人にやさしい街づくり連続講座に参加
愛知県では「人にやさしい街づくりの推進に関する条例」が平成6年に定まって以来、市民参画の街づくりにおいて人にやさしい街づくりの視点から提言をし、地域で活動をしていく人材育成を目的とした講座が毎年開催されています。
今回は、平成21年10月11日(日)に名古屋都市センターの11階大研修室で開催された講座の中で、愛知県稲沢市の国府宮地区に整備された公園の例を挙げた発表会『市民の思いが詰まった公園づくりを目指して』についてご紹介します。
市民の思いが詰まった公園づくりを目指して ~国府宮地区から見えてくるもの~
愛知県稲沢市の国府宮地区は、平成13年の地区計画により、新たに2ヵ所の公園を配置する計画となった。
稲沢市は、公園を計画する上で、利用者である市民が憩い親しめる公園づくりを目指すため、また市民参加型の街づくりの一環としてワークショップを開催し、地域の特色溢れる公園づくりに取り組んでいる。
今後の課題として、参加市民は健常者だけでなく、また幅広い年齢層からの思いを取り入れた公園づくりが求められる。
調査の目的
公園は、自然や緑がある事によって、その地域の市民にとっては憩いの場であり、また遊具施設は子供達にとっては楽しい遊び場であり、時には社会を知る上で必要不可欠な施設のひとつでもある。また今日では、子供だけでなく大人も利用出来る運動施設も増えつつある。
稲沢市には、平成20年度末で46ヵ所の公園があり、面積約30haに相当する。人口一人当たりの公園面積は約2.2m²/一人当たりとなる。
ここでは、愛知県稲沢市の国府宮地区に新たに整備された公園を例に挙げて、
- 国府宮地区に新たに公園整備した理由
- なぜこの位置に整備したのか
- どのような観点で設計を行ったのか
を明確にする事を調査の目的とした。
調査の方法
国府宮地区に整備された公園について調査をするため、公園管理者である稲沢市役所都市開発部都市計画課から聞き取り調査を行い、併せて資料提供をして頂く事とした。
尚、本地区には新たに2ヵ所の街区公園(A公園:ふれあい公園、B公園:じんでん公園)が整備されたが、ここでは、B公園のじんでん公園を調査対象とした。ここで言う街区公園とは、街区内に居住する者の利用に供する事を目的とした公園で、誘致距離半径250mの範囲で1ヵ所当たり公園面積0.25haを標準配置とするものである。
調査の対象とした公園の位置については、「国府宮のまちづくり国府宮地区計画のしおり」に示された計画図(図-1)の通りである。地区計画の中で、新たに2ヵ所の公園を整備する事も含まれている。
調査の結果
調査目的を基にして、結果をまとめると以下のようになる。
国府宮地区に新たに公園整備した理由
本地区には、土地区画整理事業で整備された公園を除くと公園施設がなく、また土地区画整理事業や中高層住宅の建設により人口増加傾向にある。
表-1の国府宮地区と稲沢市年齢別割合データから本地区の人口年齢層割合をみると、0歳から10歳までと36歳から40歳までが稲沢市全体と比較して多い事が伺える。また地域市民から以前より公園施設の整備をして欲しいとの要望が多かった事も受け、平成13年の地区計画において、新たに2ヵ所の公園を整備する計画となった。
地区計画とは、地区の課題や特徴を踏まえ、市民と区市町村とが連携しながら、地区の目指すべき将来像を設定し、その実現に向けて都市計画に位置づけて街づくりを進めていく手法を言う。具体的には、街づくりのルールを決めたり、建築物の用途や高さ制限、地区施設などを具体化する事などを言う。
なぜこの位置に整備したのか
公園位置の選定は、土地確保の問題や通学路との関係、土地の広さ、近隣公園との距離など様々な選定要素がある。街区公園を新たに整備する場合、土地確保においては、既存農地等を公園にするケースが多く、まず候補地を探し地主との交渉となる。
本地区2ヵ所の公園の場合、ふれあい公園は市民農園、じんでん公園は田んぼとして従前利用されていた土地を市が買収して公園用地とした。両公園共に、地域の街づくりのためならという地主の配慮の下に用地提供された。両公園は、距離間として約500m離れているため理想的な配置と言える。
どのような観点で設計を行ったのか
稲沢市では、平成17年より市民参加型の街づくりの一環として、ワークショップ形式による公園づくりを行っている事が分かった。ワークショップとは、市民主体によって集団作業で、街づくりやものづくりなどを行う目的で利用され、市民参加型の活動形態の一つとして位置づけられる。
ここでは、じんでん公園のワークショップを例に挙げ、そこで行われた内容をまとめる。
ワークショップ開催時期
平成18年5月~10月(計4回開催)
参加者メンバー
参加メンバーの選定については、この公園を利用するであろう地域市民を対象として、稲沢市が区長と検討し、区長・子供会役員・婦人会・老人会・保育士・民生委員の中から計20名を選定し、4グループに振り分けた。
開催手順
開催手順の概要は以下の通りである。
じんでん公園の規模等
- 公園面積…約1700m²
- 公園形状…約35m×50m長方形で平地
- 公園との隣接等…一面は住宅地と接しており、残り三面は道路付
ワークショップの意見等
第3回までのワークショップの意見を用途別に集約した結果は以下の通りである。
- 公園を利用する主な対象者
- 小学校低学年(4グループ共通意見)…表-1から低学年層の割合が高い事が分かる。
- 公園でしたい事
- バスケットボール、ドッジボール、サッカー、かけっこ
- 設置したい遊戯施設
- アスレチック遊具、バスケットゴール、滑り台、築山
- 設置したい休憩施設
- ベンチ、東屋
- その他の施設
- トイレ、水飲み場、せせらぎ、照明灯、時計台、外周に柵・フェンス、駐輪場
- 植栽
- 公園外周に低木、シンボルツリー
その他意見等
- 本地区の小学校が、グラウンド整備に伴い築山が無くなる為、公園に築山を造って欲しい
- ゴミ置場は要らない
- 夜間、照明灯は消灯して欲しい
- 道路への飛び出し防止対策をして欲しい
- 外からでも公園が見渡せるようにして欲しい
- 公園と隣接する河川を利用した施設を検討して欲しい
- せせらぎで足のマッサージをしたい
集約計画図について
第3回までのワークショップの意見を反映し、第4回で市民に提示したワークショップ集約計画図を図-2に示す。
計画図から市民の望むべき思いがどれくらい反映されているのかは、各々の感覚によって異なると思われるが、面積的に設置が困難なものを除くとほぼ全ての意見が反映されていると思われる。
なお、サッカーがしたいという意見に対しては、この公園から約500m離れた所に芝で整備された街区公園があり、その公園を利用してはどうかという事で話がまとまった。その公園では少年サッカーはもちろんの事、少年野球やグランドゴルフが行われている。
また公園のシンボルとも言える築山を造って欲しいという意見が多くあった事を反映して、公園の中央に築山を配置し、滑り台と複合化させた。
もう一つの特徴としては、公園と隣接する河川の水を利用したせせらぎでは、底に玉石を置いて足のマッサージが出来る工夫がなされている。また遊具は鉄棒とうんていを計画している。
完成した公園
ワークショップで集約した計画図を基にして、詳細設計が行われ、平成21年にじんでん公園として完成し、現在多くの子供や市民に利用されている。(写真-1~5)
考察、提案
この地区に公園が整備される事は、近隣市民にとって以前からの要望でもあり、地域性としても大きな街づくりのひとつとなった。ワークショップという手法を用いる事により、行政が計画した公園ではなく、実際に利用する市民の手によって、市民の思いが幅広く反映され、地域の特徴が出ている公園であると実感した。
しかし、今回のワークショップ参加者の主体は大人であり、実際に利用するであろう子供達の意見が直接反映されていないように思えた。また、参加者は全てが健常者である事にも疑問を感じた。
私なりに公園を見た限りでは、メインの入口には子供の飛び出しや自転車進入防止等の目的で防止柵の車止めが千鳥設置されているが、車椅子の方はどうするのだろうかと感じた。これでは簡単に園内に入る事が出来ない。
「愛知県ひとにやさしい街づくり」の基準を準用すれば、車止め柵を設ける場合は有効幅を90cm以上確保する必要があるがそれが確保されていない。
サブ入口としてもう一ヵ所整備されているが、そこに辿り着くには、階段のアクセスがあり、それ以外の経路を利用した場合、住宅地を回り200mほど歩かないと辿り着けないという問題点がある。
これでは車椅子の方にとっては、楽しくもなくとても不自由な公園ではないだろうか。せっかくの市民のための公園であるならば、さらに幅広い年齢層からの意見や健常者以外の方からの意見も取り入れて、利用しやすい公園づくりを目指すべきではないだろうか。
行政側の意向は、公園づくりにおいては行政主導ではなく市民主導で計画されているため、市民の望むべき姿の公園が計画されており、今後もこうした取り組みを行っていきたいという見解であった。
市民の思いがたくさん詰まったものづくりをする事は、素晴らしい事であり、形あるものとして市民に利用される事は望ましい事であると思う。しかし、場合に応じてワークショップで出された意見を限られた時間の中で、さらに一歩踏み込んで検討していく事も今後必要な事ではないだろうか。
今後は、市民主導にプラスして行政配慮も加えたやさしい公園計画によって、子供達を始め市民皆が楽しく利用しやすい公園づくりを目指すべきではないだろうか。
おわりに
今回の調査及び講習会を通じて、健常者だけでなく、健常者以外の方も同じ場所を自由に利用出来るようにするためにも、些細な工夫を場面に応じて取り入れる事が必要不可欠だと感じた。今後の人生、仕事にもこうした思いを少しでも取り入れていきたい。
文献
※国府宮のまちづくり国府宮地区計画のしおり(稲沢市都市開発部都市計画課)
※じんでん公園ワークショップ報告書(稲沢市都市開発部都市計画課)
※愛知県 人にやさしい街づくり(大成出版社)