第147号(2025年夏・秋号)『熱中症対策と本社住所変更のご案内』ほか
熱中症対策と本社住所変更のご案内
連日猛暑が続く中、6月1日から改正労働安全衛生規則が施行され、熱中症に関して事業者が講ずべき措置等が新たに設けられました。それに伴い、弊社でも現場調査時の熱中症対策を強化しております。具体的には、帽子及び空調服の着用、定期的な水分補給及び塩分補給(スポーツドリンク、塩飴)を徹底し、最近では新たに熱中症バンドも導入しています。
また、家屋調査においては、屋外担当に比べ屋内担当者は直射日光が当たらない分、比較的楽に感じられることがありますが、エアコンの無い屋根直下階の調査は屋外に負けず劣らず厳しい暑さの中での作業となります。そのため、調査員は可能な限り若手を中心にメンバー調整をしていますが、調査時間の制約がある場合等にはどうしても熟練社員に頼る事となります。その際には特に熱中症予防に注意して調査を進めています。
弊社では幸いにも現時点では、調査現場で熱中症の発生例はありませんが、猛暑が続く状況ですので今後も十分注意して調査に臨みたいと思います。
話は変わりまして、関係各位には既にご案内のとおり8月12日より弊社は本社事務所を東隣に移転し、住所を変更する事になりました。
⚫旧住所:愛知県名古屋市中川区山王1-8-28
⚫新住所:愛知県名古屋市中川区山王1-8-30
郵便番号はそのままですが、電話番号につきましては従来の代表電話に加えダイヤルインを追加し、より迅速な対応を図れるよう体制を強化しています。
⚫補償調査部 ダイヤルイン:052-331-5358
なお、ダイヤルインではなく直接担当者にご連絡を希望される方は、各担当の名刺に記載の携帯電話番号をご利用ください。
本社住所変更に伴い関係各位には一部ご不便をおかけしておりますが、移転作業が8月中には落ち着く見込みですので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。また、この影響により当該ミニコミの発送が約1ヶ月遅れる形となってしまい、深くお詫び申し上げます。
今回の移転を機に社員一同、決意をあらたに、より一層業務に精進して参る所存でございます。何卒、今後とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
雨水貯留浸透施設
都市化により土地の多くが舗装されることによって、自然に地中へ排水されなくなった雨水が全て川に流出すると浸水被害が発生する恐れが高まります。そのため、人工的に雨水を排水する施設が「雨水貯留浸透施設」です。これは雨水を一時的に溜める(貯留)機能と、地中へ浸透させる(浸透)機能を持つものを指します。
特定都市河川浸水被害対策法により、浸水被害の危険性が高い地域では、大規模な開発や工事の際に雨水貯留施設や調整池等の設置が義務付けられている場合があります。愛知県内では新川流域と境川・猿渡川流域を特定都市河川流域に指定し500㎡以上の田畑等の開発には知事等の許可や雨水貯留浸透施設の設置が必要とされています。
例えば、田畑を宅地に転用したり、未舗装地を舗装して駐車場にしたりする場合などに設置が求められます。駐車場では駐車スペース、学校では屋外運動場に設置されることが多いです。貯水池の設置が難しい場合には地中に埋設する貯留槽もあり、コンクリート製だけでなくプラスチック製のものも増えています。施工が比較的容易な製品もあり、多様な選択肢があります。また、雨水は溜められるだけ溜めればよいわけではなく、安全な施設利用のため主体ごとに貯留限界水深などの技術指針が示されています。
「雨水貯留浸透施設」という言葉は大仰に感じるかもしれませんが実際には雨水タンク、雨水浸透桝、浸透トレンチ(管)、透水性舗装など、実は身近に使われているものです。防災対策だけでなく貯めた雨水を園芸などに有効活用することも可能です。
一般家庭でも雨水貯留槽設置には自治体の助成金を申請できる場合があります。その際には配置図、構造図、製品カタログなどの提出が求められることが多いです(詳細は自治体により異なります)。
弊社のある名古屋市では浸透雨水ますは土地一筆につき4基、雨水タンクは建物1棟につき1基の設置に対し助成を受けられます。
最後に、補償業務においては、雨水貯留浸透施設は目視が困難な場合があるため、必要に応じて既存図や関連資料の収集が必要になる場合があるかと思います。
受忍の限度を超える場合の費用負担について
地盤変動に関わる事業損失業務は、工事施工中に家屋等への被害申し出があった際に、その被害が工事に起因するかどうかを検討し費用負担額を算出するものです。この業務は工事計画、施工内容、環境対策、工法選定が適切に行われていることを前提として行われます。
■因果関係の検証
被害が工事に起因するか否かを明確にするため、次の2つの観点から検証を行います。
1.工事に起因するものか
次の調査結果を基に検証を行います。
- 家屋の事前・事後調査(例:水準測定、敷居や柱・床の傾斜測定)
- 地盤変形調査(水平移動測定、沈下量測定などの観測データ)
- 振動・騒音測定
2.工事以外で損傷を与える外的要因によるものか
次の要因を検証します。
- 周辺工事等の影響の有無
- 地震の影響
- 建物の建築時期や構造による状態
■受忍限度を超える損害
検証の結果、工事による地盤変動(例:振動や地盤沈下)によって家屋等が影響を受け受忍限度を超える損害が生じたと判断された場合には、当該損害をてん補するために必要な最小限度の費用を負担します。
「受忍限度を超える損害」とは、建物等の通常機能が損なわれる損害を指し、具体的には次の例が挙げられます。
1.建物の構造に支障を来すもの
2.通常の生活機能への支障
3.玄関や居室、浴室などの損傷による美観の著しい損害
■損害補填のための補修方法
損害を補填するため建物等を従前の状態に回復するための補修工事が行われます。補修方法には次の3種類があります。
1.建物等の損傷箇所を補修する方法
構造的損傷を伴わない比較的軽微な損傷に対し、損傷箇所を修復することで従前の状態または機能を回復する方法です。
費用負担額=仮設工事費+補修工事費+その他経費
2.建物等の構造部を矯正する方法
部分矯正工法を適用する方法で、基礎や柱などの一部に傾斜・沈下、緩み等の構造的損傷がある場合に従前の状態に回復させる工法です。
費用負担額=仮設工事費+矯正工事費+補修工事費+その他経費
矯正工事費は土台、柱等の構造部又は基礎の傾斜、沈下等の矯正に要する費用となります。
3.建物等を復元する方法
地盤変動によって建物が不規則なゆがみや傾斜を生じ、部分矯正工法では従前の状態や機能を回復できない場合に採用する方法です。建物を解体し、再築工法に基づいて復元します。
費用負担額=仮設工事費+解体工事費+復元工事費+その他経費
また、復元する方法による費用負担額は、一般補償基準における標準的な移転工法である「再築工法」に基づき算定した額が基準となります。但し、3.建物等を復元する方法は建物を復元する必要がある場合に採用する工法であり、この方法が適用されるケースは非常に稀です。
■粘り強い検証と正確な損害算定
事業損失業務において、家屋等の所有者が納得できるよう、因果関係の検証や費用算定は慎重に行われます。損害を補填する際の費用は必要最小限度を原則とし、建物等の所有者の声や状況に十分配慮しながら対応することが重要です。
長年の補償業務の経験からも、家屋等への影響の正確な検証と、損害を被った所有者への適切な対応は、事業者としての信頼構築の基礎であると認識しています。今後もその姿勢を堅持しながら業務に取り組んでまいります。
所有者等の確認(その8)
前回(第143号)投稿において、建物等の所有者の確認方法について述べました。
今回は、工作物等の所有者の確認方法について説明したいと思います。
工作物等の調査を実施するにあたり、建物等の調査と同じく、事前に起業者から提供された資料等(用地実測図等)に基づき、調査する土地の場所を特定します。次に、土地登記簿により土地所有者の確認を行い、調査対象である工作物等が存する土地への立ち入りの了解を得ます。更に調査対象である工作物等の所有者の同意を得て当該工作物の調査を実施することになります。
工作物等の所有者を特定するためには、占有者に対して聞き取り調査を行い、真の所有者の確認を行うことになります。ただし、調査対象の工作物等が複数の土地にまたがっている場合や、隣接地を借地して設置されている場合などがあり、その場合は調査対象の工作物が存する全ての土地所有者から立ち入り許可を得る必要があります。
また、土地登記簿の名義人が既に死亡しているにも関わらず相続登記が完了していない場合は、土地登記簿から真の土地所有者を特定することはできません。そのような場合は市町村役場の税務課などで納税台帳等を確認することにより管理人を特定することは可能ですが、第三者が個人情報の入手をすることは制限されるため、起業者の協力を得ながら必要な情報を収集し、真の土地所有者を確認する方法をとります。
工作物等の場合、登記が行われることは基本的にありません。(ただし、立木は立木法により登記が可能です。)
そのため、所有者の確認が曖昧になるケースが少なくありません。一般的に聞き取り調査が確認方法として用いられますが、特に境界付近に設置された工作物の場合は、隣接地の所有者にも聞き取り調査を行う必要があります。
聞き取り調査を行う際は想定される所有形態に応じた方々から情報を集めることが重要です。今までに次のような所有形態がありました。単独の所有者、複数人による共有(持分の違いもあり得る場合)、特殊な所有形態(例:単独のブロック塀に隣接者がブロックを積み増したケースなど)
また、工作物の設置年月日が記録された資料がある場合は聞き取りもスムーズに進みますが、設置年月日が記録されていない場合、特に代を重ねて親の世代や先々代へと遡るほど所有の経緯が曖昧になりやすくなります。さらに、隣接者が親戚同士である場合には、所有権の継承過程で食い違いが生じる可能性もあります。
所有者の確認は調査員が独断で決定するものではなく、関係者が納得した時点で調査報告書に所有者として記載を行います。万が一、関係者が合意に至らない場合は、発注者(起業者)と協議を行い、解決に向けた対応を模索する必要があります。この場合、報告書の作成が保留されることとなります。
長年、補償調査業務に携わる中で、補償対象となる工作物等の所有者を正確に把握することは最も基本的な事項であり、非常に重要だと感じています。今後も建物や工作物等の所有者確認には最大限の配慮を払いながら、精確な調査業務を徹底してまいります。
地域の細分化の重要性
土地の評価においては、市場参加者のうち特に需要者の観点(買手の目線)から土地の所在する地域の要因(地域要因)やその土地自体の要因(個別的要因)を把握し、分析することが重要となる。この度は地域の細分化の重要性を「住宅地域の角地」という個別的要因に着目して考えてみようと思う。
まず、住宅地域とは居住の用に供される建物等の敷地の用に供されることが自然的、社会的、経済的及び行政的観点(客観的な観点)からみて合理的と判断される地域をいい、それぞれの地域の特性により、優良住宅地域、標準住宅地域、混在住宅地域、農家集落地域等に細分される。そして、住宅地域における角地という個別的要因は、日当たりや風通しがよいことから居住の快適性に優れ、建物を建築する際に設計の自由がききやすい等のメリットも多く、一般的に土地価格に対してプラスの影響を与える。
この角地の個別格差率について土地価格比準表七次改訂によれば中間画地を「普通」とし、「特に優る」に対する格差率は、優良住宅地域で7ポイントであるのに対し、混在住宅地域で12ポイントとなる。要するに優良住宅地域の需要者である高所得者層と混在住宅地域の需要者である標準的所得者層とでは、角地に対する有難みが異なり、混在住宅地域の需要者の方が角地を好む傾向があるという事である。
優良住宅地域内の土地は一般的に画地規模が大きく、建蔽率が低い傾向にあり、地域における建物の高さの制限等も相まって、日当たり等は当然に良好であるため、角地でなくともそもそも快適性が高い。むしろ角地という個別的要因は、空き巣の下見がしやすい、2面が道路に面することから車両通行時の騒音が増す等のデメリットもあり、当該地域においては必ずしも角地が選好されるとは限らないようである。
一方、混在住宅地域内の土地は一般的に画地規模が比較的小規模なものが多く、日当たりが良い、設計の自由度が高い、建蔽率の角地緩和の適用可能性がある等のメリットの多い角地が一般的に好まれる傾向にある。
このように、住宅地域という同一のカテゴリー内においても、細分化された地域毎に需要者が異なるため、同じ要因であっても土地価格に対して同じように作用するとは限らない。よって、極力地域を細分化した上で、地域ごとの需要者を把握し、買手である当該需要者がどのような要因を重視して意思決定を行っているのかを十分に分析する必要がある。
交渉の現場で感じたこと
今年度、送電線の線下における地役権設定の交渉を担当することになりました。この業務は、過去に送電線がすでに設置されていた土地に対し、正式な地役権の設定や登記がされていなかったケースを対象に、制限内容や権利の明確化を図るものです。
地役権とは、民法第280条に基づく「特定の土地の便益のために、他人の土地を継続的に利用する権利」のことです。送電線の安全な運用には一定の離隔距離の確保が必要であり、地役権を設定することで、送電線直下での建物の建築や樹木の成長に制限がかかりますが、地上の通常利用(農作業や居住など)は大きく制限されることはほとんどありません。
とはいえ、すでに長年送電線の存在を受け入れてきた地権者にとっては「なぜ今、契約が必要なのか」「以前に了承したはずでは」といった疑問や不信感を抱くのは自然なことです。制度に基づく正当な手続きであってもそれだけでは納得は得られず、現場ではその現実に何度も直面しています。
本業務は大きく三段階に分かれています。
①初回訪問では地役権の制度や目的について丁寧に説明し、同意をいただく段階。
②補償額や契約内容の提示・説明を行う段階。
③正式な契約を結び、司法書士による登記手続きを行う段階です。
特に契約締結に際しては、登記識別情報や印鑑証明書、マイナンバーの提出などが必要となり、高齢の方には手続きの煩雑さが負担になることも少なくありません。
そうした中で、ある高齢の方から「書類が難しくて不安だったけれど、丁寧に説明してくれて助かった」と感謝の言葉をいただいたことがあります。そのとき業務の本質が見えた気がしました。不安に寄り添い、丁寧に対応する姿勢こそ信頼につながるのだと実感しました。
また、補償金が非課税(最大5,000万円控除)であっても、税務署への報告のため個人番号の提供が必要になるなど、制度面の複雑さもあります。それらをわかりやすく伝えることも交渉者の大切な役割だと感じています。
交渉は単なる説明の場ではなく、相手の生活や背景に応じて言葉や資料を工夫し、納得いただけるよう粘り強く対話を重ねることでしか、信頼は築けません。また、補償とは単なる金銭的対価ではなく、相手の時間や不安に誠意をもって応える姿勢でもあると感じています。
地権者の中には、高齢で家族に判断を委ねている方、平日は不在でなかなか接触できない方、過去の経緯に不信感を抱いている方など、さまざまな事情を抱えた方がいます。その都度、訪問時間や説明方法を柔軟に変えながら、対話の入り口を丁寧に探るよう心がけています。相手の立場に立ち、時には雑談を交えながら信頼関係を築いていくプロセスこそ、最も重要な業務の一部です。
また、交渉者個々の現場での経験を共有し、チーム全体で対応の質を高めることも重要です。一人の経験や工夫が他のメンバーの交渉にも活かされ、組織としての対応力を底上げすることにもつながります。
さらに、地役権交渉は行政や関係機関との調整も不可欠です。登記に必要な書類の確認、地権者の同意取得状況の報告、スケジュールの共有など、社内外との連携を通じて一件ごとに確実に前に進める必要があります。こうした地道な調整力も、交渉業務の一部として欠かせません。
今後も、公共性の高い業務に携わる者として、感謝と敬意を忘れず、一人ひとりの声に耳を傾けながら、誠実かつ丁寧に交渉を進めてまいります。