【公共補償】遊水場
自然施設への影響
ダム建設に伴いこれより上流のA地区、B地区の一部が水没し、貯水池となる。
ダム予定地より約6km上流には温泉があり、春の茶畑の緑、夏の清流と深緑、秋の原始林の紅葉、冬には静かな山里のいで湯と四季折々の美しい渓谷美を成している。
ダム上流約1kmの地区では緩急織り交ぜた流れは川砂利の洲と大小様々な形の石を河床に配置して蛇行し、峡谷とは違った美しさを見せている。
この付近は人為的な汚濁のない清流を保っており、この地の住民の生活に欠く事の出来ない恩恵を受け、小学生・中学生にとっては、アマゴやアユの渓流および清流の釣り場、特に夏期には海から遠く離れたこの地域では河川を自然水泳場として利用してきた。
この地域で水泳に供されている自然水泳場は、水深、流速、河床の状態等安全性を有するとともに部落の近くで利便性に富み、緩やかな流れで適度の水深があり、河床も安全な砂利で適当な広さを有している。
当該ダムの完成によって、これら自然施設は水没し貯水池となる事から水質、水深および河床の状態等自然水泳場としての安全性等条件の悪化を招来する事は明かであり、湛水後の水泳等は不可能であると判断される。
補償の必要性
公共補償の適用
自然施設の損壊に関する公共補償基準要綱の関係条文は、次のとおりである。
公共補償基準要綱
第16条公共事業の施行により起業地内の自然施設(自由使用に供され、かつ地域住民一般の生業又は日常生活に欠く事の出来ない公共的機能を果たしていると認められる自然の状態を言う。)が損壊される場合において、当該自然施設に代替する機能を果たす公共施設の設置を余儀なくされる特別の事情があると客観的に認められる時に必要な最小限度の費用を負担する事が出来るものとする。
公共補償基準要綱の運用申し合わせ
第15条基準第16条(自然施設の損壊に対する費用の負担)は、次により処理する。
起業地内の自然施設が損壊される場合において、当該自然施設に代替する
公共施設とは、河川の流水を地域住民が永年にわたって飲食水・防火用水および学童の水泳場等として利用していた自然施設にかえて簡易水道・防火用水槽・学童教育用施設としてのプール等というものとし、これらの公共施設の設置は、公共施設の損傷同様の公共的機能の喪失に対して行われるよう限定して取扱うものとする。
必要最小限度の費用は、技術的・社会的に最小限度の施設の建設に要する
直接工事費として、当該代替施設の機能が従前の自然施設の機能を上回る場合においては、当該上回る部分については補償しないものとする。
起業地外の自然施設であっても、事業の施行により損壊され、起業地内の自然施設の損壊と同様に取扱う事が必要であると客観的に認められる時、起業地内に準じて取扱う事が出来るものとする。
河川を利用して飲料又は防火用水の用に供している場合等自然公物の自由使用に供されており、かつ付近の地域住民の生業又は日常生活に欠く事の出来ない公共的機能を果たしていると認められる自然の状態(自然施設)の損壊は、公物の自由使用という反射的利益の喪失であるとはいえ、その地域住民一般にとっては、公共施設等の損傷と同様の公共的機能の損失を意味する事となる。したがって、起業地内にある自然施設の損壊については、既存公共施設等とし、公共補償の対象となる。
以上代替の公共施設(プール)は、社会的・経済的にみて必要な施設であるが、その費用は技術的・社会的に最小限度の直接的な建設費であり、間接経費維持管理費は含まないものとする。
プールの建設費は、
- 土地代
- 造成および整地費
- 水源からの取水および排水工事費
- プール本体の建設費
- 更衣室および便所等の施設費
- 殺菌等装置の工事費
自然水泳場に代替するプールの建設
自然水泳場の損失に対して従来通り学童生徒等が、水泳を楽しめるようにプールを計画する事が必要である。
建設場所の選定
貯水池として水没する河川のうち、従来自然水泳場として部落に近い地区および地区の2箇所を選定して指導を行ってきたものである。
ダム建設以前と同等条件のプールという事になれば、A地区とB地区の2箇所必要となるが、2地区の距離は約1kmと比較的至近である事、およびダムの建設による水没家屋の移転によって世帯数、および人口が減少した事から従来自然水泳場となっていた2箇所の中間集落に1箇所のプールを建設する事が妥当であると判断する。
規模・内容の決定
これまで自然の中でのびのびと自由に水泳をしてきた事を考慮すれば、プールの縦方向については長い事が理想的であり、学童・生徒を対象とする標準的プールの規模は25m×13mが一般的であると判断する。