第131号(2021年夏号)『コロナ禍でのオリンピック開催』ほか
コロナ禍でのオリンピック開催
新型コロナウイルスの世界規模的感染問題により、昨年開催だったはずのオリンピックが今年に1年延期されました。
今年の7月23日の開会式までの間、中止または再延期の意見、入場者数の判断、有観客是非の検討、さらには、これまでオリンピックに係わってきた人達の辞任等により、結果的には当初の責任者は誰1人残ってはいない等、様々なことがありましたが何とか開催に至っています。
7月23日、開会式当日のコロナ新規感染者数は次のとおり。
- 全国 4,225人
(東京 1,359、神奈川 652、埼玉 401、千葉 334、大阪 379、愛知 69)
こうした中でのオリンピック開催でもあり、盛り上がりに欠けるものと思いながらも、王、長嶋、松井の聖火リレーや大坂なおみの聖火台への点火には感激しました。
また、競技観戦についても柔道での阿部一二三と阿部詩、兄妹揃っての金メダル獲得に対しては、そのシーンを何度も繰り返し見ては感動しています。
柔道のみならず、水泳、卓球、体操等でも開催地の恩恵も多いとは思いますが、これまでの競技を見る限り、日本選手の活躍が目立っています。
オリンピック開催の是非の争点は、選手を始め多くの外国人の入国に対する水際対策、急ピッチのワクチン接種対策等を含めても、デルタ株等、感染力の強い新たな変異株によって感染者の爆発的拡大ともなれば医療崩壊のみならず、日本全体の経済社会崩壊にもつながります。
開催から1週間後の7月30日の感染者は、次のとおり。
- 全国 10,743人
(東京 3,300、神奈川 1,418、埼玉 853、千葉 753、大阪 882、愛知 230)
総理や都知事は恐怖を煽らないよう要請してはいるものの、1週間足らずで2.5倍の感染者数であり恐怖を感じざるを得ません。
オリンピック、パラリンピック、夏休み、盆休み等、まだまだ人流の減少する要因はありませんが、何とかこれ以上の大きな問題にはならず、この夏を乗り切ることが出来ればと願っています。
10年先、20年先、人類を脅かすコロナ感染症パンデミック時の最中に、日本で開催された無観客東京オリンピック、パラリンピックでは、多くの日本選手の活躍とドラマがオリンピック史上には残ることと思いますが、これ以上のコロナ感染者が増えないことを願うばかりです。
大型単独浄化槽の算定事例
後継機等が存在せず標準単価には無い大型単独浄化槽の算定事例について紹介します。
建物本体は支障せず浄化槽だけが支障の場合には、再築率を考慮する建物一部改造工法とはせず、設備単独のため再築率を考慮しない工法で対処することが多いと思います。
ここでは浄化槽のみが支障した例について紹介します。
今回の事例は病院の施設で100人槽と大きなものであり、築年数が古い単独浄化槽の考え方と算定方法です。
先ず、改造工法として算定するには新設費及び解体費を出す必要があります。それには100人槽と大きな浄化槽であるため、専門の業者より見積もりを取得し、新設費及び解体費の金額を得ることが現状にそった補償額算定と考えます。
しかし、現在では100人規模の単独浄化槽商品の取引は無く、後継機も存在しないため、見積徴収は困難な市場となっています。
そのため、合併浄化槽を参考に解体費及び新設の土工や設備の工事費を基に対応することも可能ですが、単独浄化槽100人槽の現在価額を根拠づけなければ新設費を計上することができません。
そこで、大型単独浄化槽の過去のカタログ資料を複数の浄化槽メーカーに問い合わせるなど資料収集から始めました。過去の資料であるにも関わらず、問い合わせを実施した各メーカーからはカタログや図面資料を収集することができました。
しかし、当時も特殊なものであったためカタログに価格記載があったのは1社、メールで回答があったのは1社のみで、根拠ある金額を決定するには大変な労力を要しました。
複数の見積価格を収集することができず、また過去のカタログ金額とメールでの回答金額にも大きな差がありました。
そこで根拠としては過去のカタログ価格より、その金額にカタログ掲載時から現在までの物価上昇率を政府統計資料から判断し、現在であればどの程度の金額になるかを推定した上で、新設材価格としました。
また、収集した単独浄化槽図面資料より、土工事を算定することもでき、これら一連の試行錯誤的作業により単独浄化槽100人槽の新設費を算出し、改造工法による新設費100%を計上しました。
最後に法令上、合併浄化槽でなければ設置することができないため、単独浄化槽と合併浄化槽を比較し、法令改善に対しては運用益損失相当を計上することで、大規模単独浄化槽の補償額としました。
防災地域の木造建物(建築基準法の改正)
防火地域とは、都市計画で指定される地域であり、延焼の拡大を防止するために都市の中心部で建物の密集度が高く商業施設が立ち並び、人通りや交通量が多い市街地の一定範囲を面として、また火災時に消防車や救急車などの緊急車両の通行を確保するために幹線道路沿いに厳しい建築制限が行なわれる地域です。
防火地域で建築物を建築する場合の建築規制は建築基準法第61条で定められ、平屋で面積が小さい付属建物や門、塀などに緩和措置はあるものの原則、全ての建築物は少なくとも「準耐火建築物」(耐火建築物の条件を満たしていないが、それに準じた耐火性能がある建築物)に、さらに階数が3階以上の建物や延べ面積が100㎡を超える建築物は必ず「耐火建築物」(建物の主要構造部の柱、梁、床、屋根、壁、階段などに耐火性能のあるコンクリートや鉄骨に耐火被覆を施した材質などが使用されている建物)としなければならないとなっています。
延べ面積が100㎡を超えるような木造建物では、主要構造部の柱や梁が木材で出来ているため耐火構造とは認められず、防火地域に指定された後には建築することは出来ません。
したがって、現存する木造建物は防火地域に指定される前に建てられた現行基準に適合しない、いわゆる既存不適格建築物ということになります。
この既存不適格建築物の移転に関し、建築基準法では同一敷地に移転する場合には全ての規定について既存不適格のまま移動(曳家)することが出来ますが、既存敷地から他の敷地に移転する場合は新築扱いとなり現行基準へ適合させるために改修が求められていました。補償積算においては、この改修に要する費用を法令改善費としてその運用益損失額を補償しています。
しかし、平成26年の建築基準法の改正(平成27年6月1日施行)により他の敷地への移動(曳家)に関しても特定行政庁が交通上、安全上、防火上、避難上、衛生上及び市街地の環境保全上支障がないと認めた場合には既存不適格扱いとしてそのまま移動(曳家)が可能となりました。
一般的な木造建物の移転の場合には、防火地域に指定されるような市街地での曳家工法の採用は移転先確保の問題から皆無に近いと思われますが、神社や仏閣等の木造特殊建物の場合には境内地として敷地に余裕がある場合も多く、また、文化財に指定されることはないものの歴史を感じさせる建物もあり、耐火構造での建物では神社、仏閣等の荘厳な雰囲気がなくなってしまう等、現状のままでの移転を希望される事も多いことから、木造特殊建物の移転工法の検討を行う場合には、この改正による隣接地等他の敷地への既存不適格建物としての移転も選択肢の一つとして検討に加える事も必要ではないかと思われます。
今回は、防火地域内の木造建物についてですが、補償業務に従事するものとして、また建築士として業務に関係する法令等の改正については常に気を配り、勉強会等による社内での情報共有が必要であると感じています。
設計・工事監理等業務報酬額
建築基準法において、「建築主は、建築士である工事監理者を定めなければならない」と定められています。工事監理者は、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか否かを確認する役割があります。また、工事監理が必要な工事は建築士法で定められています。
移転雑費の法令上の手続に要する費用のうち、建築物の設計・工事監理等に要する費用は、建築士法第3条、第3条の2及び第3条の3の規定に基づき、一級建築士、二級建築士又は木造建築士による設計及び工事監理等を必要とする建築物(条例により設計及び工事監理を必要とする建築物を含む。)のほか、原則として、建築確認申請を要する建築物について、平成31年国土交通省告示第98号(以下、「告示第98号」という。)に基づき補償するものとされています。
建築確認申請手続業務報酬額(確認申請図書の作成及び確認申請の代行に要する費用)は原則として、設計・工事監理等業務報酬額に含まれます。
算定にあたっては告示第98号第四に定める略算方式によることを標準とします。
設計及び工事監理等に要する費用 = 直接人件費 + 直接経費 + 間接経費
直接人件費は1時間当たりの人件費×設計及び工事監理等に要する業務量となります。
この業務量は『設計に伴う業務量』と『工事監理等に伴う業務量』の合計になりますが、構造計算等の必要の有無等により区分された建物の類別、規模から業務量を算出し、移転工法別の補正率を乗じます。
損失補償算定標準書には『1棟の建物内において、2以上の類型(建築物の用途等)に利用されている場合は、用途毎の床面積によるものとする。ただし、用途や規模の組み合わせ、建築物の構造等により主たる用途が明らかな場合は主たる用途の類型によることができるものとする』とされています。これは平成31年度に改正された箇所であり、以前は『1棟の建物内において、2以上の用途に利用されている場合は、最も床面積が大きい用途の類型によるものとする』という考え方でした。
現在でも、基本は用途毎ですが、主たる用途が明らかな場合は、その主たる用途の類型によることができるとされています。
移転雑費算定要領の解説(改正版)(平成31年4月)には、『設計、工事監理等報酬額は、原則として、1棟毎に略算方式を用いて算定するが、建築物が物理的に接合している場合には次のとおり留意すること。建築物が物理的に接合しているとは、位置的に建築物が接合している状態を示すものであり、具体例としては住宅に併設される車庫、倉庫等が考えられる。通常、木造建物における増築部分であれば、主たる建物と一体で1棟として捉えることとなる。』と記載があります。
増築部分を別棟として捉えて2棟で算定した場合は、一体(1棟)として算定した価格よりも高額になります。
そのため、同一敷地内で複数棟ある場合の業務量の算定は充分な注意が必要です。
ある視点
「気面」という言葉をご存じだろうか。「きめん」と読むのが正しいのかもわからない。辞書で「きめん」と調べても「鬼面」(鬼の顔。鬼の顔をかたどった仮面)としか記載されていない。ネットで「気面」と検索しても「活性汚泥処理における曝気装置や空気の消毒、殺菌または脱臭などの分野において活用されるキーワード」としか出てこない。パソコンで「きめん」と入力して変換しても「鬼面、基面、器面」としか変換されない。一体「気面」とは何であろう。
実は「気面」とは私があるきっかけで思いついた言葉である。そのきっかけとはオリンピックの水泳競技をテレビ観戦していた時である。確定順位が表示される背景に水中から見える水と空気が接する面がゆらゆらと映し出されていたのである。空気の中で生活している人間にとって空気中からの視点では空気と水が接する面は確かに「水面」という言葉が当てはまるかもしれないが、水中からの視点で水と空気が接する面は果たして「水面」という言葉で表現して良いのだろうか、もし人間が水中で生活する生物であったなら、はたして「水面」という言葉を使ったのだろうかと、早速、辞書やネットで調べた結果が先に記述したものであった。
視点ということで言えば、補償はまさに多角的視点を必要とする業務である。公共事業の施行により被補償者が受ける損失がどのようなものかを多角的な視点でとらえ、その損失に対し、どのような補償方法が最も合理的かを補償基準から逸脱することなく多角的な視点で検討することが求められる。
したがって、補償に携わる技術者としては常に多角的視点で考えることを心掛けることが重要である。また、多角的視点を生み出すものは好奇心であると思う。視点を変えて見るとどのような形になるのか、どのような見え方をするのかを確かめたいとの思いが多角的視点を育むものと考える。
人間は視点が変われば物の見え方も変わるということは理解していても、置かれている環境や立場によって視点が固定化される傾向にある。あるいは自覚がないまま視点を変えることを拒否していることがあるのではないだろうか。特に年齢を重ねるとこの傾向が顕著となるように思えるが、今後も多角的視点や好奇心を失わないよう補償業務に係わって行きたいと思うこの頃である。
(「気面」という言葉、あるいは水中から見た水と空気が接する面を表現する言葉をご存じの方がおられましたらご教示いただきたくご一報をお待ちしております。)
営業休止保証における固定的経費の算定について
固定的経費とは、会社を休止する間に固定的に支出が予想される経費のことを言い、直近1ヶ年の総勘定元帳等の営業資料を基に算定していきます。
総勘定元帳とは勘定科目毎に全ての取引を勘定口座に集めた会計帳簿(元帳)で、借方(左側)・貸方(右側)に仕訳されています。借方、貸方を字のまま読むと借りるほう、貸したほうとなりますが、簿記では借方が費用(支出)、貸方が収益(収入)となります。
余談ですが、帳簿の記入の仕方は、借方をひらがなで書くと「かりかた」の「り」のはらいが左方向なので左側に記載し、貸方をひらがなで書くと「かしかた」の「し」のはらいが右方向なので右側に記載と覚えられます。
固定的経費の認定のための判断基準は、「固定的経費認定基準」によります。
固定的経費の判断例
(〇)= 固定的経費
(△)= 実情に応じて固定的経費
(✕)= 固定的経費ではない
● 公訴公課(租税公課) … 所得税・法人税(✕)、自動車重量税(〇)
● 賞 与 … 従業員賞与(〇)、役員賞与(△)
● 基本料金 … 電気・ガス・水道・電話等(△)
● 法定福利費(〇)
● 福利厚生費 … 親睦補助費(△)、保健医療費(△)
● 減価償却費 … 有形固定資産(△)、無形固定資産(〇)
● 広告宣伝費 … 看板、新聞等、チラシ等(△)
● 保 険 料 … 火災保険料(△)、自動車保険料(〇)
● 地 代 家 賃 … 事務所家賃(△)、住宅家賃、地代(△)
こうして勘定科目毎に内容を確認しながら固定的経費付属明細書に内訳、消費税等課税対象額等を計上し、固定的経費内訳表でこれらを集計します。
集計した金額は1年間の経費ですから、営業補償金算定書において、
年間の固定的経費 ✕ 休止期間(日) ÷ 365日
の計算をして、補償額とします。
固定的経費の内容は判断の難しいものが多くあります。
企業によって勘定科目の名称や仕訳が異なっていることもありますので、元帳を見ただけでは判断できない場合には、補足の調査が必要となることがあります。
また、消費税の課税対象の判断にあたっては、調査対象の事業者が課税事業者であるか否か、決算書が税抜きで作られているのか否かを確認した上で、科目の一つ一つについて「課税」「非課税」「不課税」を仕訳します。
前述の例示の中から、いくつかの科目について課税の区分を示すと次のようになります。
● 課 税 … 基本料金、福利厚生費(ただし慶弔費用は不課税)、広告宣伝費
● 不課税 … 公租公課(租税公課)、賞与、法定福利費、減価償却費
● 非課税 … 地代家賃(住宅家賃(社員寮))(ただし地代(1ヶ月未満)は課税)
固定的経費に限らず、営業補償の算定にあたっては、会計の知識が不可欠です。また、本年4月に「営業補償調査算定要領の解説」が示されたので、これも合わせて理解しておくことが求められます。
編集後記
今年の梅雨明けは平年並みでしたが、梅雨入りが早かったこともあり2週間ほど長い梅雨期間となりました。そして、いよいよ暑い夏がやってきました。まだまだ新型コロナウイルス感染症の猛威が鎮まる気配のない状態ですが、1年延期で東京オリンピック・パラリンピックが開催されました。ワクチン接種と不要不急の外出を控えることが感染症対策の一番の手段と言われており、家でテレビ観戦している方も多いと思います。家の中でも熱中症は発生しますのでエアコン等を活用し、こまめな水分補給を心がけこの暑い夏を乗り切りましょう。
当社は、毎年献血を行っており、今年で連続40年となりました。現場作業での社員の熱中症対策に十分配慮するとともに「継続は力なり」で、より一層皆様のお役に立てるよう研鑽を続けていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。