない場合や、移設に際して擁壁等を建設する必要があり、構内移転が経済比較で不利になる場合です。
この場合、構外移転を採用せざるを得ないのですが、分割移転と全面移転で調達価格の取り扱いが変わってきます。次回の執筆にてそちらに触れていこうと思います。
土地の正常な取引価格
「正常」という言葉の説明を求められた場合、あなたはどう答えますか。広辞苑によると「他と変ったところがなく普通であること」という意味があるようですが、普通という基準はひどく不明瞭です。更に広辞苑を読み進めると、「異常」という単語の対義語に当たる言葉と書かれています。「正常」という言葉のみでは曖昧に聞こえますが、「異常」の対になる言葉である、と言われるとやや形が見えてくるのではないかと思います。
「公共用地の取得に伴う損失補償基準」第8条第1項では取得する土地に対しては、「正常な取引価格をもって補償するものとする」とあり、補償額算定の基本原則として記載されています。正常な取引価格は、近傍類地の取引価格を基準とし「宅地」であれば街路の状態・交通施設・供給処理施設・公共的施設との距離・形状等、「農地や林地」であれば消費地との距離・立地条件・生産性や収益性等の諸要素を総合的に比較考量して算定します。市場価格を基とするため、一般的な取引以外、つまり特殊な条件が想定されるものは排除されます。例えば親族・関連会社間の売買や投機目的の取引等は市場性が正しく反映されていない可能性を留意すべきです。更に売り急ぎや買い進み等が発生するなど双方の自由意思が欠如している取引も「異常」な事態が発生していると言えるでしょう。
このように土地の諸要素から成る価格以外に所有者間による事情も想定されるのが不動産市場の側面ではありますが、それは他と変ったところがなく普通である価格、つまり正常な価格とは認められません。
また、この価格の参考となるものの一つに公的評価地、例えば地価公示法に基づき毎年公表される公示地価や、国土利用計画法に基づき毎年公表される基準地価等が該当します。「土地評価事務処理要領」第16条第2項では「公示価格と標準地の評価格を比較するときは、付録の取引事例比較法の算定式を準用するものとする」と記載があり、取引事例地と同様に諸要素を総合的に比較考慮して相互の価格に均衡を保たせる必要があります。
公共用地取得における補償額は、正常な取引価格を基準として決定されます。そのため、取引価格や公的評価地の適切な選定・比較は算定する上で不可欠なプロセスです。
「異常」な、特殊的な条件を排除することで、公平性や透明性を確保し、公共事業における円滑な用地取得を実現する基盤となります。
計算誤差
補償算定に限らず、表計算ソフトで計算することがあるかと思います。表計算ソフトでの計算は早くて便利ですが、その際に必ずしも正確な値を返してくれるとは限らないことについてお話します。
例えば、1.2-1.1を計算します。我々は手計算で0.1と結果を返します。これは理論値で真の値です。小学校レベルの算数ですが表計算ソフト(今回はExcelで行います)に計算させると0.1とはならず0.0999999999999999(0.0のあとに9が15個並ぶ数)となります。できれば、ご自身で確かめてみてください。Excelで任意のセルに「=1.2-1.1」と入力してみると0.1が表示されるかもしれませんが、セルの書式設定から小数第十六位以下まで表示するように設定すると0.1ではないことが分かります。誤差はとても小さなものですが、小さいながらも最終結果には小さくない影響をもたらすことがあります。補償積算では、数量計算する際にしばしば小数第四位での切捨てを求められます。Excelで0.1を小数第四位で切り捨てても0.1ですが、1.2-1.1を小数第四位で切り捨てると0.099となり0.001の誤差が生じます。
これは、コンピュータの特性によるものです。我々が日常計算するときは十進法(0から9までの10種類の数字)を使いますが、コンピュータは二進法(0と1のみ)を使用します。十進数で0.1は切りのいい数ですが、二進数に変換すると0.0001100110011…(0.0のあとに0011が無限に続く循環小数)という切りの悪い数になります。さらにコンピュータは有限桁で計算します。二進数で切りの悪い数字、コンピュータにとって切りの悪い数はコンピュータによって適当な桁で丸められてしまいます。
Excelにおいても例外ではないため1.2-1.1の計算結果に誤差を生じさせます。小数の計算でしばしば不正確な結果を生ずることはExcelの仕様であるため、Excelを使用する限り容認するしかありません。これらの誤差を完全になくすことはできませんが、対策することでこの誤差の発生をかなり抑えることが出来ます。
補償算定では数桁の精度で十分なことを利用した2通りの対策をご紹介します。
ひとつ目は、小数を整数に変換して計算し最後に割り戻す方法です。例えば、1.2-1.1を計算する際に、12-11を計算してから10で割るといった具合です。12と11はそれぞれ十進数でも二進数でも整数で、計算結果も同様に整数です。整数の加減積算結果は整数ですから誤差が生じません。最後に除算するので計算結果に誤差が生じるはずですが、不思議なことに、Excelでは10分の1は正確に0.1となります。
もうひとつの方法は四捨五入して丸める方法です。1.2-1.1の場合の真の値は0.1ですから小数第三位で四捨五入して小数第二位までとすると0.10となり、求める値が返ってきます。積算においても切り捨てたい値をいきなり切り捨てるのではなく、適当な位で四捨五入してから切り捨てることにより、求める値を可能な限り真の値で算出することが可能になります。
コンピュータは正確に動きます。ただし、我々がコンピュータの特性を知らないと、不正確な動きをしているように見えます。コンピュータの特性を理解し、その特性に応じた対策を講じることで、補償算定や他の計算業務でより正確な結果を得ることができます。